巨樹たち

新潟県上越市「坊金の大スギ」

打ち鳴らせ、戦国の鐘

 「虫川の大杉」からそう遠くない距離にある県天の大杉。
 しかし、こちららは主要道路沿いにはなく、ちょっとばかり「探訪」の力みが加わります。

 直前まではGooglemapのポイントを頼りに舗装路を走っていけば問題ない。
 しかし、標識に従って山を登っていく道が細い!
 乗用車一台分いっぱいしか道幅がない上、シートに身体を押し付けられる急勾配、ハンドルにしがみついて左へ右へグルグルコーナリングしないと絶対崖から……いや、路肩じゃなくて崖です、ガードレールは無い。
 当時機材があれば間違いなくスリルドライブ動画を残そうとしたでしょう(四国のスリルドライブ記録「六社聖神社の大杉」の動画をどうぞ)。

 まあ、「先がどうなってるのかわからない」のが一番怖いんですよね。
 ギリギリと登坂を成し遂げ、マジ良かった、クルマ回せるスペースある! と喜んだんですが……
 同時にウワア! とまた変な声をあげてしまった。
 なぜかそんな場所でピクニックなんぞしているご家族がおられたから。
 我々にとっての命がけのドライヴも、新潟県民にとっては「ちょっとティータイムにでかける」みたいなレベルなのかしら。

 ハ、ハロウ。
 恐る恐るアイサツをしてみると、向こうさんも大層驚いた様子でした。
 「まさかここで他の人たちに遭うとは思ってもみなかった」とのこと(良かった、常識の通じる人たちだったようだ)。
 「ここで遭ったのも何かの縁」と、ティー・パーティーに呼ばれてしまいましたよ。
 おにぎり、山菜、漬け物、いちご、おはぎなどを次々ごちそうになって、なんだか狐に化かされてるみたいな不思議気分……。

 いや、忘れちゃいかん、巨樹ですよ!
 この「坊金の大スギ」を見るため登ってきたんじゃないですか。
 「虫川の大杉」に続いて、こちらも湾曲した大枝で主張してくる裏杉。 
 やはりこの樹だけが他を圧倒して太く、探すまでもなく目を捉えます。

 樹形からして、お手入れされた直後だったのかも。
 この記事を改めてまとめるにあたり、直近の写真をGooglemapの投稿で目にしましたが、少し樹冠が寂しくなったようにも感じました。

 特に、最も下段の枝の張り出しが大きく、長大な枝を越後の雪の重量から守るため、支柱が設けられています。
 過密なところは丁寧に枝下ろしされたようでもあり、地区の方々の関心を感じました。

 戦国時代にはかのエチゴ・タイガー、上杉謙信公が直峰城(数キロ先の山奥にあったらしい)との連絡のためにこの大枝に鐘を吊るして連打した、とのこと。
 そう、まさしく鐘を吊るしてくれと言わんばかりの大枝! ですね。笑
 戦国時代の幻影を今もある巨樹の元に見る……歴史ロマンです。

 立地上、背後に回れないので似たような写真ばかりになってしまいますが、もう一枚。
 目通りで幹周は8.5メートルとされていますが、その上部からぐっと太さを増している。
 幾本もの枝の根元が塊となって、逆三角形の筋骨隆々とした肉体美を連想させる大杉ですね。

 大杉と謙信公の逸話は上越市のサイトにも掲載されています。
 以下、拝借。

 大スギから西に、ほぼ同じ高さに直峰城跡(標高344メートル)の威容を望むことができます。
 直峰城在城時代の城主が時報の鐘をこの木の枝に吊るし時を報じたとも、謙信公が直峰城との連絡のためにこのスギの枝に鐘を吊って連打して合図したとも伝えられる大枝があります。
 現に、鐘を吊り下げた跡が認められるとも言われています。

 鐘さえ吊るしてあったら、今でも十分にその役割を果たせそうな巨樹、そしてその立地。
 災害時なんかには案外役に立ちそう?

 サイトには近年の樹勢回復手当の様子などもあり、地元の方々の愛着を感じることができました。 
 訪れるのに少し勇気の要る場所ではありましたが、見に行く魅力十分な巨樹です。

「坊金の大スギ」
 新潟県上越市安塚区坊金
 坊金神社
 推定樹齢:800年
 樹種:スギ
 樹高:25メートル
 幹周:8.5メートル
 県指定天然記念物
 訪問:2015.5

探訪メモ:
 上記したように、スギへ至る道に度胸を試されます。 
 ここで対向車に遭遇してしまったら、どうすればいいんだ……と思うと、多少きつくても徒歩でフィニッシュしたほうが面倒がないかもしれませんね。

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