巨樹たち

兵庫県丹波篠山市「藤坂のカツラ」

兵庫県最大はこの巨樹

 福井の巨樹を巡り、車中泊を重ねながら京都、兵庫へと入った2018年5月の探訪旅。

 この日は土地勘あるto-fuさんに同行していただき、順調な探訪旅。
 兵庫県第一弾は、to-fuさんが魅せられるあまり三顧の礼を成し遂げてしまったという「藤坂のカツラ」。

 まず、篠山市は「ささやまし」であって「しのやまし」ではありません。※
 兵庫県の一番東側の内陸部、京都にめり込んだような形の市。かつて丹波と呼ばれた地域で、大半が森林と山の地形。夏暑く、冬寒い……。
(※2019.5、「丹羽篠山市」に変更されたそうです。)

 ケモノ除けゲートを自分で開け(もちろんその後閉め)、林道を進む。先達がいなかったら立ち入り禁止だと思って引き返しそうだ……。

 進むに従って傾斜がつき、とうとう道なき道、グラグラした木の階段に。この20分ほどの道のりが結構キツい。
 バックパックの重さで後ろに倒れそうなほど急なので、トレッキングシューズ、ポールもあった方がいい。あと、お水!

 ハードな登坂に息を切らせていくと……
「ああ……あれです」
 告げられて、ふり仰ぐ……

 おおお! あなたか!
 キツい傾斜のバニシング・ポイントを背負い、大カツラがそびえていました。

 書籍などの小さな写真はともかく、to-fuさんのサイトでしっかりとした写真を見ていたおかげでイメージは固まっていた。
 どうしても感動が減退しそうなところ、しかし、このカツラの、どうしてもふり仰がねばならない立地、身を反らして見上げた時の迫力は、やはり現地で味わうしかない特別なものだと断言できます。

 幹周は12メートルとも13メートルとも言われている。
 この前に訪ねた福井県「白山神社のカツラ」(14.5メートル)ともいい勝負をする巨大なカツラです。
 ひこばえが主幹を彩るように緑の葉をつけて密集していて、季節感を感じさせてくれます。

 単幹の杉の巨樹だと、1メートルの差も実感できるものですが、カツラの場合……よくわかんないですね。笑

 個体の姿形が皆違いすぎ、かつ複雑なので、全体像が把握しづらい。
 ましてや何メートルかなんて……「でかい」「すごくでかい」とか、そんなレベルでしかなくなってしまう。

 最初に生えていた幹が主幹であり、それを注視せよというのがオーソドックスな見方でしょうが、もはや、どれだかわからない。
 近くで見るに、不朽して中心部が空洞化している様子はなく、束になって、みっしりと結束している感じ。最初から株立ちだった可能性もあるのか。
 空洞化なしで13メートルあるのだから、やはりこれは相当な巨樹と呼ぶしかない。

 「巨樹・巨木林の会」資料を覗いてみると、現状、全樹種において兵庫県内で最大幹周を誇る巨樹とされています。

 カツラを見ていていつも印象に残るのが、アンバランスなほど長く伸びる枝。
 福島県「剣桂」は幹周はこれほどないですが、見ていて不安になるほどの樹高があります(45メートルあるらしい……)。
 幹ではなく、枝で樹高を稼いでしまうのがカツラの常。

 この「藤坂のカツラ」も主な枝が長大に伸び、35メートルにも至っている。
 しかし、中央部の枝の一本はどうやら最近折れた模様で、足元にそのまま横たわっていました。
 現地の方がチェーンソーで切断するだけしたという感じ。

 こんな長い枝を支えていたなんて……伸ばしすぎじゃないか? と驚くばかりです(to-fuさんによれば、この後も数度枝折れが目撃されている)。

 しかし、「いくら折れようが既にスタンバイ済み」がカツラの戦法。逞しいにもほどがある。

 振り仰ぐと、鮮やかな黄緑色の水玉が視界を埋め尽くす。
 ハート型できめの細かい可愛い葉っぱです。
 観察していて、このカツラの葉は少し小ぶりなように感じました。
 季節によって大きく姿が変わる樹種なので、通年通して探訪を楽しめる。

 カツラは北海道にも多いし、どちらかというと北方系の樹種だろうと思います。
 降雪がない関東平野では水量が足りないのか、ほとんど見られません。

 いやしかし……

 何度も書いてしまいますが、この険しい立地。
 30度くらいはあるんじゃないかという斜面、階段やウッドデッキ状の足場を作ってくれていなかったら歩行すら困難です。
 ものすごい踏ん張り方で長大な枝を広げている大カツラはほんと凄い。
 このカツラが押さえていなかったら、この斜面、大雨の日に土石流を巻き起こしそうです。

 カツラより上に石積みして崩落を防止していますが、その何百年も前から、大カツラはずっと踏ん張ってきたわけですね。
 若い樹の頃は危険もあったでしょうが、運にも恵まれ、生き延びたのだと思います。

 この、頭上全てを覆い尽くされる真っ正面からの対峙が最高。
 山の代表であり神の遣いであると言わんばかりに後光を背負っている。
 単純な大きさでは上述の「白山神社のカツラ」に軍配が上がりますが、ドラマチックさでは明らかにこちらです。

 それにしても、周囲にカツラがほぼ無いのはなぜだろうか……ふうむ、たいへんなミステリーに気づいてしまったものである。

 ……いや、解説にちゃんと書いてありますね。
 篠山市内に、大カツラはわずか2箇所しか存在せず、人為的に植えられたものなのでしょう。
 カツラが神像・仏像のために使う材でもあるのは意味深です。

 地元の春日神社では、神事にこの大カツラの枝を切ってきて使う習わしとか。
 地元の若い衆が「今年はお前の番じゃ、取ってこい」とか長老に命令されて、ひいひい言いながら斜面を登ってくる様を想像しました。

 そんな時も大カツラは「待っておったぞ」とばかり、神々しく迎えてくれるのでしょう。

「藤坂のカツラ」
 兵庫県丹波篠山市藤坂
 推定樹齢:不明
 樹種:カツラ
 樹高:38メートル
 幹周:13メートル

 県指定天然記念物
 全樹種幹周県第1位

 訪問:2018.5

 探訪メモ:
 獣害が多い地域のようで、あらゆるところにフェンスが張り巡らされています。
 このカツラへの入り口もフェンスがありますが、開けっぱなしにしなければ各自入っても良い仕様。
 フェンス近くに停めて歩きました。

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