巨樹たち 徳島県つるぎ町「赤羽根大師のエノキ」 / 2 コメント 日本最大のエノキ 「巨樹王国」を大胆に名乗る徳島県つるぎ町。 その筆頭とされているのが「赤羽根大師のエノキ」です。 調査によって、地上1.3メートルでの幹周囲が日本一と判明したエノキ、徳島県をめぐる巨樹行では、もちろん外すわけにはいきません。 ヒヤヒヤするようなつるぎ町内のドライブを小一時間こなし、いかにも尾根というところに鎮座する赤羽根大師に辿りつきました。 この先車が転回できるのか? という心配続きでしたが、さすがに終点、ここは開けています。 集会所を兼ねた建物とお堂があり、公衆トイレもある(「日本一のトイレ」と書かれているのかと思って期待したのですが、「日本一の『森』トイレ」でした。トイレ自体は普通のトイレ)。 ギザギザに切り立った山ばかりの土地で、住民数は限られているでしょうが、やはりこういう集会場は必要なのでしょう。 この時も、お掃除やお手入れの後なのか、おばさんたちが寄り合いをしていました。 すぐに大きな赤羽根大師についての解説看板が目に入る。 うむ……なかなかのドラマです。 姥捨山の民話は各地に残っていますが、これもまたそのひとつ。 しかし、こういうのに出てくる代官ってやつは…… お大師様のつかわされた夕陽の赤さに、非道代官のねじくれた心も一発で浄化されたようでもあります。 伝説の大エノキを今も見られ感慨深いのですが、「八十八本の巨樹がある一宇地区は……」とは、ほんとなのか。 八十八ヶ所にかけたのかもしれませんが、総覧的な資料にはついに行き当たりませんでした。 しかし、実際ありそうだ……ありそうだけど、網羅にはかなりの探検の覚悟が必要だろうな、と。 ともあれ、我々もまず赤羽根大師にお参り。 壁にかけられた巨大な数珠に修験道・山岳信仰の匂いを感じます。 エノキと隣接していた堂を、平成17年にこの位置に建て直したとのこと。 大エノキの国の天然記念物指定が平成16年で、保護のためだと思われます。 長くなりましたが、大エノキの登場です。 すぐにでも駆け寄りたくなりますが、落枝が多いらしく、木道は立ち入り禁止。 ごく限られた角度からしか見ることができませんが、なるほど、さすがに大きい。 エノキは関東にも普通に生育する樹で、成長は遅くなく、目印になるため一里塚に植えられていることが多い。 とはいえ、そこまで巨大に育つ樹種ではなくて、幹周囲6メートルもあればかなり大きい印象です。 ところが、この樹は環境庁によって幹周囲8.7メートルと計測されている。 おそらく樹種別のランキングではダントツでしょう。 エノキとムクノキはたびたび混同されてしまうようで、この樹もずっとムクノキだと思われていたそうです。 ムクであれば幹周囲10メートル以上のものも存在するため、注目されなかったのかもしれません。 ところが、平成10年の調査で「実はエノキだった!」と判明し、一躍、樹種日本一に躍り出た。 ウチの地元で日本一が見つかった! と地域騒然となったようです。 伝承にとどまらず、現代に活きるエピソードも豊富で実に面白い巨樹です。 太すぎるあまりかエノキというよりはムク……むしろ年経たケヤキのような重厚感すら感じます。 近寄れずとも、計測に偽りなしの太さを見せつけてくれます。 地上さほど高くない位置で分岐し、それぞれもかなり太い。 表面を覆う苔の緑の印象が鮮やか。書籍の写真では冬の赤茶けた印象が多かったように思います。 日本一といえどエノキに巨樹の迫力は期待できないかな……という予想は野暮でした。 惜しむらくは、木道を歩いて色々な角度から見ることができないことですが、見上げると、それも仕方ないかとしぶしぶ納得します。 そう、幹の立派さに比して、葉の緑がずいぶん少ない。 5月も半ばすぎですが、緑色が少なく、その葉付きは偏っているし、部分的には枯れ枝に見える。 上記の民話看板の横から土手に登ってみると、裏側から見下ろせました。 途中、さんの枯れ枝を踏むことになり、落枝は本当なのだと気付かされます。 菌類の発生も気がかりで、樹勢の衰えを実感せずにはいられませんでした。 つるぎ町発行の紙資料「つるぎ巨樹王国読本」によれば、樹齢800年とされ、エノキにしては例外的な高齢でしょう。 解説文では主幹周6.7メートルとなっていますが、単純にどこで目通り高さを押さえたかの違いかと思います。 つるぎ町の大プッシュに伴い、回復や保護も行われているはずで、効果が出て欲しいと願うばかりです。 距離、険しさからも、「もう一度来る!」とはなかなか約束できない土地です。 どうか今後、樹勢を回復して元気になった姿を見せてほしい……。 赤羽根大師に願掛けするなら今はこれしかないな、と思うのでした。 「赤羽根大師のエノキ」 徳島県つるぎ町一宇 赤羽根大師 推定樹齢:800年 樹種:エノキ 樹高:16メートル 幹周:8.7メートル 国指定天然記念物 訪問:2019.5※2022.7 倒壊 探訪メモ: 道、狭いです! 登坂前の集落内からしてすでにすれ違い不可当たり前。 駐車スペースも限られてくるので、隊列を組んでの移動は計画時から避けた方が無難です(我々も一台にまとめて行きました)。 エノキの葉や実はとてもおいしいらしく、いろいろな虫や動物にとって大切な食料源となっているようです。 国蝶・オオムラサキの幼虫もエノキを主食としています。 一里塚の樹としても有名ですが、喜んで撮りに駆け寄ったら毛虫だらけで逃げ戻った経験があります。 樹木保護の観点からすると、食害も気にすべきなのでしょう。 2022年追記: ニュースによれば、7月、ついに倒壊してしまったそうです……。 徳島県のサイト内に写真がありますが……何とも悲しい。 在りし日に探訪し、姿を記録できて良かったというべきなのか。 ともかく写真を保存し、記憶に残し続けたいと思いました。 つるぎ町によれば、多くの枝を切ったものの根は生きており、天然記念物指定は維持されているとのことです。 巨樹の他界に、近年急進行する環境変化の影響を感じます。 <徳島、つるぎ町の巨樹探訪旅の記事もどうぞ>徳島・高知 四国巨樹探訪旅2 関連
赤根修 2022年9月19日 at 2:16 AM 返信 素敵な記事をありがとうございます。自分の苗字が「赤根」なものですから、赤根、茜、赤羽、赤羽根、赤畝、赤土、赤埴・・などが近いらしく興味を持って調べ探し 地図を測ってみたりしています。土や植物、朝日 夕焼け 黄昏時の空を思い浮かべています。一,市がつく地名や 赤は明るい、光とも関係ありという方もおられ 赤根は 根っこそのものだったり 土の下で木々や草花を支える見えない「根」と外に見える木々等のセットで 昼間と夜の全部!で切り替わる朝と夕の本のひととき 光でちょこっと挨拶?かのようです。このエノキのお話 哀しくもありがたく読ませていただきました。
狛 2022年9月19日 at 7:23 PM 返信 赤根さん> コメントありがとうございます。 地名について詳しく調べていらっしゃるのですね。 確かに、巨樹を巡っていると変わった地名に出会うことも多く、その地名の由来を読み解くことが巨樹の成り立ちについても有力なヒントになります。 尊ばれながらその場所から何百年も動かないモノですから、日本においてスクラップ&ビルドされがちな建築物よりむしろ過去を伝えているようにも感じています。 この「赤羽根」に関しては昔話でしたが、日本の昔話にしては鮮やかな色が取りざたされているところが珍しいようにも感じ、印象的でした。 もしかしたら陰陽道や風水の影響があるんじゃなかろうか……と、個人的には思いました。 なるほど、明るさや、時刻などと絡めて考えるとまた見えてくるものが変わり、この昔話に隠された民俗学ミステリーが解けてきそうですね。 訪問からしばらく経ちましたが、今も無事なのかな……と時折気になってしまう樹のひとつです。
2件のコメント
赤根修
素敵な記事をありがとうございます。自分の苗字が「赤根」なものですから、赤根、茜、赤羽、赤羽根、赤畝、赤土、赤埴・・などが近いらしく興味を持って調べ探し 地図を測ってみたりしています。土や植物、朝日 夕焼け 黄昏時の空を思い浮かべています。一,市がつく地名や 赤は明るい、光とも関係ありという方もおられ 赤根は 根っこそのものだったり 土の下で木々や草花を支える見えない「根」と外に見える木々等のセットで 昼間と夜の全部!で切り替わる朝と夕の本のひととき 光でちょこっと挨拶?かのようです。このエノキのお話 哀しくもありがたく読ませていただきました。
狛
赤根さん>
コメントありがとうございます。
地名について詳しく調べていらっしゃるのですね。
確かに、巨樹を巡っていると変わった地名に出会うことも多く、その地名の由来を読み解くことが巨樹の成り立ちについても有力なヒントになります。
尊ばれながらその場所から何百年も動かないモノですから、日本においてスクラップ&ビルドされがちな建築物よりむしろ過去を伝えているようにも感じています。
この「赤羽根」に関しては昔話でしたが、日本の昔話にしては鮮やかな色が取りざたされているところが珍しいようにも感じ、印象的でした。
もしかしたら陰陽道や風水の影響があるんじゃなかろうか……と、個人的には思いました。
なるほど、明るさや、時刻などと絡めて考えるとまた見えてくるものが変わり、この昔話に隠された民俗学ミステリーが解けてきそうですね。
訪問からしばらく経ちましたが、今も無事なのかな……と時折気になってしまう樹のひとつです。