巨樹たち

徳島県つるぎ町「白山神社のモミ」

徳島最大のモミに野生を見る

 つるぎ町一宇の尾根に位置する「赤羽根大師の大エノキ」から300メートルほど下ると脇道に入る階段があり、別の巨樹へアプローチできるらしい看板があります。

 車で登ってくる時にもこれを見かけ、寄らない手はないと決めたのですが、駐車スペースがないので、徒歩で向かいます。
 徳島県最大、全国でも第6位の大きさを誇るモミの巨樹がそこにあるという。
 徳島県つるぎ町の「白山神社のモミ」です。

 上り口こそ石段でしたが、舗装はそこだけで、薄暗い杉林の中を進むようになります。
 幸い、さほど長い距離を歩かずに白山神社にたどり着きます。

 鳥居と名が入った額はあるものの、建物は神社らしからぬ感じ。
 奥に戸棚のように閉まった部分があり、祭礼時以外は神社機能は仕舞われていて、板の間のスペースを集会所のように使っているのかも。
 いや……「かつて使われていた」が正しいのか?
 よそ者にはなかなか判別が難しいラインでした。
 陶器やビンなどの破片など、人の活動の痕跡が周囲に散乱し、朽ちるに任せているような印象。

 モミの樹は神社の裏手数十メートルといったところにあり、薄暗い林の中で、いきなりヌッと太い幹を現します。
 周囲の木々と調和せず、明らかに異質な存在感を放っている……。

 幹はかなり傾いていました。
 林の中での日射が偏っているのだと思われ、片面だけに濃く苔がむしています。
 そんな中でも、同じ太さのまま、とにかくまっすぐに成長しているモミの巨樹らしいスタイルは健在。

 「途中で葉をつけても意味ない」と割り切ったようで、はるか上空までまったく枝がない。
 生育環境ゆえか、剪定されないとこうなるのか、綺麗なクリスマスツリー型にはなっていない。
 屈折した感じがまた野性味や迫力をぶつけてくる。
 38メートルという樹高データが出ていますが、鉛直上の「高さ」ではなく、幹の「長さ」が38メートルかも。
 長野県「臥雲の三本杉」、神奈川県「五所神社の大イチョウ」とともに、傾斜族(?)メンバーに加えよう。

 傾いてはいるものの、不朽や空洞も見えないし、乾燥している側はモミ特有のゴツゴツした質感やパターンが美しい。

 他にもトチやカシのような樹種がポツポツありましたが、朽ちて菌類に蝕まれて崩壊し、決して安穏な環境ではないと物語っている。 
 陰気を感じる林の中だからこそ、このモミの樹皮の質感が際立って健全に目に映る。
(後でつるぎ町の資料を見てみると、すぐそばのアカガシの残骸はかつて名付きの巨樹だったらしい)

 実物を肉眼で見た感じでは圧倒されるほど大きいのに、写真に撮ってしまうと、のっぺりする。
 いやいや、この「伝わらなさ」こそがまさしく巨大なモミを見た実感でしょう、きっと!

 枝張りについては、今やデータほど広くありません。
 徳島県最大、全国第6位のモミ。幹周6.3メートルはモミとしてはかなりのもの。

 周囲にモミが見当たらないので、かつて人の手によって植えられたものでしょう。
 秘境の里から人が去りつつある今、残りある樹齢に野生を取り戻しつつある……そうも見えるモミでした。

「白山神社のモミ」
 徳島県つるぎ町一宇 白山神社
 推定樹齢:不明
 樹種:モミ
 樹高:38メートル
 幹周:6.3メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2019.5

 探訪メモ:
 駐車スペースがないので、転回に気をつけながら道が広くなった場所に置かせてもらうのが良いでしょう。
 森が暗く、ひとりで探訪する場合、少々コワいかもしれません。

 赤羽根大師からのアクセスは問題ない……とはいえ、県外者の訪問自体至難の技。
 ぜひセットで探訪おすすめします。どちらも記憶に残る巨樹です。

 スタイルそのままに巨大化するせいで、写真で大きさが伝えづらい「クリスマスツリー現象」を引き起こすモミ巨樹(我々の中で)。
 全国第1位の兵庫県「追手神社のモミ」、暫定第5位の福島県「雷電神社のモミ」などを撮りましたが、いずれも手こずってます。

 単幹では6メートル台にほとんどの上位ランカーが固まっている印象。
 巨樹の魅力は数値やランキングではなく、雰囲気やその樹の物語にこそあると思っていますが、モミはなおさらその感が強い。かな。

<徳島、つるぎ町の巨樹探訪旅の記事もどうぞ>
徳島・高知 四国巨樹探訪旅2

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