巨樹たち

埼玉県比企郡ときがわ町「姥樫」

山中に孤立するものすごく怖い巨樹

 今回のときがわ町の巨樹巡りも、この樹で最後になります。
 到達まではそこそこの動揺を経ましたので、それは後ほど旅の記事にリンクを貼りたいと思います。

 ……で、この巨樹ですが、僕がこれまで出会った中でも、トップクラスに恐ろしい形相の樹でした。

 「姥樫」。
 深い森林の中に埋もれるようにして立つ古い樫の巨樹で、地元の人は「ウバッカシ」と発音するようです。

 場所としては、「越沢稲荷の大スギ」と同じ椚平(くぬぎだいら)という地名ではありますが、数キロ離れている。
 街へ向かって数キロ戻るというなら気が楽ですが、どんどん山中に入っていく方向で……。
 道がすごく狭くなり、ここらかと思って現地のおじさんに訊くも、まだまだ先と言われ……ようやく山の奥の奥でこのような看板を見つけて、あとは徒歩の探索行に。

 土砂崩れがあったようでもあり、熊の気配すら気になるような雰囲気。
 しかも日が傾き始めている中を、恐る恐ると歩いて行きました。
 そのようなシチュエーション自体も悪かったのだとは思いますが……

 ウワアッ!?
 と、思わず手が震えて写真がぶれる。
 あ、あの巨大な影、あれが「姥樫」……。

 身体が硬直してしまいました。
 足が前に進まない。
 その場で体勢を整え、もう一度、じっとピントを合わせました。

 正直、なんという気味の悪さだろう……。
 樫の巨樹には、「怖くない奴」「怖い奴」がいることはすでに知っていますが……この、こちらを金縛りにするような威圧感はなんだろう。
 勇気を出して、もう少し近づく……。

 ああ、やはり怖いタイプの樫だ……。
 しかもかなりの巨大さ。
 樫で幹周6.6メートルとは、信じがたい。

「姥樫」とは、古来命名された当時から相当な老樹に見えたからとのことですが……強烈な狂気を帯びてこちらを睨みつけてくる魔女のようにも見えなくはない。
 昔の人も、それを感じたからこそ、「姥」と付けたのではないのでしょうか。
 とにかく、この薄暗い山中で、これはキツい。
 ブレアウィッチ・プロジェクトじゃねえぞ……。

 正直ビビってしまい、ヒューマンスケールはおろか、できるだけこの樹とは距離を置こうと考えてしまう始末でした(情けない)。
 いや、それくらい強烈なんですよ。
 我こそはと言う方は、似たような天候と時刻にこの樹と対面してみて欲しい!
 ねじくれた異様な質感の幹、振り回したような大枝には、かなり不気味な躍動感があり、今しも激しく動き出して襲いかかってくるんじゃないかと……

 と、その時!
 ドドドドドド……! と低い轟きが起こり、同時に携帯が悲鳴めいて鳴り喚く!

 ……やめてください、叫んでしまったじゃないですか!!
 群馬を震源とする震度5クラスの地震でした。埼玉県も3強から4の震度で揺れたらしい。
 よりにもよって、こんな樹とサシで向かい合ってる時に!

 幹が真っ黒い。
 雨で濡れてこうなっているのだと思われますが、健康的であるとか老いているとか、そういう通常の見方が通用しないような異様さがあります。

 樫でこれだけの大きさのものはかなり少ないと思われ、アカガシと限るならば、ひょっとすると全国のベスト10にもランクインするかもしれません。
 樫は、文字通り堅い樹であるわけで、成長が遅くて高密度な性質。
 この大きさの樫は、それ自体、独特の強烈な存在感を放つものなのだと思っています。

 が、それに加えて、この形。
 斜面に抵抗しつつ、陽を求めて身を旋回させたということなのでしょう。
 枝張りは20メートル以上はありそうで、かなり広い。
 そこからも、この「腕」がこちらに届きそうで脅威を感じるのです。

 真裏に回りましたが、自身の枝葉の茂りも少なくなく、他の雑木の群にも遮られてろくに見えません。
 しかし、トンネルのようになったところから望遠で覗くと、視界が全て真っ黒い壁のような幹で塞がれる。
 ここまで至るには樹齢はどのくらいになるものか……。
 山中の樹であるので、樹齢は不明らしい。いつの頃からか土地の人の記憶に現れ、語り継がれているのです。

 説明文。そういえば、道を聞いたおじさんも「ウバッカシ」と発音していました。
 背筋がゾクゾクして、健康状態だとか周りの環境云々だとか、当たり前の点もろくに観察していない自分に、後で気づきました。

 怖い樹という点では、野獣のごとき裏杉の群れも怖かったですが、この樹は、もっと陰湿で執念深そうな意思を感じる怖さでした。
 こんなのもあるんだなあ……と、生気を吸われたかのように疲れが出るのでした。
 まあ、道中の険しさのせいかな。きっとそう。きっと……。

「姥樫」
 埼玉県比企郡ときがわ町椚平
 推定樹齢:不明
 樹種:アカガシ
 樹高:不明
 幹周:6.6メートル

 県指定天然記念物

 訪問:2018.6

探訪メモ:
 ネット上の地図でも大まかな位置は拾えますが、道路までは示してくれません。カーナビでも空白地。
 不安であれば、林道まで拾える地図か、観光協会に訪ねるのが良いと思います。
 概ね舗装されていますが、土砂崩れもあり得えます。

探訪について:
 姥樫へ至るには、上記のようにネット地図不毛地帯に踏み込まねばなりません。
 そもそも携帯が圏外な場合が多く、こういう土地での心細い経験が全く無い、あるいはしたくないという方にはお勧めしません。
 その上、たどり着ける巨樹はとても怖い形相……。
 反対に、冒険の上で巨樹にたどり着く経験重視ならば、ぜひ訪ねておきたい一本とも言えます。

旅行記「埼玉県比企郡ときがわ町・巨樹探訪旅」もぜひご覧ください。

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