巨樹たち

福島県いわき市「フルナの樅」

類稀なる夫婦円満樅

 福島県いわき市、「沢尻の大ヒノキ(サワラ)」に再訪を果たした後で、偶然その存在を知った巨樹です。
 樹種はモミ。「フルナの樅」、または「東松院の夫婦樅」というようです。

 少し走ったところで地域の観光案内看板を見つけまして、なんの気なしに見ていたら、巨樹情報もちょっと載ってるじゃないですか。

 日暮れが近づいているので深い探索はできないが……と、あれ、真っ直ぐ進むだけで遭遇できる樹もあるぞ?
 そんなわけで行ってみることにしたのがこのモミというわけです。

 車で走っていて本当に偶然巨樹に出くわすこともありますが、こういう案内の情報も侮れません。
 あれば取り合えず見ることにしています。

小さい写真はクリックで拡大します。

 所在地であるというお寺に到着。
 モミは裏山にあるようで、ここからでは全く見えません。
 そのためか、このすぐ隣に巨樹の解説板だけがあります。

 それがこちら。どうやら単体の巨樹というよりは一群としての天然記念物指定のようです。
 その中でも、もちろん注目はこの「夫婦樅」です。

 お寺の門を入っていき、裏山をあおぎ見ると、なるほど、何本もの大きな樅が見えます。
 しかし、どこから登っていくのかわからない。
 一番見える場所まで行くと、そこは古そうな墓地で……すぐ急斜面なので、お墓を踏ん付けるような感じで登っていくわけにはいきません。

 ならば逆だろうと行ってみると、けたたましく犬に吠えられました。
 刺激しないように遠回りで探り……我ながら怪しい行動だと思いますが……すると、建物に隠れるようにして裏山へと続くとおぼしき石段を発見しました。

 そこからは、ちょっとした散策路みたいな感じで登っていきます。途中で、日本仏教というよりガンダーラな風味のする仏様の銅像(新しい)があったりもします。 

 

 

 

 しばらく進むと、背が高いモミたちが目立ってくるようになります。確かにこれらも注目に値するほどに大きい。
 そして、その中でもひときわ大きな一本の前で自然と足が止まりました。
 これが目指してきた「夫婦樅」のようです。

 正面に立ってみると、確かにこれは夫婦モミです。
 ここへきて、「おいおいどれが一体夫婦モミなんだよ?」と迷う方はいらっしゃらないと思います。
 が、足下には「フルナの樅」と名札がありますね。あえて違う名前がついています。

 フルナって何のことだろうと、戻ってきてから調べてみました。
 先ほどのガンダーラな雰囲気といい、このお寺の方針として読めば、富楼那弥多羅尼子、つまり、釈迦仏の十大弟子の一人とされる「富楼那尊者」のことではないでしょうか。

 「十大弟子中では最古参であり、大勢いた弟子達の中でも、弁舌にすぐれていたために説法第一と称された。」

 ……とのことです。
 並いるモミの中でもひときわ大きいという意味で、このありがたい名前をつけたのではないでしょうか。

 

 解説板によれば、胸高直径170cmの雄モミと胸高直径85cmの雌モミが根で繋がっている、とのこと。
 単純に円周率をかけると、雄モミは534cm、雌モミは267cmの幹周ということになります。

 当然これは2本の株立ちとなるわけですが、解説板を読んだ際に浮かべた印象より、だいぶ合体樹に近い。
 これだけぴったりと寄り添っているので、正面に立った時のインパクトは一本の巨樹と言っても言い過ぎではないと思います。

 ということは、単純に、自分は今、7メートルオーバーのモミを見ているということでは!?
 ……まあ、まあ、それは飛躍しすぎかもしれません(モミで7メートルオーバーというのは、全国的に見てもかなりのランカーです)。

 しかし、こうしてヒューマンスケールを撮ってみると、なかなか大した迫力があります。
 樹高は高く、葉や樹皮など健康状態も良さそうですし、巨樹好きならチェックすべき大モミとして記載すべきだと思いました。

 で、なんというか……じっくり見ていて感じたことは、これほど仲が良い「夫婦樹」を見たことがないな、と。笑
 同日に訪ねた「諏訪神社の翁スギ媼スギ」はどこか仕事で並んで立っているような感じがしましたし(失礼)、ときがわ町の「萩日吉神社の児持杉」では、絶妙な距離感を保つことが円満の秘訣……やめましょう。

 この樹たちを見ていると、連理の度合いは年々増していっているように見えます。
 夫婦仲がどんどん良くなっている……というか、あの、ちょっとイチャイチャしすぎじゃないですか?

 

 そう思ってしまうと、ぴったり寄り添っているどころか、肩を抱き寄せているようにも見えるし、足を絡ませているようにも……
 すみません、生まれつき想像力が豊かなもので、見ていて恥ずかしくなってしまいました。

 「フルナの樅」、稀に見る円満夫婦の樹として、もっと知られても良い……なんなら、夫婦円満縁結びのご利益があるとして宣伝しても十分理解される樹でしょう。
 そんなことを思い浮かべながら帰路につきました。
 思いがけず、最後に面白い巨樹に出会えたものです。

「フルナの樅(東松院の夫婦樅)」
 福島県いわき市川前町下桶売字 東松院
 推定樹齢:600年
 樹種:モミ
 樹高:36メートル
 幹周:5.3メートル(雄の樹)

 市指定天然記念物
 (樅群として)

 探訪メモ:
 GoogleMapには登録がない巨樹で、とりあえず左記の位置は記憶を頼りにしたものです。
 東松院から散策路は一本道なので、迷うことはないと思います。

 余談:
 あくまで合体樹であることを踏まえた上で、上記で触れた数値のモミとして考えると……実際「胸高7メートル後半のモミ」の存在感というのは、日本で3本指に入る大きさになります。
 1位「追手神社の千年モミ」が胸高周囲780cm。
 単幹としてのモミは、やはり7m台が限界値なのだとわかります。

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