巨樹たち

埼玉県比企郡ときがわ町「越沢稲荷の大スギ」

猫のバスが停まる?稲荷の大杉

 ときがわ町巨樹探訪三番手は、杉です。
 「椚平(くぬぎだいら)体験交流館」という公民館+食堂みたいな施設から数百メートル歩くと、山道の行く手に立ちふさがるような大きな杉に出会うことができます。
 これが「越沢稲荷の大スギ」です。

 実際に立ちふさがっているわけではなく、横をちゃんと通れるようです。どこへ続いている道なのでしょうか……。

 それより手前には、バス停があります。
 ……ん? バス停? 車が入れない山道なのに、バス停? 他に抜け道があるとか?

 ……と、よくよく見てみると、なんだこりゃ、山猫電鉄?
 どうやらご当地が観光の方のために用意した演出のようです。
 なんというか? トットロ? 的な?笑
 ご丁寧にちょっとした机や椅子まで置いてあって、夕暮れに待っていたら猫バスが停まってくれそうです。

 オカリナふいてる〜、というのはいいとして笑、これがその大杉本体の姿です。
 山道にずいっと身を乗り出すようにして生育する、幹周6メートル超えの杉。
 普通に通ろうとしても肩が触れるような至近距離で仰ぎ見るため、一層迫力を感じる。
 姿形的には、これはもう疑いようもないストレートな杉、表杉のテンプレートのような綺麗な立ち姿ですね。

 由来となっている小さなお稲荷さんがある。
 仄暗い雰囲気で、あの猫バス停みたいな愉快なことをしてみたくなる気持ちもわかります。

 暗さと生命感の程よいコントラストが、トトロの世界観ともマッチしている。
 ちょっと怖いけど、悪いもんじゃないんだよ、みたいな。
 自分自身、幼少時にはこういう陰陽の対比には敏感で、どこででも、何度でも、実感できていたように思います。

 樹皮に暖かさを感じる。
 この場の雰囲気が成り立つためには、巨樹が放つ陽の気がいくらか勝っていないといけない。

 幹はまっすぐ、葉は青く、枝が折れた様子もない。
 樹皮は厚く美しく、キラキラと樹脂の粒を浮かべている。
 これまで見た中でも有数の健康で美しい杉の巨樹だと感じます。

 見上げてみると、大枝には少し野生が垣間見られるところもある。
 横に伸びてから垂直に立ち上がっていたり、植林される杉の範疇からは少しばかり飛び出しているように見える。
 ある一線を超えて樹は巨樹となる。……そう語っているかのようです。

 枝を切られずに長年生きてきたのでしょう。長大な枝を地面すれすれにまで伸ばしているところも特徴的。
 葉は濃く、下に入るとかなり暗く感じます。
 それがまたお稲荷さんに対する空気作りになる。
 小さいお稲荷さんなのに、立派な御神木を抱いておられるのですね。

 解説文。
 計測から15年以上経っているので、現在ではもう少し大きくなっていてもおかしくない。

 お稲荷さんのいわれについては、よくわからないのかもしれない。
 いつの時代からか小さなお稲荷さんと大きな杉があって……
 その印象だけが地元の人たちに共有されてきたのかもしれません。

「越沢稲荷の大スギ」
 埼玉県比企郡ときがわ町椚平
 推定樹齢:400年
 樹種:スギ
 樹高:25メートル
 幹周:6.2メートル

 県指定天然記念物

 訪問:2018.6

 探訪メモ:
 スギまでの道は車では入れません。
 オフロードバイクが我が物顔で走っていましたが、自分は近くの「椚平体験交流館」に車を停めさせてもらい、徒歩で向かいました。
 この先どうなってるんだろう? と思うような山の小径が続き、雰囲気豊かです。

 余談:
 この日は時間が遅く、すでに営業終了していたのがかなり残念でしたが、「椚平体験交流館」では、この地特有の「ひもかわうどん」が食べられます。
 実際周囲で食事できるところもそう無いですし、食べてみたかったです……。ぜひチェックを。

旅行記「埼玉県比企郡ときがわ町・巨樹探訪旅」もぜひご覧ください。

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