巨樹たち

福島県伊達郡「万正寺の大カヤ」

幹周日本一の大カヤ

 福島県の中通りの北部に位置する桑折(こおり)町に来ました。
 国道4号を南下、住宅街の中に分け入っていく。東北本線の線路を超え、東北新幹線の線路を高架下のトンネルでくぐる……。
 この線路が境界線になっているかのように、道はやや上り坂傾向となり、周囲にも田畑や緑が増えてきます。

 東北自動車道の高架橋にぶつかる寸前で、唐突に巨大な傘状の樹冠に出くわします。
 「うわすげえ!」と同時に、「こんなとこにあるのか!」と驚きが洩れます。
 (上記写真はもちろん下車してから撮りましたが、すぐ背後が高速高架のトンネルです。)

 これこそが環境省調査で樹種別幹周日本一とランクされた「万正寺の大カヤ」
 均整と威厳を感じ、巨樹の殿様とでも呼びたくなります。
 樹冠を見上げながらノロノロ運転していると後続車がつっかえてしまう。とりあえず駐車せねば。

 手持ちの書籍には「駐車場なし、路肩に停めるしかない」とありましたが、十数年の間に整理されたのでしょう、カヤのすぐ隣に数台分のスペースが整備されていました。

 隣地は老人福祉センター「大かや園」
 続いて駐車したおばあさんいわく、「大かや園」には温泉(!)があり、お風呂だけ入りに来る人も多いのだそう(「私もそうなんですけどね」)。
 日帰り入浴客用と兼ね、大カヤ見学にも使って良い駐車スペースのようです。

 改めて、下車して樹下から見上げた「万正寺の大カヤ」です。
 枝張りは長いところで30メートル近くあるといい、幹周囲に囲いが設けられていつつも、スタスタと樹冠の下を歩き回れてしまう。
 まるで豪農の古民家の巨大なかやぶき屋根の下にでもいるような、重たい安心感がある。

 福島県でカヤといえば、浪江町「塩貝の大カヤ」もカヤという樹種の固定観念をぶち破るような巨樹でしたが、こちらはさらに、明らかに大きい!
 そして太い。幹周は8.7メートルと記録されていながら、株立ちの散漫さは全く感じない。
 分岐した大枝一本一本も、ご覧の通り、幹のごとき太さです。

 やや扁平な樹形をしており、見る方向によって姿が大きく変わる。
 おそらく最も細く見える角度から見た図がこれ。細……いや、これでも全然、巨樹的に不足ない太さだとしか言いようがないですね。
 カヤってこんなに巨大な樹でしたっけ……?
 唖然としますが、カヤ以外のどの樹種にも見えないんだから、ほんとに文句のつけようがない。

 樹種に対する無意識下の偏見でもあったのか、そこまで期待値は高くなかった。
 しかし、実物を目の前にすれば、実測するまでもなく、これこそが樹種日本一だ! と納得できてしまう。
 それくらい稀有な大きさだと思います。

 そして何より、樹勢がとてもいい。
 何周も眺めて回りましたが、腐朽や枯損は見当たらないし、折損の痕もところどころ人の手を借りつつも完治している。
 陰湿なところが全くなく、乾いた樹皮の質感と濃い緑の葉の対比が美しい巨樹です。

 県指定天然記念物。
 大カヤの出生については諸説あるようですが、「伊達宗家初代当主・伊達朝宗(ともむね)が伊達郡に入部した記念に植えた」との説だと、文治5年(1189年)の奥州合戦の勝利がキーになってきます。
 敵大将を生け捕りにした功により、朝宗は源頼朝からここ伊達郡を賜った。これを契機に伊達姓を名乗るようになります。
 この際の記念樹だとすれば、樹齢800年(解説では平均化したか、700年)程度と推定される。

 面白いことに、全く同じエピソードを背景にもつカヤ巨樹が栃木県にも存在するそうです。
 「遍照寺(へんじょうじ)のカヤ」がそれで、県指定天然記念物、樹齢約800年、樹高24m、根本周7m、胸高周6m。
 栄転記念と着任記念にそれぞれ植樹しているみたいなもんで、よっぽどカヤが好きだったんだなと。
 伊達家のゆかりの地を訪ねると、政宗が植えた「東昌寺のマルミガヤ」や、定宗(涌谷伊達家)菩提寺の「祇劫寺のマルミガヤ」など、いくつもカヤ巨樹に出会うので、伝統化していったのかもしれません。
 その元祖と言えるのが、この「万正寺の大カヤ」、なのかも。

 解説にも、ここが古来墓所だったらしいと書かれている。
 というか、もちろん「万正寺」だったのでしょうし、油が採れ食用にもなる、慈しみと実用の樹種カヤがもっぱらお寺に植えられていることは巨樹巡りの定番説です。

 スギやクスとは異なる存在感と質感で楽しませてくれるカヤは、東北ではまぎれもなくメインの樹種のひとつ。
 ぜひご注目を! そう発信したくなりました。

「万正寺の大カヤ」
 福島県伊達郡桑折町万正寺大榧4
 推定樹齢:700年
 樹種:カヤ
 樹高:16メートル
 幹周:8.7メートル

 樹種(カヤ)幹周全国第1位
 県指定天然記念物
 訪問:2024.2

探訪メモ:
 踏切や高架をくぐるトンネルの位置についてナビ使用推奨。

 「大かや園」の温泉は400円で誰でも入浴できるそう。ひとっ風呂浴びてから日本一のカヤを眺めるなんてのもオツかも。
 また、ロビーには「国指定史跡桑折西山城跡ガイダンス施設」と称し、解説や出土品の展示があるそうです。
 城址は桜の名所でもあると入浴客のおばあさんが勧めてくれました。

4件のコメント

  • RYO-JI

    日本一のカヤ、さすがの貫禄ですね!
    幹周だけじゃなく樹冠の広がりが見事で堂々たる姿、文句のつけようがありません。
    ここまで勢力を拡大すると支柱無しでは過ごせないでしょうが、それにしても支柱の太さと数もランカークラスですね。
    半端なヤツには任せてられるか!というくらいに。

    有難いのはアクセスが良さそうな所にある点。
    愛好家は僻地でも喜んで出掛けてしまう人種ですが、一般の人にも目に付きやすいのが良い。
    ましてやお風呂にも入れるですって?更に有難いですね。

    • RYO-JIさん
      手元の書籍の写真が幹のアップだったりして、すると縮尺も全体像もわからず、いまいち魅力が伝わらなかったこともあるかもしれません。
      同じ理由で、どんな場所にあるのかも想像つかなかった。道がちょっと細い以外はアクセス難もなくて、訪ねやすい巨樹だと思います。
      支柱も電柱クラスの太さです。この支柱が古くからあったからこそ、この見事な枝ぶりが維持・形成されたはずで、地元の思いの厚さが表れているとも言えますね。
      カヤは年中姿が変わりませんが、ルートが合えば立ち寄りたいですね。
      春なら城址で花見のうえ、温泉、史蹟の資料見学、そして巨樹! やってみたい。笑

  • to-fu

    うおお、これは凄い!
    このカヤは流石に関西の私でもマップの行きたいところリストに加えておりましたが、
    自分がイメージしていた姿よりもずっと立派で驚きました。
    群馬で見た「横室の大カヤ」も立派でしたが、それをググっとx1.25くらいに拡大表示したかのような姿。
    それも特に目立ったダメージが見られないのだから素晴らしい。いやー、これはカヤ界の宝ですね。

    ああ、こりゃ是非とも寝間着で牛乳瓶片手に眺めてみたいものです 笑
    横室の大カヤ同様に国天指定されて然るべき巨樹だと思いますけどねえ。
    国の宝として大切に保護してあげてもらいたいです。

    • to-fuさん
      東北でのカヤ訪問を重ねるたび、樹種としてのプライオリティが上がる感じがしています。
      この「万正寺の大カヤ」を見たことで、「横室の大カヤ」も訪ねないわけにはいかない気分になってきました。
      今回のオマケとして知った「遍照寺のカヤ」も栃木県にありますし、カヤ界隈もビャクシン界隈と同等くらいの熱量を帯びていること明らかです(個人の感想です)。
      確かに、この巨樹には国天の称号がふさわしいと思いますね。これに比肩するカヤとなると、それこそ全国を視野に入れて探さないといけないわけですから……。

      宮城から福島に南下する旅では立ち寄りやすい部類だと思うので、再訪もしようと思っています。
      おふろまで入るかはわかりませんが……ああでも、どんな温泉かは気になるな笑……車中泊の巨樹の旅に加えるには最強のポイントかもしれませんよね。

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