巨樹たち

栃木県那須郡「那須町のこうやまき」

城跡を守り続ける築城記念樹

 栃木県那須郡那須町、芦屋の街並みを見下ろす高台に、文明年間(1469~86)太田道灌が設計し、地元の芦野資興が修築したという「桜ヶ城」の城跡があります。
 現在は「芦屋氏陣屋跡」として城の姿はすでにありませんが、その築城記念として植えられたコウヤマキが今もなお健在だということを知り、夏の盛りに訪ねてきました。

 高台にある城跡へ続く道は草に覆われていましたが、丁寧に標識があり、迷わずに済みます。
 コウヤマキについても、最初に知ってしまう感じ。笑

 陣屋跡の、さらに一段高くなったところに、コウヤマキはありました。
 巨樹の基準を満たすモミなど、他の木々も少なからずありますが、明らかに他とは違った雰囲気を発しています。
 草のせいでどこが丘の上り口かもわからない状態。毛虫もいるし……
 と、ようやく石段を見つけて登っていくと、正面にドンと大きな姿を現わします。

 「那須町のこうやまき」
 直線的なフォルムの、凛とした巨樹です。
 高野槙は、名の通り高野山付近の山中に産する日本固有の樹種。
 古代から高貴な人物の棺桶に使われるなど材木としては非常に高級で、むしろシンボリックにその存在を扱われることが多い。
 姿がいいので身近にあればいいなと思うものの、庶民の庭木にするのは恐れ多いような樹種……。
 幹は杉のよう、全体の姿は松のようにも見えるし、しかし葉は槙というような外見は、奥ゆかしくありつつも目を引きます。

 コウヤマキ自体の全体数もそこまで多くはないようで、いわゆる巨樹として、幹周が5メートルを超えるようなものは環境省のデータなどを読んでもなかなか出てきません。成長速度がそれほど早くないのかも。
 そのような中で、この樹は幹周5.4メートルと、全国でもベスト10に入るだろう大きさを誇っています。

 幹周囲を判断する目通り高さより少し上部がさらに太くなっていて、いかにも身が詰まっていそう。数値以上にボリュームを感じます。
 大枝にあるのは、キツツキなどが空けた穴でしょうか。茂る枝葉が夏の日を緑色に染めます。

 枝が折れた箇所はあるものの概ね健全、まだまだ長い時代を生きられそう。
 城が完成した時ただ一本植えられた記念樹だそうで、周囲に同種のものがないのも当然ですが、無口で孤高……のような印象を受けました。
 その厳然とした意志で長い年月を生きてきた樹と言っても間違いはないでしょう。

 枝張りは広くありませんが、幹の立ち姿が実にかっこいい樹です。それこそ武将のようだとすら感じました。

 解説文。計算上、昭和32年の認定時のままの数値だと思われます(1486+470=1956年=昭和31年)。
 なので樹齢は評価よりさらに+60年(つま樹齢530年)、幹周囲も正確にはもう少し大きくなっている可能性もありますね。
 それより、大変に珍しくも貴重な、「証拠から樹齢が証明できる巨樹」と言え、この歴史的ロマンに大いに興奮致しました。笑
 もちろん、二代目じゃないの? という説は出そうですが、コウヤマキでこの大きさはなかなかない……。
 城がなくなって草叢と化しても、かつての城の緊張感を纏っているかのような樹です。

「那須町のこうやまき」
 栃木県那須郡那須町芦野2901
 芦野氏陣屋
 推定樹齢:530年
 樹種:コウヤマキ
 樹高:24メートル
 幹周:5.4メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2016.6

 探訪メモ:
 「那須歴史探訪館」とワンセットで訪問するのが良いと思います。
 地図の座標は精確ではありませんが、探訪館の裏手から城跡および高野槙へと続く標識が得られるはずです。

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