巨樹たち

岩手県陸前高田市「常膳寺の姥杉」

掛け値なしの巨杉を味わう

 「大船渡の三面椿」の後、どうしても素通りするわけにいかない一樹をマークしてありました。
 車でわずか15分足らず。陸前高田市に入ってすぐの常膳寺(じょうぜんじ)がその所在です。

 常膳寺は集落の奥まったところにあり、車がすれ違えないくらいの細さの道が100メートルほど続きます。
 訪問時、Googlemapのストリートビューも奥までは届いていず、停められる、あるいは転回できるスペースがあるのか?(なかったら泣く)と、途中で下車して探りに行ったりも。
 幸い、突き当りの墓地横にお墓参り用とみられる数台分のスペースがありました。

 下車し、本堂に続く石段にアプローチしようとして、立派なスギに出会う。
 杉並木の顔として突端にあり、幹周4メートル程度ありそう。
 ははあ、これがそうだなと。奥に、もう一本姿の違うスギも見えますしね。

 しかし、すいません。これらではなかった。
 全く、ぜんぜん、違いました!

 もうほんと、段違いに物凄いのが奥に……!
 半身を影に染めるようにしてそびえ立っているではありませんか!

 これが「常膳寺の姥杉(うばすぎ)」。
 無茶覚悟で超広角で仰ぎ見ない限り全体像が捉えきれない。
 他のスギたちと同じ生命体だとは思えないような、驚くべき大きさです。

 幹周は9.6メートルと記録されている。ということは、「三陸大王杉」「和賀仙人姥杉」「白山杉」に次いで岩手県第四位の巨杉です。

 一方で、脳内DBからダウンロードしたのは新潟県「小俣白山神社の姥杉」で、10メートル近い幹周囲、石段脇の斜面地でぐっと踏ん張っている姿も似ている。
 「姥杉くらべ」になってしまいますが、樹齢としても五分というところか。本当に1000年生きているのかはわからないながらも、これでまさか300年足らずということはなかろうと思わせる迫力。

 浮つく気持ちを鎮めるために本堂に参拝、振り返る。……やっぱりそこに規格外の巨杉がある。
 正面は見事だが裏面は朽ち果てているとか、そういうことも全くない。惚れ惚れする主幹で立っています。
 「巨樹の魅力は数値やランキングじゃねえぜ」とも語れますが、「見た目も数値もデカすぎる!」 と素直に腰を抜かせるシアワセも確かにある。ここでは認めるしかありません。

 昭和44年頃記載と思われる解説には、70メートルというとんでもない樹高が記されている。
 もし本当にこれほどの樹高があったとすれば、68メートルとされていた高知県「杉の大杉」と同等、日本で最も高い樹木だった可能性すらある。
 いやしかし、レーザーもドローンもない当時、どうやって正確に測ったものか……。

 時刻がら、すさまじい逆光でしたが、諦めずに樹冠部を捉える試み。
 そろりそろりと細道を進んでいた時、すでにこの先端が見えていたわけですね。

 70メートルはさすがになさそうですが、現在でもかなり樹高が高く、これまで見てきた50メートルクラスのスギと比べても遜色ない。
 落雷か強風で主幹が大きく折れたようにも見えないし、「岩手県で最も樹高の高い巨樹」と言って齟齬はないはず。
 幹周で上回る上記巨杉が大きな折損を経験し、太いけれども樹高はそれほどでもないことを思い出せば、太さ・高さを兼ね備えたこの姥杉の偉容がさらに引き立つというものです。

 姥杉に興奮して本堂を撮るのを忘れましたが、ここ鶏頭山(けいとうざん)常膳寺の十一面観音像は秘仏で、17年に一度しか開帳されないそうです(本開帳はさらに33年に一度)。3メートルもある立像だそう。本堂自体も気仙地域で最も古い建築だとありました。
 姥杉を中心とした木立に囲まれ、木漏れ日を浴びる。厳かながら、なんとも気持ちが鎮まる空間でした。

「常膳寺の姥杉」
 岩手県陸前高田市小友町上の坊24
 常膳寺
 推定樹齢:1000年
 樹種:スギ
 樹高:50メートル
 根周:9.6メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2024.4.13

探訪メモ:
 常膳寺に通じる道は車一台分の幅しかない坂道。奥の墓地に2、3台停められるスペースがあります。
 「大船渡の三面椿」も近いので、併せてぜひどうぞ。

 常膳寺は 「気仙三十三観音霊場」のひとつで、坂上田村麻呂の鬼退治の伝説もある。蕨手刀など遺物も発掘されたそうですよ。

4件のコメント

  • to-fu

    日当たりがそこまで悪くないからなのか、感想はまずデカい!よりも綺麗なスギだなあ、が来ました。
    鬱々とした妖樹のような存在が多い姥杉界の中ではレアな個体なのではないかと。

    そして改めて見てみると、いやいやデカい! 笑
    巨樹の魅力にも様々な系統がありますが、やはり仰るように10mクラスのものになると理屈抜きに脳をガツンと
    ぶん殴りにくるバーサーカー的な破壊力があります。学術的価値?いいから見て驚けよ、みたいな。
    解説文もシンプルでいいですね。変に逸話で盛るのではなく、県下一デカいぜ?以上。単純明快です。

    地域の歴史や何かと照らし合わせながら眺める巨樹もオツなものですが、そういうのばかり見ているのもしんどいので、
    旅の軸となるこういうシンプルな巨大樹木が一本は欲しくなります。
    岩手を目指す。そのきっかけとなる一本にふさわしい巨杉ですね。

    • to-fuさん
      岩手県でもかなり海側にあり、雪の影響が小さいと示しているのかもと。こいつはオモテ杉だ! と自信をもって呼べる巨杉でした。
      図体から茨城県の「真弓神社の爺杉」も思い出しましたが、あの背面がじめっと苔むしていたのはやっぱり陽当たりですよね。
      ……にしても、爺、姥とややこしいな。苦笑

      バーサーカー的破壊力。笑 まさしくそうですね。考えるより感じろってやつです。
      まあ、それこそ数値順に巡ってしまうのも、それはそれで同じように見えてきてしまって勿体ないわけですが、読むタイプの巨樹が続いてからこうしたパワー型の前に立つと、初心を思い出せるような気もしますね。

  • RYO-JI

    うーむ、これはシンプルに凄い!
    ズドンとわかりやすくただただデカイですね。
    周囲の樹々との遠近感がおかしすぎて目を疑ってしまいます。
    普通に樹高が70mと聞いたら『いやそれ絶対ウソ!』と言い切ってしまいますが、
    この姿を見たら『あり得る!』とあっさり信じてしまう。
    おっしゃるように数値やランキングはただの数字でしかありませんけれど、
    やっぱりその目立つ数字だけのことはあるなぁと頭を殴られたような衝撃を受けましたよ。

    • RYO-JIさん
      わかりやすさが嬉しい巨杉。こういうタイプには久しぶりに出会いました。
      出会いました、って、狙って行けば会えるわけですけど、岩手の静かなこの地、どちらかというと海に近い立地に立っているという地理感も良い感じです。
      樹高については現代でもかなり測定が専門的技術を要するんじゃないでしょうか。レーザー距離計でいわゆるピタゴラス計算ができるヤツなら……と思うも、まっすぐ立って樹冠まで見える個体は少ないですし。
      ドローンによるレーザー、点群データでやるのが一番良さそうですけども。買えないな。笑
      まあ、正確な数字が分かったらどうなんだ? とも言えますね。こういう巨樹は現地で見てこそ、ですね。

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