巨樹たち

兵庫県丹波市「柏原の大けやき(木の根橋)」

巨樹と人との幸福の架け橋

 丹波市に入り、兵庫編のシメと決めていた巨樹に向かいました。
 急斜面登坂からビリビリ電流トラップまで、この旅も色々直面してしまいましたが、今回の巨樹は有名で、柏原市のど真ん中にあるらしい。
 「かしわばら」ではなく「かいばら」、と小さく躓くところに、遠くまで来たなあと感じます。

 日頃資料を参照させて頂くことの多い、「巨樹・巨木林の会」のサミット第一回が行われるきっかけにもなった「木の根橋」こと「柏原の大けやき」。

 現地到着、下車、知らない街に若干きょろきょろしながらも、よく目立つその姿をすぐに発見。
 幹周囲は6メートルを超えるとあって、なかなかに立派な姿。
 変わった支柱が設置されていますが、健康状態は良さそうです。
 樹冠の緑が背後のレトロな町役場の建物とマッチして、風景として美しい。

 しかし、6メートル級のケヤキというのは残念ながらありふれている。
 その点、根回りで評価するのであれば、かなりいい線行くと思える巨樹です。
 幹周測定の仕方はかなり厳格に行ったと見ました。えらい。
 それにしてもものすごい根張りだ、と回り込んで行くと……

 この樹最大の特徴がこれ。
 長く伸びたケヤキの根が橋と並行して川を横断しているのです。
 その長さ6メートル、まさに「木の根橋」、その名に偽りなし。
 県の天然記念物にも指定され、樹木の驚異として書籍でも大きめに取り上げられていましたが、やはり現地で味わう実物の迫力は格別です。

 ケヤキを撮っていると、観光協会からおじさんボランティアチームが出動し、積極的に説明を買って出てくれます。
 この一連の写真を撮るに当たっても常におじさんがそばにおられ(笑)、熱意をもって解説してくれています。

 川面から見上げた「木の根橋」。
 おおお、これは……なかなかの奇観!
 書籍の写真ではこんなに強い印象は受けなかったぞ。
 ああはい、見ようによっては確かに木の根橋ですね、みたいな感じだと想像してたのです。

 しかし、この木の根橋部分だけでも最大周が3メートル以上もあるとは!
 ケヤキ本体の幹周囲は6メートルですが、この樹が成し遂げたことは9メートル分以上のものが確実にあるでしょう。
 これが幹なのか、根なのか……一体ケヤキは自分で何だと思ってるだろうねえ? とは、ガイドのおじさん談。
 確かにそう。これは、横に伸びた幹なのかもしれない。

 ちなみに、ご覧のように、この部分はコンクリートの橋に支えられていません。
 それ自体で踏ん張っているまぎれもない「橋」であることもすごい。

 再び、川の下を覗き込む。
 根ははるか川床まで下り、思う様水気を吸っています。
 もはや壁状にまで発達した根はすごく堅牢で逞しく、橋ばかりか護岸まで形成している樹と言えるでしょう。

 この樹がこれほどまでになったのも、実は織田家が関係しているとのことです(おじさん解説)。
 信長の弟、織田信包(のぶかね)がこの川の工事に関わったそうで(お壕の役割もあったらしい)、この変わったケヤキを知った。
 当時は木造の橋の上を土で覆った「土橋」があったそうですが、ケヤキはその土橋に沿って根を張ったため、このような格好になっていたらしい。
 殿様はこの樹のことを気に入り、切らずに残したばかりか、一部工事を変更して「木の根橋」を保護したのだそうです。

 なるほど……。昔から人の心を惹きつける巨樹だったのでしょうね。
 スーパー・ガイド・おじさんに半ば引っ張っていかれ、観光協会の建物の中に。ああ、クーラー涼しい……。

「これが何々で、これが織田それがしのアレで、コレが向こうのあっちで、それから」

 歴史に疎いのと、おじさんの説明と資料メクリスピードが速すぎ、あんまり把握できず、ごめんなさい……が、その中の一葉。

「これ! これに用がある! ちょっと最重要!」

 おじさんは、こちらの異様な食いつきに、「お、おう」とちょっと引きつつも、ケヤキについての解説図版を見せてくれました。

 これは……何もかもが素晴らしいです。
 何と愛されている樹なのかと、心があたたまる。

 まずすごいのは、大きくなりすぎたケヤキを切ることなく、役場の建物を一部撤去したという。
 これ、99%は逆の展開が起きますよね。
 そのあとも、ケヤキの傷みを心配して定期検診を行い、治療や支柱を設置するなどしている。
 さらには、根を守るために、道路を橋梁化する工事まで行っているという。

 ここまで手を尽くされ、文字通り「柏原のシンボル」として皆が愛している。
 1本の樹のために、ここまでできるものなんだなあ……と感動してしまいました。
 もちろん予算の問題は高い壁として立ちはだかったでしょうが、それをもクリアしてしまった。
 すごい熱量がそこにはあり、今こうして茂る緑は、その結果勝ち取った柏原の誇り以外の何物でもないでしょう。
 もちろん、おじさんたちの口調からも、「俺たちは願ったことを実現できるんだ!」という自信をびしびし感じ取ることができました。

 解説文は現地ではもはや必要ありません。
 ガイドおじさんの白熱解説を受け、観光協会で素晴らしい手書きの資料を見せてもらうことを断然お勧めします。 

 巨樹とは、単に数値だけで見るものではなく、その存在自体が文字通り大きなもの。
 すぐそばの柏原八幡宮の石段から見下ろす景色も、またいい。
 いかにも町の真ん中のシンボルツリーです。 
 誰もが知っていて、誰もがそれを「わが町の代表」と呼ぶ。
 樹と街、双方にとって幸福な光景だと感じることができました。

「柏原の大けやき(木の根橋)」
 兵庫県丹波市柏原町柏原5−1
 推定樹齢:300年以上
 樹種:ケヤキ
 樹高:25メートル
 幹周:6.4メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2018.5

探訪メモ:
 すぐ近くの「柏原八幡神社 参拝者鳥居前駐車場」に停められれば下車一分のアクセスです。
 織田信包の統治にあった柏原藩、ゆかりの神社など歴史散歩も楽しく、くつろげる雰囲気のある町でもありました。

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