巨樹たち

【倒壊】岐阜県瑞浪市「大湫神明社の大杉」

 2020年7月12日、岐阜県瑞浪(みずなみ)市大湫(おおくて)の大湫神明社で、推定樹齢1000年超とされる県指定天然記念物の大杉が倒壊しました。
 隣の長野県恵那市の雨量計では、24時間の降水量が130.5ミリもの大雨を記録したとされ、地盤が緩んだことが原因だったようです。

 ニュース映像を見ると、大杉の驚くべき大きさとともに、事態の悲痛さが伝わります。

 この「大湫神明社の大杉」は、地上1.3m地点での幹周囲が11m以上と、抜群の大きさを誇っており、巨樹ファンとすれば見逃せない存在でした。
 画像は、瑞浪市のホームページから。「瑞浪のPRをしていただけるのであれば、本サイトの掲載画像を使用ください。」とあるので、拝借させていただきます。

 ……というのも、次岐阜県を訪ねたら必ず寄ろう!と、目的地の筆頭にマークしながら、まだ訪ねていない巨樹でした。

 「いつでも大丈夫だろう」などという慢心からではなく、岐阜県のこの辺りが「巨樹の聖地」と呼んでもいいくらい、魅力が集中した土地なのです。他の土地にあったなら完全にトップを張れるような……例えば、それこそこの樹のような巨樹に複数会える土地です。
 本当にすごい巨樹というのは、単にスタンプリレーの題材などではなく、心を動かすあまり同日に多くは回れないものだ……と実感させてくれます。

 そういった事情で「きっと次に」と楽しみにしていたのですが……「大湫神明社の大杉」は、永遠に会えない存在となってしまいました。コロナと気候変動が心底恨めしいです。

 報道を目にした時は、「嘘だろ……」と、しばらく身動きできなくなってしまいました。
 傍のイチョウにもたれかかるようにゆっくり倒れたらしく、家屋などへの被害は比較的少なかったのが不幸中の幸いです。

 映像を見ていて感じたのが、これだけの大杉にしては、根のボリュームが少ないのではないか? ということ。
 他のスギの巨樹では、それこそ大枝のような根がかなり離れた箇所にまで飛び出してきていて驚かされるものですが、この幹の大きさにしては規模が小さいのではないか? と。
 もっとも、幹のあまりの重量に引きちぎられてしまったのかもしれません。

 ……とは言え、まだまだ余命はありそうな大杉でした。
 落雷炎上したとか、台風で真っ二つになったわけでもない。
 ひょっとして、このままもう一度立たせてあげたら、生き続けることができるのではないか……などと考えてしまいました。

 しかし、どうやって?
 自衛隊さんの輸送ヘリ「チヌーク(写真は自衛隊のではない)」が真っ先に思い浮かびましたが、この機体の最大吊り下げ能力は合計11,793kgとのこと(完全にWikipedia情報)。
 どう見てもこの杉がそれで立ち上がるようには見えない……と、個人的には思ってしまうのですが、実際にはどうなのでしょうか。
 陸上のクレーン車であれば、もっと大重量を吊れるものがありますが、道が狭そうで入れないでしょう。

 もしこのような大作戦が敢行されるとすれば、何を置いても現場に駆け付けたいところですが……しかし、現実は厳しい(それはそうだ)……見に行くだけでも、コロナと大雨が行手を阻みます……。

 1000年も生きてきたものが、今日、倒れてしまう。そして自分は、それを見ることが永遠にできなくなってしまう。
 巨樹を追っていると、案外度々味わされるジレンマです。
 「後でいい」なんてことはないし、「いつも同じ」なんてことも決してない。
 何より、巨樹は今現在も生きていて、いつか死ぬ存在であるのだと、今回も強烈な実感を得るのでした。

 まだまだ大雨は続きそうです。
 大杉は残念ですが、現地の方々、そして我々も、気をつけて無事で乗り切りましょう。

「大湫神明神社の大杉」
  岐阜県瑞浪市大湫町398
  大湫神明神社
 推定樹齢:1200年
  2020.7.12倒壊
 樹種:スギ
 樹高:40メートル
 幹周:11メートル

 未探訪メモ:
 それでも、次回岐阜県に行けるようになれば、この地を訪ねてこようと決めています。
 一日も早い復旧と、コロナ終息を心より祈ります。

 「大湫大杉を応援する若手有志の会一同」様により「大湫町 御神木・大杉応援サイト」発足しました。
 大杉の写真、動画に加え、今後の復興についてもお知らせいただけます。
 現地の皆様の大杉に対する思いの強さが伝わってきます。

4件のコメント

  • to-fu

    報道を見た瞬間、これだけ綺麗に倒れてくれていたらむしろ起こせるのでは?と同じことを考えました。しかしこれ、やっぱり根が根本からズバッと引きちぎれてしまっていますよね。もしこの異次元の質量を誇る巨樹を仮に起こすことが出来たとしても、残された僅かな根からこれほどの巨体を養えるだけの水分を供給することは難しいでしょうねえ…

    岐阜県の「伊野一本スギ」のように細切れにされるのでしょうが、せめて木材として何らかの活用ができないものでしょうか。雨に打たれれば打たれるほど使いみちが無くなってしまうと思うので何卒…とは言うものの、兎にも角にもまず人命、そしてインフラの復旧からですよね。せめてスギの一部だけでも御神体として、そしてこの地域の歴史として神社に遺していただきたいものです。

    自分も同じく、またこのエリアを訪れる際には是非とも立ち寄ってみようと思っています。この10年ほどの間で日本の気候が大きく変化してしまったのを感じます。今まで数百年間当たり前のように立っていた巨樹がこうして一瞬で倒壊するような自体が珍しくなくなるのかもしれません。残念ながら人間は人間で結構大変な状況なので今すぐには動けませんが、生きているうちに絶対行く!と決意している巨樹は具体的な計画を立てておかなきゃならんなと危機感が芽生えました。

  • to-fuさん>
    根張り面積が発達しなかったために倒れたのかと思うわけですが、根が貧弱であれば、ここまでの巨樹には生育できないですよね。
    もちろん、見た目以上の老化があったのかもしれませんが、もともとやや傾斜したところにあって、傾き始めたら止められなくなったという感じだと思います。
    そうですよね……このまま起こしてもおそらくは枯れてしまうでしょう。
    ならば、倒れる前に危ぶまれて支柱などが整備されていればとも思うわけですが、その想定をも超越する豪雨が降ったということなのでしょう。残念です。
    このような場合にどんな判断が巨樹になされるのか、学んで記憶しておきたいところです。

    人間の活動が気候変動に大きく影響を与えているのは間違いない。
    加速度的に進行していくそれを急ブレーキかけることは大変難しいと思います。
    こういった天然記念物や文化財と人間自らが認めたものだけでも、ちゃんと把握し、できる限り自らの手で保護するのがいいのかなと思います。
    もちろん、個人レベルではなし得ないことですが、ちゃんと見て、価値を実感することはとても大事ですよね。

  • RYO-JI

    普段目にする巨樹の姿と違って、地面に横たわっている姿は衝撃でした。
    上空からの映像は、皮肉にもこのスギの大きさを知るには充分過ぎるほどのインパクトがありました。
    大きな範囲で考えれば、スギが1000年生きるのも災害で倒壊するのも自然の摂理と言えますが、
    それにしたって何もこんな貴重な存在を・・・と悔やまれます。
    しかし起こってしまったものはどうにもできませんし、せめて自分の心の中に刻んで以後の行動の指針にもすべきだなと。

    応援サイトも拝見しました。
    地域にとってとても大切な存在だったということがわかります。
    こういう趣味をやっていながら、写真提供できないことが歯痒いです。

  • RYO-JIさん>
    そうなんですよね。直立しているものを仰ぎ見ると、どうしてもパースがかかってしまいます。
    こうして横倒しになると、本当に途方もない大きさの巨樹だったんだ……と唖然とし、そこがまた、訪ねることができていない無念を強くしてしまいます。
    ここに立ったからこそ、これほど大きくなった。そして、ここに立っていたから、今終わりを迎えた。
    摂理といえばそうかもしれません。教えてくれるものは多いですね。

    そうなんですよね、せめて写真提供ができれば……と僕も思いました。
    岐阜を訪ねていながら、ルートどりの関係で次に回していたことが本当に悔やまれます。
    それとともに、やっぱり写真を撮ることは意味があるのだと、これからも続けて行こうとも思いました。

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