巨樹たち

徳島県つるぎ町「赤羽根大師のエノキ」

日本最大のエノキ

 「巨樹王国」を大胆に名乗る徳島県つるぎ町
 その筆頭とされているのがこの「赤羽根大師のエノキ」です。
 調査によって、地上1.3メートルでの幹周囲が日本一と判明したエノキとのこと。徳島県をめぐる巨樹行では、もちろん外すわけにはいきません。
 ヒヤヒヤするようなつるぎ町内のドライブを小一時間こなし、いかにも尾根というところに鎮座する赤羽根大師に辿りつきました。
 この先車が転回できるのか? という心配続きでしたが、さすがに終点、ここは開けています。

 集会所を兼ねた建物とお堂があり、公衆トイレもある(「日本一のトイレ」と書かれているのかと思って期待したのですが、「日本一の『森』トイレ」でした。トイレ自体は普通の、蜘蛛がいるようなトイレ)。
 ギザギザに切り立った山ばかりの土地で、住民数は限られているでしょうが、やはりこういう集会場は必要なのでしょう。
 この時も、お掃除やお手入れの後なのか、おばさんたちが寄り合いをしていました。

 車から降りると、すぐにこの大きな赤羽根大師についての解説看板が目に入ります。
 しかし、長い……運転疲れもあって読み飛ばしたくなりますが、頑張って読むと、なかなかのドラマです。
 姥捨山の民話は各地に残っていますが、これもまたそのひとつ。しかし、こういうのに出てくる代官ってやつは……

 六十になった母を捨てるべしとされ、どうしても捨てられずに代官に許しを請うと、「赤い羽の鳥を捕らえてこい」と無理難題を命じられてしまう。

 当然赤い鳥など見つからず、途方にくれた村人は、このエノキのお大師様に願を懸ける。
 すると、エノキの枝に真っ白な鳥が止まり、代官の目の前で……ああ見よ、その羽が今まさに赤々と輝く夕日に染め上げられて! お大師様のつかわされた夕陽の赤さは、非道代官のねじくれた心を一発で浄化したようです。

 お大師様の依り代的な大エノキを今も見ることができるとは感慨深いですが、それにしても「八十八本の巨樹がある一宇地区は……」とは、ほんとなのか。
 お大師様つながりで八十八ヶ所にかけたのかもしれませんが、その総覧的な資料にはいまだ出会っていません。
 しかし、実際ありそうだ……ありそうだけど、全部巡るのはものすごく恐ろしい苦難に見舞われそうです。

 ともあれ、我々もまず、赤羽根大師へのお参りを果たしました。壁にかけられた巨大な数珠が記憶に残ります。修験道・山岳信仰の流れも組んでいるのでしょうか。

 資料によれば、以前はエノキに隣接していた堂を、平成17年にこの位置に建て直したとのこと。
 大エノキの国の天然記念物指定が平成16年だそうで、その保護のためと思われます。

 長くなりましたが、大エノキの登場です。
 すぐにでも駆け寄りたくなりますが、落枝が多いらしく、木道は立ち入り禁止。
 ごく限られた角度からしか見ることができませんが、なるほど、さすがに大きい。

 エノキは関東にも普通に生育する樹で、成長は遅くなく、目印になるため一里塚に植えられていることが多い。
 巨大に育つ樹種ではなく、6メートルもあればかなり大きい印象ですが、この樹は環境庁によって幹周囲8.7メートルと計測されている。
 おそらく樹種別のランキングではダントツのトップでしょう。

 エノキとムクノキはたびたび混同されてしまうようで、この樹もずっとムクノキだと思われていたそうです。
 ムクであれば幹周囲10メートル以上のものも存在するし、それほど注目されてこなかったのかもしれません。

 ……が、平成10年の調査で実はエノキだったと判明する。
 一躍、樹種日本一に躍り出ることになり、周囲は騒然となったそうです。
 二重のびっくり。ウチの地元で日本一が見つかってしまった! これは興奮するでしょう。
 伝承にとどまらず、現代に活きるエピソードも豊富で、実に面白い巨樹です。

 実際観察した印象としても、太すぎるあまりかエノキというよりはムク……むしろ年経たケヤキのような重厚感すら感じます。
 近寄れずとも、計測に偽りなしと言った太さを見せつけてくれます。

 地上2、3メートルくらい、あまり高くない位置で分岐し、それぞれもかなり太い。
 表面を覆う苔の緑の印象が鮮やか。書籍の写真では冬の赤茶けた印象が多かったように思います。

 日本一といえどエノキに巨樹の迫力は期待できないかな……という予想は野暮でした。
 惜しむらくは、木道を歩いて色々な角度から見ることができないことですが、見上げると、それも仕方ないかとしぶしぶ納得します。

 そう、幹の立派さに比して、葉の緑がずいぶん少ない。
 もう5月も20日(2019年)ですから、緑色もピークを迎えていてもいいはずなのに……半分以上枯れ枝に見えます。

 観察の活路を見出そうと、上記の民話看板の横から土手に登ってみると、エノキの裏側の姿を見下ろすことができました。
 歩くうちにたくさんの枯れ枝を踏むことになり、落枝は本当なのだと気付かされます。
 菌類の発生も気になり、樹勢が衰えつつあることを実感せずにはいられませんでした。
 つるぎ町発行の資料「つるぎ巨樹王国読本」によれば、樹齢は800年とされ、エノキにしては例外的な高齢であるということなのかもれません。

 解説文。
 ここでは主幹周6.7メートルとなっています。単純にどこで目通り高さを押さえたかの違いかと思います。
 幹周囲8メートル以上とされても、見た印象では全く見劣りは感じないし、国指定天然記念物の肩書きにも不満はありません。
 つるぎ町がプッシュしていることで当然回復や保護も行われているはずで、今後もその効果が出て欲しいと願うばかりです。

 

 距離からも険しさからも、「もう一度来る!」とはなかなか約束できない土地です。
 どうか今後、樹勢を回復して元気になった姿を見せてほしい……。
 赤羽根大師にひとつだけのお願いをするなら、今はこれしかないな、と思うのでした。

「赤羽根大師のエノキ」
 徳島県つるぎ町一宇 赤羽根大師
 推定樹齢:800年
 樹種:エノキ
 樹高:16メートル
 幹周:8.7メートル

 国指定天然記念物
 訪問:2019.5

 探訪メモ:
 道、狭いです!
 登坂前の集落内からしてすでにすれ違い不可は当たり前。駐車スペースも限られてくるので、隊列を組んでの移動は計画時から避けた方が無難です。

 余談:
 エノキの葉や実はとてもおいしいらしく、いろいろな虫や動物にとって大切な食料源となっているようです。国蝶・オオムラサキの幼虫もエノキを主食としています。
 一里塚に植えられているエノキの姿は写真撮りとしても好ましいのですが、喜んで駆け寄ったら毛虫だらけで逃げ戻った経験があります。
 樹木保護の観点からすると、食害も気にすべきなのでしょう。

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