巨樹たち

兵庫県丹波篠山市「追手神社のモミ」

日本一のモミを前に手も足も出ず

 奇怪、奇態、異形……。
 巨樹たちが繰り出す無数のバリエーションを満喫してきましたが、そのいずれも持たない巨樹。
 おかしなところは何もないというのに、驚くべき巨樹です。
 日本最大のモミである、「追手神社のモミ」。

 その幹周は7メートルをゆうに超えるという。
 無論、その予備知識も姿形も知った上で現地にやってきましたが……
 それでも実物を前にすれば驚愕の声をあげざるを得ない。
 日本最大のモミとは、こんなにも「大きい」ものなのか! と。

 何の小細工もない、ただただ巨大なモミの樹。
 それがこの巨樹の全てです。
 どの角度から見ても整った姿を誇っているので、それ以外に伝えるべき事柄が存在しない。
 現地でカメラを向ければ、この難しさに容易に気づきます。
 つまり、この「大きさ」=この巨樹の魅力は、写真では正確に伝えられだろう、と。

 愕然としながらシャッターを切っています。
 魅力や個性がないのとは違う。
 あまりにも大きく、高く、そばに立つと息を飲むこと間違いなし。

 幹はきれいな垂直を維持して高く高く育っていますが、全域で太さもほぼ変わっていないように見える。
 そのため、どこか人工物めいた、塔のような存在感さえ感じる。
 プレキャスト・コンクリートで同じ形の円筒を作り、ひたすら積み重ねてみた、みたいな……。
 鉄ではこんな直径のものは作れないだろうし……いや、コンクリートでもワイヤーでテンションを加えなければ無理?

 などと考えると、このバランスと造形は巨樹でしか成し得なかったものではないか、とも思えてきます。
 こんなものがドン! と何百年も存在し続けているのは、単純に物体としてとんでもないことでしょう。

 バカ単純に巨大化したこのモミの根元に立っていると、自分の身長が30センチになったような気がして落ち着かなくなる。
 そういうことなのです、この「どうしようもなさ」は……。
 「追手神社のモミ」を真面目に撮ったとして……
 写真として出来上がってくるのは『「ただのモミの樹」に見えてしまう写真』でしかない……。

 二人で来ていたことが、この場合の最大の武器となりました。
 そうです、秘策(でも何でもない)ヒューマンスケールです。
 巨樹探訪の相方のちっこい姿こそが、この日本最大のモミの偉大さを見る方に示してくれるはず!

 そうして交代交代に撮りました。
 どうですか!? 伝わってますか!?

 この「ただただ巨大」ということの凄さにおいて国指定天然記念物となった巨樹。
 樹高的に同等のモミも見たことはあります。
 が、このモミは確かに圧倒的に「大きい」!

 鉄塔のごとき支柱は数年前の資料写真には写っていなかったもので、この規模の大きさにも驚きました。
 モミは自立していますが、空洞化しているということで、倒壊の被害を防ぐためだそうです。
 確かにこの巨大質量がいきなり崩壊したら……考えるだけで恐ろしい。
 直立単幹である以上、その日はいつか……近いのか遠いのかわからないが、必ず訪れる定めには違いない。
 これからも高く、まっすぐ立ち続けて欲しいと心から願います。

「追手神社のモミ」
 兵庫県丹波篠山市大山宮 
 追手神社
 推定樹齢:300年以上
 樹種:モミ
 樹高:35.58メートル
 幹周:7.68メートル

 国指定天然記念物
 訪問:2018.5

探訪メモ:
 駐車場が見当たらず、横道を少し入った広めの路肩に停めさせて頂きました。

 境内には「夫婦銀杏」「ムクノキ」「エゾエノキ」もあります。
 さらに近隣には「和泉式部の墓」「明智光秀の金山城址」「天下の奇岩・鬼の架橋」などハイキングコースとして魅力的な景勝もあるようです。

 巨大モミの「クリスマスツリー現象」にめまいを起こしながらふりむけば、追手神社の狛犬サンはとろけたようでとってもユーモラス。

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