巨樹たち 東京都港区「旧細川邸のシイ」 / 6 コメント 江戸:東京のセーブポイント 東京都港区で巨樹探訪。 なんともナンセンスを口走っている気分ですが、赤坂「氷川神社の大銀杏」とセットで巡れる巨樹があります。 しかも、赤坂の次は高輪……ここもまた、東京在住時代、全く無縁の地でしたが。 すったもんだのアクセスの末(※顛末は別記)、ぽっと高台に顔を出した途端、トップの写真の眺めで、おおっ! と声をあげずにはいられません。 これが熊本藩細川家屋敷の名残という「旧細川邸のシイ」です。 地下鉄を乗り継ぎ、長い地下道を歩かされ…… コンクリートとアスファルトのダンジョンに、突如、この場違いな威容が出現する。 巨樹サイトや書籍で予習したインパクトを超え、どこかRPGの体力回復スポットかセーブポイントみたいな存在感すら感じました。 あるでしょ、なんか浮いて光ってるやつ。 面する道路は一車線、後ずさればすぐに背中がマンションの壁に触れる。 正面に立ってこの全体像……どこか羽を広げたクジャクに似ている……を撮ろうとすれば、超広角レンズは必須です。 歪曲は覚悟の上、グワッ! といきました。 かつては道路方向にも枝張りがあり、巨大ブロッコリーのような樹冠を誇っていたのでしょう。 「昭和56年に大規模な外科手術を行った」と解説にもありますが、とかくこの正面の枯れた主幹をクローズアップされがち。 書籍やサイトで限られた枚数の写真を見ただけでは、いかにも枯死寸前に映ってしまうでしょう。 実際自分も、早いうちに見ておくべきか……と優先順位を上げました。 しかし、実物を見てホッとする。 Googlemapのレビューにもあるように、巨樹を見慣れない人からすれば、心配になってしまう姿かもしれない。 でも、このくらいでは巨樹は死なない。ましてやそれがスダジイの巨樹ならなおさら……これくらいでスダジイは終わらない。 裏側に回ると、見事な板根を見ることができ、千葉県「安久山の大シイの木」を思い出しました。 さすがにあれほどの規模はないけれど、このシイの大きさ、異形っぷりもなかなかです。 ここ「高輪」とは「高台の縄手道」の意味だったらしく、江戸時代に東海道整備まで旅人の往還として役割があった。 江戸時代、旧熊本藩細川越中守の中屋敷となり、元禄16年(1703)、赤穂浪士として有名な大石良雄ら17名が切腹したのがまさにここ。その碑も近くにあるそうです。 明治時代には「芝高輪西台町」と呼ばれ、皇室の御料地、御殿、宮廷となり……戦後、一部を残して住宅、高松中学校、高輪地区総合支所となった。……(港区高輪地区総合支所の資料より要約) 細川家は維新後は華族(侯爵)となり、第18代当主の細川護熙氏は総理大臣になった方ですね。 ……と、個人的にはそれくらいしか知らなかったので、この樹をきっかけとした読み解きは大変勉強になりました。 よくある「この巨樹の元に屋敷を作った」のパターンではなさそう。 屋敷森に常緑樹が重宝されるとともに、武家屋敷だった以上、非常食として役立つシイの選択が意味深に思えてきますね。 休まず姿を変え、少しでも目を離せば全く知らない街になっていそうな東京。 そんな中にあって、この樹の根元は、確実にひと続きの歴史を記憶し続けている数少ない地点なのだな……と、感慨深く思いました。 「旧細川邸のシイ」 東京都港区高輪1丁目16−25 高輪支所内 推定樹齢:不明 樹種:スダジイ 樹高:10.8メートル 幹周:8.13メートル 都指定天然記念物 訪問:2023.2 探訪メモ: 当然ながら駐車場なしなので、都営三田線、地下鉄南北線の利用が一般的でしょう。 自分は地下鉄(「白銀高輪」という超高層敷居な最寄駅)を利用しました。 下車後は徒歩ですが、多少知っておきたい地形だったりします。 下記を参照。↓ <高輪アクセス豆知識> 地図で見ると駅とシイは「下車1分!」的ちょろい位置関係に見えますが、まず「高輪支所」の敷地内を通らないと裏手に出られません。回り込もうとすれば大変でしょう。 さらに、ここには恐るべき高低差がある。地下鉄が大深度、シイは丘の上。ビルで言えば7、8階分あるかもしれません。「俺ぁまだ若えんだ、べらぼうめ」 とか、著者のように粋がってほざいていると、足腰を破壊されて大変な目にあいます。 まさか巨樹探訪の交通手段としてエスカレーターやエレベーターが必須となろうとは、思いもしませんでした……。 関連
to-fu 2023年3月2日 at 9:22 PM 返信 立派な根回りですね。素晴らしい。 このシイの存在は全く知りませんでした。こんなところに巨大シイが生えていたなんて。 シイの巨樹といえばお寺の境内か鬱蒼と茂った森の中というイメージがあるので、 都市ど真ん中に生きる姿は新鮮です。意外と街並みに馴染んでしまうものだな、という印象。 狛さんに関東のシイ勢を案内していただいてからシイは個人的に好きな樹種なんですが、やはり立地を 考えると訪問が億劫になってしまいますねえ。田舎生活が長くなるにつれ、都市部へ向かうことに対して 異常なまでの抵抗を感じるようになりました。これはあのコロナ生活の影響も大きいのかもしれません。 そういう意味では過去を振り返っても仕方ありませんが、東京暮らししているうちに出会いたかった! 当時巨樹に興味があれば!と悔しくなる一本です。
狛 2023年3月3日 at 9:44 AM 返信 to-fuさん> この板根といい、「一本でも雑木林」的な鬱蒼とした感じといい、ちゃんとスダジイ巨樹の醍醐味を発揮しているのに驚きました。 ご指摘の通りで、ちょっと品よくまとまっているというか、特有の野蛮さのアクが抜けたスダジイ巨樹とも言えるかなと。 そう考えるとまたちょっと親しみが湧いてきます。 アーミーめいた薮蚊がいないのはいいとしても、この立地、巨樹探訪の観点からすればかなりのイレギュラーですね。 都市史の占める割合が多くなるのも当然で、敷居が高く感じました。 そう、東京在住だったら……逆に、かなり年配になるまで視野に入らなかったかもしれませんね。 腰は重たかったのですが、おそらく大阪のクスなんかもこうだろうと、経験値を積むつもりで出かけてみた次第です。 まあ、結果、やっぱり長距離運転と彷徨のすえの到達・発見って尊いよね……と、再実感できたかもと。 今年こそフットワーク軽くしていきたいもんですね!
RYO-JI 2023年3月3日 at 10:09 PM 返信 前職&前々職時代には田町や品川はよく行きましたよ。 何度か都ホテルにも泊まったり・・・。 そのすぐそばにこんなシイの巨樹があったとは驚きです。 偶然でも何でもいいですが当時これを見ていたら自分はどういう反応をしただろうか?などと妄想を楽しんでます(笑)。 主幹がバッサリ切られているので見応えがないと思いきや、この根元部分の逞しさに目を奪われますね。 とはいえ、やっぱり一般的には「終わってしまった樹木」的な扱いを受けてしまうのは仕方ないのかもしれません。 そりゃまぁそうですよね。 『この根回りがスゴイ!』『シイやイチョウはここからが本番だ!』なんてアツくなるのは愛好家だけですからね(笑)。
狛 2023年3月4日 at 10:39 AM 返信 RYO-JIさん> 高輪というと、自分もどちらかというと品川駅のイメージでした。 親がやはり企業のイベントかなんかで何度かホテルに行ってて……と、そのくらいの記憶ですが。 その辺りも、たしかみるみるうちに大きく(ハイグレードに)様変わりしていったんじゃなかったかと思い出します。 東京時代にはもっぱら北品川あたりの路地を撮ってて、段違いぶりに驚いていましたっけ。 ストリートスナップ時代なら、都市の中に突如現れる異景として撮る可能性が十分ありそうですね。 カメラもない時分に遡るとなると……出くわすこと自体、かなり限られた運になってくるなと。 現代を生きる巨樹には必ず危機の局面があるわけで、その時どう解釈されるかにかかってますね。 このシイは歴史的な価値とシイという樹種の特性をちゃんと理解されて、今こうしてここに生きている。 それを考えると、さすが東京! とも思えてきますね。
福光 寛 2023年6月10日 at 10:17 AM 返信 なお私のブログに書きましたように、駅から地上まで1回乗換のエレベータがあり、さらに高輪支所入口には高台の住宅地の5階に直行するエレベータがあります。
狛 2023年6月10日 at 4:15 PM 返信 福光 寛さん> コメントありがとうございます。 気合のままに階段で行ってしまいましたが、なかなかの手応えでした。 きっと東京の方はこういう時、さらっとスマートにエレベーターを利用できるもんなんだろうな……と、息を切らせつつ思いました。
6件のコメント
to-fu
立派な根回りですね。素晴らしい。
このシイの存在は全く知りませんでした。こんなところに巨大シイが生えていたなんて。
シイの巨樹といえばお寺の境内か鬱蒼と茂った森の中というイメージがあるので、
都市ど真ん中に生きる姿は新鮮です。意外と街並みに馴染んでしまうものだな、という印象。
狛さんに関東のシイ勢を案内していただいてからシイは個人的に好きな樹種なんですが、やはり立地を
考えると訪問が億劫になってしまいますねえ。田舎生活が長くなるにつれ、都市部へ向かうことに対して
異常なまでの抵抗を感じるようになりました。これはあのコロナ生活の影響も大きいのかもしれません。
そういう意味では過去を振り返っても仕方ありませんが、東京暮らししているうちに出会いたかった!
当時巨樹に興味があれば!と悔しくなる一本です。
狛
to-fuさん>
この板根といい、「一本でも雑木林」的な鬱蒼とした感じといい、ちゃんとスダジイ巨樹の醍醐味を発揮しているのに驚きました。
ご指摘の通りで、ちょっと品よくまとまっているというか、特有の野蛮さのアクが抜けたスダジイ巨樹とも言えるかなと。
そう考えるとまたちょっと親しみが湧いてきます。
アーミーめいた薮蚊がいないのはいいとしても、この立地、巨樹探訪の観点からすればかなりのイレギュラーですね。
都市史の占める割合が多くなるのも当然で、敷居が高く感じました。
そう、東京在住だったら……逆に、かなり年配になるまで視野に入らなかったかもしれませんね。
腰は重たかったのですが、おそらく大阪のクスなんかもこうだろうと、経験値を積むつもりで出かけてみた次第です。
まあ、結果、やっぱり長距離運転と彷徨のすえの到達・発見って尊いよね……と、再実感できたかもと。
今年こそフットワーク軽くしていきたいもんですね!
RYO-JI
前職&前々職時代には田町や品川はよく行きましたよ。
何度か都ホテルにも泊まったり・・・。
そのすぐそばにこんなシイの巨樹があったとは驚きです。
偶然でも何でもいいですが当時これを見ていたら自分はどういう反応をしただろうか?などと妄想を楽しんでます(笑)。
主幹がバッサリ切られているので見応えがないと思いきや、この根元部分の逞しさに目を奪われますね。
とはいえ、やっぱり一般的には「終わってしまった樹木」的な扱いを受けてしまうのは仕方ないのかもしれません。
そりゃまぁそうですよね。
『この根回りがスゴイ!』『シイやイチョウはここからが本番だ!』なんてアツくなるのは愛好家だけですからね(笑)。
狛
RYO-JIさん>
高輪というと、自分もどちらかというと品川駅のイメージでした。
親がやはり企業のイベントかなんかで何度かホテルに行ってて……と、そのくらいの記憶ですが。
その辺りも、たしかみるみるうちに大きく(ハイグレードに)様変わりしていったんじゃなかったかと思い出します。
東京時代にはもっぱら北品川あたりの路地を撮ってて、段違いぶりに驚いていましたっけ。
ストリートスナップ時代なら、都市の中に突如現れる異景として撮る可能性が十分ありそうですね。
カメラもない時分に遡るとなると……出くわすこと自体、かなり限られた運になってくるなと。
現代を生きる巨樹には必ず危機の局面があるわけで、その時どう解釈されるかにかかってますね。
このシイは歴史的な価値とシイという樹種の特性をちゃんと理解されて、今こうしてここに生きている。
それを考えると、さすが東京! とも思えてきますね。
福光 寛
なお私のブログに書きましたように、駅から地上まで1回乗換のエレベータがあり、さらに高輪支所入口には高台の住宅地の5階に直行するエレベータがあります。
狛
福光 寛さん>
コメントありがとうございます。
気合のままに階段で行ってしまいましたが、なかなかの手応えでした。
きっと東京の方はこういう時、さらっとスマートにエレベーターを利用できるもんなんだろうな……と、息を切らせつつ思いました。