巨樹たち

徳島県つるぎ町「地蔵森のカゴノキ」

埋れつつあるカゴノキの巨樹

 険しいつるぎ町の尾根から降りてきて、国道(とは時に疑わしい)438号を進んで行くと、ふと道沿いに巨樹を示す看板を発見しました。
 (注記:当時はなかったのですが、数年ぶりに検索したらGooglemapにもポイントされてました。)

 ちょっとばかり感覚がおかしくなっているので、突発的に「見ましょう!」と満場一致可決。
 路肩に車を寄せ、一段小高くなっているところへ登っていくと、朽ちた雰囲気の中にその樹、「地蔵森のカゴノキ」はありました。

 人の手がなかなか入らなくなり、徐々に深い「森」の方へ還ろうとしているように見えます。
 かろうじて原型がありますが、鬱蒼としていて、たちまち縞のあるでかいが襲撃してきます。

 こちらがその巨樹、樹種はカゴノキ
 株立ちだということはすぐにわかりますが、かなり大きい。
 幹が日陰の中で湿っており、特有のグロテスクさのため気楽に近寄れない迫力がある。

 個人的にはカゴノキ巨樹は初見ですが、関東以西の分布のようで、特に瀬戸内では普通に見られるとのこと。
 「かご」というのは「鹿子」のことで、樹皮がはがれた部分がバンビ模様になるから。
 樹のどこかが籠状になるわけでもなく、この樹の何かで籠が作れるってわけでもなく笑……
 (後年、異種ながら性質の似ているバクチノキにも出会いましたっけ)
 生物学的にはクスノキに近いらしく、柔軟な樹形が似ているかもしれません。

 この樹の主幹は見ての通り5メートルを超えるほどの大きさですが、老齢のためかすでにその鹿の子模様はよくわからない。
 副幹というかひこばえというか、別の若そうな部分に、鮮やかな模様が見えます。
 (公式な大きさとして幹周9.4メートルとあるそうですが、これはサブの幹も合計した数値です)

 蚊!に刺されつつ裏側に回ってみると……かなり凄惨な印象。
 苔が生して分解が進み、もはや土に戻りつつあるか……。

 打ち捨てられた瓦礫が、さらに悲壮感を強める。
 実は、ひとつ前の「白山神社のモミ」でも、さらにこの後に見た巨樹の傍らも似た状況でした。
 しかし、憤慨しつつ観察すると、これ、どうもただの不法投棄ゴミではないかも。
 供物としていたらしい酒瓶や猪口、祭に使ったのか電球(電球はいずれの場所にもあった)など、そのなれの果てのようです。
 実際、先達さんのサイトで10年前の写真を見てみると、何やら祭事をしていたような風景も。
 これも迫りくる過疎の風かもしれない。

 腐朽激しい主幹に比べ、ひこばえの方は折れつつもまだ生きそう。
 カゴノキは家具材にもするそうですが、樹形からか量は取れないそうです。
 良材は木目の中に星模様が出るとか、滑りがいいので重い木戸の敷居に使うのがいいとか。

 そう、斜面にある別のカゴノキの大木(子孫?)こそ、まさに典型、幹全体の鹿の子模様はインパクト大。
 この樹だけ森の中で都市迷彩服を着てるかのようで、はっきり言って浮いてます。

 再び、巨樹の方に戻って。
 やはり正面から仰ぎ見て圧倒されるのが一番いい。
 もうだいぶ生きたわい……と、こわばった肉体で息をついているかのようでした。
 延命地蔵の背後は樹体が塊となって盛り上がっていて、生ける地蔵堂の風情かな。

 
 同行の二人から、道路からも見えると教えてもらいました。
 巨樹に「呼ばれた」と感じることも数度……この樹も朽ちつつある自らをモノ好きに見ておいてほしかったのかも。
 今後、カゴノキと聞けば、きっとこの樹を思い出すはずです。

「地蔵森のカゴノキ」
 徳島県つるぎ町一宇河内
 推定樹齢:不明
 樹種:カゴノキ
 樹高:17メートル
 幹周:9.35メートル(株)
    5.15メートル(単)

 町指定天然記念物
 訪問:2019.5

 探訪メモ:
 目印の看板はあまり目立ちません。
 山中と言っていい場所なので、スマホの電波が入らないかも。
 プリントアウトがリスクヘッジ、な土地柄ではあります。

 環境省DBで検索したところ、

 株立樹木の総幹周:935cm
 株立樹木の主幹の幹周:515cm

 という掲載がありました。
 株立ち全周とすれば一躍全国1、2を争う位置。
 ちなみにカゴノキの第1位は愛媛県大洲市「豊重のコガノキ」の9.5メートル。
 しかしこちらも、どうも数値ほど大きくはないようです。

(コガノキは誤植か? そのまま登録されてしまったのか……)

<徳島、つるぎ町の巨樹探訪旅の記事もどうぞ>
徳島・高知 四国巨樹探訪旅2

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