巨樹たち

福島県西白河郡「剣桂」

鬼神退治の剣が突き刺さる

 「剣桂」を訪ねた日は雨で、しかもそれが、周囲が森深くなるにつれてどんどん土砂降りへと変わって行きました。

 有名な巨樹で、複数の書籍やGooglemapにも掲載されているし、道順で迷うことはないはず。
 長い甲子トンネルを抜けた先、ハイキング道や温泉に心惹かれながらしばらく探索、道路で案内板を見つけ、森へ踏み込む。
 数十メートル行くと、明らかに他とは雰囲気の違う樹を発見することができる……。

 ぬっと現れる黒く揺らぐようなフォルムに、毎回少しばかり緊張します。
 距離を詰めるにつれ、周辺の木立と競い合った末に出来上がったものか、非常に独特な樹形が見えてきます。

 ……というか、どこまで進んでもその頂点が見えない。
 異常なほど(解説によればその樹高は45メートルにも及ぶ)アンバランスに、上へ上へと伸びている。
 太い綱を束ねたようにも、風に炎を揺らす巨大な蝋燭のようだとも思い浮かべます。

 知らずに訪ねたとすれば、これにも驚くと思うのですが……根元の祠には本物の剣が奉納されています。
 日本刀ではなく、古代の剣です。かつての鬼神退治の伝説にまつわるもので、根元にあるのも、もちろんこの樹を神木とする「剣桂神社」です。

 云われを知ると、この樹形が地に直立した巨大な剣のようにも見えてきました。まさに名の通りの剣桂。

 太い根が今しも祠をひっくり返しそうでした。
 カツラの巨樹を見慣れてくると、主流が株立ちであること、「ひこばえ(予備の幹に育つ芽)」を生やして際限なく巨大化してしまう性質を知ることになります。
 スギやケヤキと比べ、果たしてこれを「一本の樹」と呼んでいいものか? と迷う……。

 実際、この剣桂も株立ちだと思います。横から見てみると、大雑把に言って大きな塊二つに分かれているのが見てとれます。

 スギやクスと異なるカツラ独特の性質は他にもあります。
 例えばカツラの葉(この写真に写っている丸っこいもの)は、よく「ハート形」と形容されます。剣のイメージのわりに可愛い葉っぱなんだね、と微笑ましい。
 黄葉すると、メープルシロップかみたらし団子のような、なんとも甘い香りがするんですよね。

 解説板がやけに豊かで、三つもある。
 データとしては、2000年の「森の巨人たち100選」が新しいので、これを参考にすべきかと。
 上記の剣の伝説は他二枚に詳しい(うち一枚は道路から森への入り口にあり、目印になっている)
 「城主・松平定信(楽翁)が鬼神を封じた」「その剣が刺さってるのが見える(!)」など、伝奇ロマンな記述がそそります(実際覗き込んでみましたが……剣は発見できませんでした)。
 松平定信は西暦1800年頃の人物だそうなので、剣桂の樹齢は逆算で考証されているということでしょう。

 アクセス悪くなく、ちょっとしたドライブとアウトドア気分を満たしてくれるため、好きな巨樹です。
 夏場は近くの「新甲子遊歩道」で潤いに満ちた森林を満喫するのもオススメです。

「剣桂」
福島県西白河郡西郷村小田倉
推定樹齢:370年
樹種:カツラ
樹高:45メートル
幹周:9.7メートル

森の巨人たち100選
緑の文化財 登録280号

訪問:2016.7、2017.8、2019.1

探訪メモ:
 夏の訪問時は二度とも大雨。
 体が冷え、近くの旅館の温泉に立ち寄って帰りました。
 登攀などはありませんが、足元がぬかるみます。雨具、防水性の軽登山靴など欲しいところ。
 冬は……下に書きますが、温泉宿も閉鎖してしまいます。

❅ 冬季閉鎖にご注意 ❅

 雪の中の剣桂を拝んでみたかったのですが、甘過ぎました。
 まず、剣桂まで下る斜面がゲートで閉鎖され……いや、分厚い雪で全てが埋もれてしまいます。
 道路はブラック・アイスバーンで、車から降りた途端、滑って転びました(あばら骨激痛)。
 直後、イノシシも出没。
 近隣に迷惑をかけないためにも、無茶はよしましょう。

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