巨樹たち

福井県大野市「専福寺の大欅」

大欅道のグランドマスター

 福井県北東部、岐阜県に接し、山地的性格の色濃い大野市。
 真名川という川のそば、専福寺というお寺に大ケヤキを訪ねます。
 同行してくれたRYO-JIさんも同意見でしたが、実は期待値は高くなかった。
 幹周囲こそ11メートルという数値ですが、傷んでちんちくりんに切られてしまった巨樹らしいし……。
 お昼ご飯後のネムさもあって(まったく巨樹に対して失礼なテンション)……
 図らずもお寺の門前の細道を車で横切ることになったのですが、思わずブレーキを踏んで、1、2秒動けなくなってしまいました。

 車窓の私:「えええっ!?」

 不意打ち。驚きすぎて車ごと用水路に落ちるかと思いました。
 切られたとはいえ、人間たちを驚愕させるのなんていとも簡単。
 そんな重厚無比な佇まいで「専福寺のケヤキ」は視界に現れました。
 だいたいにおいて、幹周囲11メートルのケヤキの巨樹の存在感とは……それを前に人間はどんな衝撃を受けるものか、まるで想像が足りていませんでした。

 ほとんど太さを変えずに立ち上がった岩山のような幹は、いかにも硬そうで、超絶な重量を想像させる。
 特有のこの迫力、圧迫感……。
 そう、撮っている最中から、これは全然伝わらないな……と、諦観がありました。
 写真にテキストを山盛りしても、もう半笑いで肩をすくめるしかない。

 なので我々としては、せめて存分に途方に暮れることにしました。
 写真のタイムスタンプから、40分強、途方に暮れていたことになります。
 せっかくだから見て行くかあ……的なノリで来た我々の心の動きというもの、ご想像頂ければ幸いです。

 せっかくまっすぐ育ったのに、幹幹周の数値より樹高の方が小さくなってしまうなんて、樹としたら不本意でしょうね。
 しかし、ボロボロの体でかろうじて立っているだけなのかと思いきや、この広範囲に茂った豊かな緑はどうだ。
 倒壊さえしなければ、まだまだこのまま長生きできそうです。

 大きすぎてお寺の門と比較するしかない。
 立派なお寺で、門だって大きいんですが……ケヤキがそれを小さくしてしまっています。

 途方に暮れていると、お寺のお仕事をされていると思しきご夫婦が出て来られ、少しお話しすることができました。
 こんな姿になってしまって……と、気遣っておられるようで。
 「柵の中に入って撮ってもいいよ」と特別に勧めて下さいましたが、樹のためを思ってありがたく辞退しました。

 主幹のすぐそばから、まだ細いひこばえが育っていました。
 福島県「三田八幡神社のケヤキ」がしたように、新たな世代へのバトンタッチを準備しているのでしょう。
 巨樹のもつ強さとタイムスケールの長大さに、今回も感嘆する他ありませんでした。

 解説板。
 近くに小学校跡地の碑もありました。寺子屋からの歴史があるのかもしれません。
 15世紀、この大ケヤキ目当てにお寺が建立されたと明記してありますね。
 当時すでに他を圧倒する巨樹だったことは間違いないわけで、最低でも樹齢800年とする推定にも誇張はなさそうです。

 Wikipediaでケヤキの項を調べると、ケヤキの巨樹の代表として、大阪府「野間の大欅」に並んでこの「専福寺の大欅」が載っています。
 異存無い。まさに大欅の代表選手といって差し支えないと思うのでした。

 老いて派手に崩壊しつつも、存在感の強大さは決して損なわれない。
 ケヤキ巨樹の生き様にはたびたび「欅道」的哲学、美学を感じます。
 「専福寺の大欅」はその道の「師」と仰ぎたくなるような巨樹です。

「専福寺の大欅」
 福井県大野市友兼5−2
 専福寺
 推定樹齢:800年
 樹種:ケヤキ
 樹高:8メートル(主幹部分)
 幹周:11メートル

 国指定天然記念物
 訪問:2018.5

探訪メモ:
 お寺の駐車場に停めさせて頂き、ゆっくり堪能させて頂きました。
 周囲の田園風景もまた静かで美しい。

 巨躯に圧倒される感覚は、最もシンプルな巨樹の醍醐味で、クセになります。
 実際にこの目で見ないと意味がない……再訪したい巨樹のひとつです。 

「2018年・福井~兵庫巨樹探訪旅」もぜひご覧ください。

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