巨樹たち

宮城県大崎市「矢木のカヤ」

老いたカヤの 幹に宿りし 山桜 

 鳴子を抜け、秋田県へ入ろうという道すがら、どこか一か所寄っておきたい。
 そういう「ついでマインド」で訪ねてしまった巨樹です。
 位置的に都合が良いだけで十分で、幹周データなどもリサーチしなかった。
 まったく、失礼千万でした。現地にあったのは、想像を超える大カヤだったのです。

 人気スポット「あ・ら・伊達な道の駅」でツバメの営巣を眺め、ソフトクリームなんか買い、そこからクルマで10分弱。
 赤白の鉄塔と写真の標柱を目印にして草地へ入っていく。
 新緑のこの時期、周囲の色彩に紛れてしまっていますが、カヤの姿は道からも確認できます。

 近づく「矢木のカヤ」。
 この時点で、おおお、これは! などと声が漏れています。
 大きいぞ!

 知名度で採点したら、どうでしょう、☆2くらいでしょうか。
 決してすぐに表(わたしの記憶の巨樹DB)に浮上してくる巨樹ではない。
 しかし、枝張りの広さといい、遠くからもわかる幹の太さといい、実に立派なカヤ巨樹ではないですか!
 いい意味で期待を裏切られ、テンションは急上昇。

 現地解説により、幹周7.5メートルもあると知る。
 カヤ巨樹として、この数値は宮城県内最大ではないでしょうか。
 というか、数ある東北のカヤ巨樹の中でも、これを超えるものといえば、日本一の「万正寺の大カヤ」「塩貝の大カヤ」くらいのものでは。
 それくらい、見るからに太く大きい。

 書籍「宮城の巨樹・古木(河北新報社、平成11年)によれば、根本の祠は「カヤの実権現」とのこと。
 「幹には太いキヅタが絡まり」ともありますが、現在では取り除かれたように見えます。

 すごく立派なカヤでした。
 それだけでも市天然記念物指定の条件としては十分、わざわざ立ち寄る甲斐もあると言えますが、このカヤにはさらにオンリーワンな個性がある。

 ……いや、タイトル時点で出オチ・ネタバレしてるわけですが。笑

 カヤの幹の空洞化した部分からカスミザクラが生え、大きく育ち、樹冠をともに形成している。
 ピンクの色分けが、完全にその着生カスミザクラの占有部分。

 サクラ、おまえってやつはまたムリヤリ……
 と、もはやいちいち例を引く気になれないほどにサクラ寄生パターンによく出会う巨樹めぐり。
 その中でも、このカヤが背負うカスミザクラはずいぶんと大きい。四半世紀前の上記書籍の時点で「直径0.4mほど」あったそう。幹周1メートルを超す立派な木なのです。
 こんなものが生えてしまって、影響ないわけない……黒っぽいサクラの幹の付け根、カヤには腐朽が見られ、向こうが覗ける窓状の空洞が生じています。

 サクラ側のカヤの樹勢が少し心配ですが、一方でそのサクラの勢いはモリモリ良さそうで、季節が来れば常緑のカヤの樹冠に盛大な花が加えられる。
 この美しくも奇怪な絵。解説板にはちゃんとその写真が載っています(画像クリックをどうぞ)。
 すぐ近くをトンコトンコと走っていく陸羽東線の車窓からもサクラの自己主張ははっきり見える。まさに「我が世の春」と。
 大カヤとしてはいい迷惑だと思いますが、こういうのも「縁」と呼ぶのでしょうね。
 間違いなく「腐れ縁」でしょうけど。

「矢木のカヤ」
 宮城県大崎市岩出山池月上宮小原
 推定樹齢:830年
 樹種:カヤ/カスミザクラ
 樹高:18メートル
 根周:7.5メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2024.4

探訪メモ:
 直前の道は狭く、駐車場もありませんが、西へ少し進むと路肩が広々とした個所があります。
 地元の方の草刈りに感謝。

 830年という樹齢根拠がわかりませんが、近所にある「荒雄川神社」に関係があるのかも。延喜式に記された古社です。

4件のコメント

  • to-fu

    おおこれはデカい!からのいや、何かおかしいぞ…なるほど桜癒着タイプでしたか。
    この手の巨樹は開花時期の見栄えが見事なだけに、治療のためにバッサリ切除ともいかないのが難しいところですね。
    しかしこの樹冠、空いた空間に本当にきれいにすっぽり収まってますねえ 笑

    カヤ単体で見てもこれは文句なしの県天クラスだと思います。
    関西圏でここまで立派なカヤというと兵庫の養父市にある「建屋のヒダリマキガヤ」くらいしか思い浮かびません。
    カヤの巨樹は5~6m台のものがずらっと横並びになっていることもあって、7m台になってくると発見時のインパクトが
    一気に変わる印象です。どちらかと言えば…いえ、どう足掻いても地味系に属するカヤ巨樹ですが、ときにはこういう
    大物とも出会えるからやめられません。

    ということで完全にノーマークの巨樹でしたが早速マップにチェックを入れさせていただきました 笑

    • to-fuさん
      カヤ巨樹を見慣れていると、遠目にも違和感を覚えますよね。一部だけ。
      と書いてみて、カヤを見慣れているとか、他樹木と見分けられるとか、世間一般的にはどのくらいのもんだろう? と。笑
      一年通して姿が変わらないし……そこへ行くと、コンビを組まされたサクラってやつは変化の塊ですよねえ。

      なるほど、見比べてみると、確かにという感じがします。
      5メートルクラスだと、お寺にあるなんか暗いイメージの大きな樹という感じで、うーん、そのポストはイチョウでしょ、となりがち。
      しかし、7メートル超えするくらいからカヤも得体の知れないオーラを発し始め、巨樹としての印象のギャップは倍くらいも大きくなる(かも)。
      思わぬ拾いものだった……とか書くとまた失礼ですが、この奇妙な個性も含め、今回の巨樹巡りは幸先いいぞ! と思わせてくれたカヤでした。

  • RYO-JI

    完全に同化してますねぇ。
    新緑が落ち着いた夏場だったらまったく違和感ないかもしれません。
    カヤだけでも充分見応えあるサイズですね。
    全体像を見る限りとてもバランスの取れた形をしており、大きさがダイレクトに伝わってきます。
    カヤからしたら憎いでしかないカスミザクラですが、ほんと上手く同化したもんだと感心しちゃいますよ。
    そのお陰?もあって価値が上がっているとしたらカヤには皮肉としか言いようがありませんが。
    腐敗が心配ではありますが、またもや樹木の神秘を垣間見た気がします。

    • RYO-JIさん
      かなり立派なカヤでしたが、サクラの根はこのカヤにどういう風に張っているものなんでしょうね。
      内側にか外側にか、どこまで入り込んでいるものやら……森の樹は化学物質や菌類の菌糸を使ってコミュニケーションしていると言いますが、このサクラもカヤと何らか意思疎通してたりして? と想像が膨らみます。
      意識しているとこういう探訪が増える。流行りの「引き寄せの法則」ってやつでしょうか。
      いや、単に興味があって引き寄せられているだけですね。笑

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