巨樹たち

茨城県久慈郡「高徳寺のシラカシ」

世にも奇妙なハイブリッド巨樹

 茨城県久慈郡大子町、真夏の巨樹探訪。
 シメに、変わり種の巨樹を訪ねてみました。
 不思議な巨樹「高徳寺のシラカシ」です。

 幹周5.5メートル、樹高25メートル。
 ちょっと枝ぶりが奇妙な感じもしますが、成長が遅いカシの樹にしては、なかなかに立派だと言えると思います。

 まあ、カシにしてはね。
 ……なんて、勿体ぶっても話は進まないので、この巨樹の「不思議」について種明かしをどうぞ。笑
 というか、この樹の違和感については、勘の良い方ならトップ写真で気づいたかもしれませんね。

 いつの間にかクイズみたいになってて鬱陶しいですが……
 この樹の中心軸から左右対称に樹皮の模様が異なっています。
 そう、なんとこの巨樹、「シラカシ」と名はあるものの、シラカシなのは半身だけ。
 もう半身はカヤだという、珍しい異種合体樹なのです!

 巨樹をそれなりに見てきて、「合体樹」というものは案外たくさんあるのだと知りました。
 複数本融合して巨大化するスギは珍しくないし、過程で成長速度の違いによって別種の樹が巻き込まれたり、うろの中に落ちた種子が発芽したりして異樹種が合体することも、あるにはある。

 しかし、樹種が異なる場合、力関係の優劣が見て取れるのが普通です。
 この樹のように、50%がシラカシで残り50%がカヤなんて状態は見たことがない。

 さらっと見ただけでは、いかにも一本の樹にしか見えない見事な融合ぶり。
 その上健康そうだし……その「普通にしてる」って様子がやっぱり摩訶不思議ですよね。

 背合わせに二神が融合し、物事の内と外を同時に見、一年の終わりと始まりを司る古代ローマの神、ヤヌス。
 あるいはお寺だからと歓喜天を想像すべきなのか……(高徳寺の本尊は阿弥陀様だったようですが)。
 あまりに奇妙で神秘的な状態なので、そんな想像も膨らみます。

 見る方向によって、カシ/カヤの二面性が切り替わる。
 カヤの直線的なシルエットと軟体的なカシのそれが同居していて、実に奇妙です。
 植物学的に見ても、カヤが裸子植物であるのに対しカシは被子植物。
 分類の1番目の項目ですでに「違う」と判別されてしまい、要するにどこも似ていない者同士がこうして一体となってしまっている現実。

 葉っぱだって、ムカデみたいなカヤのものと、濃い緑色が映える広葉樹のカシでは全く違う。
 違うのに、一本の太い幹から、さも普通の顔をして、両方の枝葉が伸びて共同の樹冠を形成している。 
 見上げて左側がカヤ、右側がカシの枝でございます……なんて、意味わからん。

 こんな特別な樹がいとも健やかにやっている様子、だんだん呆れてきましたよ。
 はい、左手に見えますのが生ける不可思議。
 右手には、普通に大きな隣人(幹周5メートルほどか)、イチョウの樹です。

 ここ高徳寺の茅葺の楼門は大子町の指定文化財だそうで、他にも様々な文化財を所蔵されているとのこと。
 それらについての解説はありますが、目の前のミステリアス巨樹に関しては一文の言及もなし。
 天然記念物指定ナシながら、お寺の保護に恵まれて巨樹となったのでしょう。

 実際、関心を向けるのは我々のような巨樹愛好家だけだと思われます。
 ヤマトの配達員さんと挨拶を交わしましたが、(何撮ってんだろ?)みたいな雰囲気だったし。
 いや、すごいと思うんですよ、この樹……。

 と、ポトン! ポトン! と何かが音を立てて降ってくる。
 足元を見ると、その正体、青いギンナンとカヤの実が一面に落ちていました。

 そう……カヤ目線で言えば、相方のカシよりもイチョウの方が近い間柄だったのでは?(イチョウは針葉樹)
 などとも勘繰りますが、イチョウ、カヤ、カシ、どれも実をつける樹種で、そこに共通点があったのかもしれません。

 緊急食糧としてカヤなどをお寺に植える例は多いですし、もしかするとミックスナッツ状態で持ち歩いて植えた人がいたのかも? と。
 カヤとカシ、成長速度が遅い点も似ているのかもしれず、同時に生育がスタートしたため、こんな面白い状態になったのかもしれません。
 もしイチョウとペアにされていたら、今頃ここに立っているのはイチョウ巨樹だけだったでしょうね。

 全く違う性質の他者を押し退けるでもなく、呑み込んでしまうでもなく。
 「互いに支えあってこそ高く立ち上がれる」とでも言っているかのよう。
 同じくらいの、全く違う彼らは、これからも身を寄せ合って共存していくのでしょう。

 面白く、不思議で、珍しい。
 巨樹のバリエーションとしてとても貴重な、印象に残る一本でした。 

「高徳寺のシラカシ」
 茨城県久慈郡大子町上郷2056
 高徳寺
 推定樹齢:480年
 樹種:シラカシ+カヤ
 樹高:25メートル
 幹周:5.5メートル

 訪問:2018.7

探訪メモ:
 大子町市街地から北上すること十数分、ここから先は山道になるような気配の土地です。
 高徳寺の看板、駐車場もあり。

 推定樹齢はおおむね高徳寺の興りに由来して考えられていると思われます(大子町の観光サイト)。

 ちなみに、この樹と並ぶ異種合体樹といえば……

 福井県「一里塚のケヤキとエノキの合体樹」や、茨城県「猿喰のケヤキ」もモミジとの合体樹です。

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