巨樹たち 青森県上北郡「根岸の大イチョウ」 / 4 コメント 青森巨大イチョウの洗礼 岩手県「三陸大王杉」を経由し、ひたすら三陸道を北上し続け……そのすえに日が暮れかけてしまった青森県巨樹旅の一日目。 単調な数百キロが続いたあまり、もうひとつ悪あがきできないもんかと、急にそんな気になってきました。 で、八戸市市街からさらに30分あまり北上し、おいらせ町に到達。 ここに青森県太平洋側を代表するイチョウ巨樹があると聞いて。 現着、ありがたいことに、図書館のあるコミュニティ施設「みなくる館」の広い駐車場が使えます。 イチョウへはここから道路を数十メートル、徒歩でOK。 鳥居の手前に早や解説板があり、情報を入れてから巨樹と対面するスタイル。 ですが、ひとまず置いておきましょう(理由は後述)。 この時点で、目の前が完全に明るい緑色の塊に塞がれている。 幅も広ければ高さも高い、もちろんあれがイチョウの巨体です。 「根岸の大イチョウ」、初見の図。 この時点ですでに、関東~南東北にかけてのイチョウ巨樹筆頭勢と互角以上の大きさをぶつけてきます。 イチイなど周囲の樹木が迫っているのも手伝って、幹を観察するにはワイルドな勢いの枝葉の懐に潜り込まねばならない……。 (卒塔婆のようなのは木製の標柱。かろうじて読める程度) イチョウ特有の無軌道な成長を感じさせる主幹部。 これでもまだ側面から見た図……と言えばいいのか、複雑な樹形をしています。 幹周囲は14メートル以上とされ、現在青森で4位、全国では11位のイチョウとランクされているそうです。 気根(いわゆる垂乳根)で幹を太くしており、お決まりの「乳イチョウ信仰」もあったようですが、これまたお決まりの皮肉、この樹は雄でギンナンはならない。 「乳イチョウ」の大半は雄で、正しく(?)雌の垂乳根イチョウ巨樹は、岩手「黄海のイチョウ」、宮城「苦竹のイチョウ」など。 最も太さを実感できる位置で超広角レンズを構えてみる(やはり他樹木が入り込むので引きが撮れない……)。 大別すれば二又に分かれており、向かって左の幹には気根が多く、右の幹はどちらかと言えば萌芽枝傾向のよう。 幹ごとの樹齢、陽当たりや折損によっても戦略を切り替えるのかもしれませんね。 反対側の奥、不動堂がある方に回ると、すっぽりとイチョウの木陰に入ってしまい、かなり薄暗い。 参道の敷石が根によってめくり上げられており、その向かいにはあからさまなほどの更新によって生じた「もうひとつの幹」が見てとれます。 分岐していますが、まとめて測ればこれも4メートルくらいにはなるはず。 でも、これくらいで驚いていてはいけないんです…… ちょっと視線を左に動かすと……(上の写真と続けて見てみてください) あの、これ……いったい何なんですか!? すぐとなりにもうひとつ、未チェックのイチョウ巨樹がそびえている。 分岐していて幹周囲計測に物議を醸しそうですが、単純に「幹」一本を測っても余裕で4メートル以上はあり、樹高も30メートル以上ある。 でもこれも、明らかに大イチョウの「分身」ですよね……。 あまりにも旺盛な生命力、野心とも呼べる繁茂力に、ただただ唖然としてしまいました。 それと、気づいた方もいらっしゃるでしょうが、当日八戸周辺は台風なみの暴風が吹き荒れており、当たれば即死レベルの落枝がいっぱいありました。 二樹の奥に転がっている人力運搬不能なカタマリも折れ枝……こういうのからもイチョウは芽と根を発生させ、殖える。 ほとんどエイリアンです。 で、ここで前述の解説文を。 慈覚大師(円仁)は、9世紀、比叡山の最澄を師とし、東北を巡って布教につとめた高僧。 ぶっ刺し伝説の一派ですが、居眠りをしている間に杖が根付いてしまったという。 ははは……とユーモラスに感じつつも、大イチョウの凄まじいまでの更新力を見せつけられた自分としては、ちょっと妙な後味が残りました。 イチョウは仏教伝来とともに持ち込まれたとも言われ、事実、仏僧の手によって広められたのかもしれません。 大師は夢の中に見た不動尊の姿を木像に刻み、今も奉られているのだそうです。 ただ、つまらない注記をすると、この解説のデータはだいぶ古く、不正確。 昭和63年の第一回調査時点では、圧倒的な「北金ヶ沢の大イチョウ」なども集計漏れしていたか……書物によっては「集計間違い」としているものもありました。 シール修正でも良いと思うので、手を入れて頂けるとマニアは喜びます。 駐車場の看板(最上部に掲載したもの)は比較的新しいようで、「長寿日本一」とボカす道を選んだようですね。 まあ、このほぼ不定形と言っていい樹形ゆえか、書物によって幹周も順位もバラバラだったりします。 青森県の巨樹を旅する上ではこういう事案が発生し続けるのだろうな……という予感も、なぜか、すごくある。苦笑 細かいことは気にせず、ただ圧倒されてしまえばいいのですね。きっと。 ……それより、この暴風はなんなんだ! 落枝に叩き潰されたくない! ヘルメットすらないワタクシは、すごすごと後ずさりました。 「根岸の大イチョウ」 青森県上北郡おいらせ町東下谷地9 推定樹齢:1100年 樹種:イチョウ 樹高:33メートル 幹周:14.1メートル 県指定天然記念物 訪問:2023.10 探訪メモ: 青森県観光サイトには黄葉スポットとして美麗に掲載されていました。 アクセス良好、「みなくる館」まで来ればひと安心。 近くにはその名も「いちょう公園」という運動公園がありますが、なんかデカい自由の女神像もある。 由縁は……調べてみてください。 この旅の模様は、「2023年・青森県東部巨樹探訪1」でどうぞ 関連
to-fu 2023年10月19日 at 10:10 PM 返信 これはすごい 笑 いや、本当にシンプルにすごいとしか言葉が出てこないくらい立派なイチョウですね。 ここが青森県でなければ間違いなく地域ナンバーワンのイチョウとして名を馳せていたことでしょう。 この手の巨大すぎるイチョウって逆に撮影が難しいんですよねえ。 広角域だと全然収まりきらないし、かといって超広角で全てを収めてしまうとむしろちっぽけに見えてしまって。 イチョウではありませんが「杉の大杉」とか、大きすぎるとむしろ撮影を諦めてしまいたくなります。 イチョウはカツラと同じで幹周の定義がわりと曖昧なので実際見に行かないことには何も分かりませんね。 いや、カツラ以上にあまりにも葉の量が多いので、実物を見たところで樹形が全然分からないことも多々ありますが 笑 最近四国のイチョウをよく見ますが、やはり温暖な地方だからなのかズドンと単幹で育つタイプがとても多い。 この荒々しい姿が東北っぽいなあと興味深く写真を眺めました。 葉の量が落ち着いて黄葉シーズン前で人も少ない今がイチョウの巨樹的には一番おいしい時期かもしれませんね。
狛 2023年10月20日 at 9:29 AM 返信 to-fuさん> 青森のイチョウ巨樹といえばどうしても「北金ヶ沢」ですが、いきなりそれでいいのか? それだけ行けばいいのかい!? と思うんですよね! ……いやまあ、本当は青森が広すぎてムリという判断ですが、「根岸のイチョウ」、イチョウ王国へのエントリーとして相応しい巨樹でした。 十分すぎるほどにデカく、しかしこの上も、そのまた上もあるのか! という、いわばベンチマークになってくれると思います。 と言いつつ、撮影では早々に困ってしまいました。苦笑 このイチョウの場合、折損もあってか、樹下に入れば比較的幹を観察しやすいと思いますが……何せデカい。 障害物ある中でこの大きさなのでもう初手から超広角しかないんですが、東西南北で全く形を変えてしまうし、全貌を捉えた気になれないんですよね……。 この点は「北金ヶ沢」も同様でしょうが、身近なイチョウ巨樹を何本かムリヤリくっつけたのがこのタイプの巨大イチョウだとも言えそう。 ここはあのイチョウ巨樹に似てる、だが、こっちに回ればまるでアレだ……みたいに見ている自分に気づきました。 暴風の中での枝の轟きが怒っているようでもあり、人里にありつつ人の手から離れようとしている強大な存在として記憶に残りました。
RYO-JI 2023年10月20日 at 9:34 PM 返信 青森と言えばイチョウ王国、その名に嘘は無しと思わせる迫力満点のイチョウですね! 凄まじいまでの子孫繫栄への執念、白い柵の意味ないんじゃあ・・・と思わせてくれるほどです。 周囲に樹々がたくさんあるせいでわかりにくいですが、これが単独で存在していたらとんでもないスケール感を味わえそう。 なのにアクセスが非常に良いのがまた有難いですね。 居眠りをしている間に杖が根付いてしまうだなんてあり得ない・・・そんなことは子供でも指摘できそうな話ですけど、 イチョウのモンスターぶりを知っているからこそ『ひょっとして・・・』とわずかでも受け入れてしまいそう(笑)。 巨樹好きだからこそ落枝の被害には遭いたくはないし、遭わなくて良かったですね。 そう、クマ鈴同様にヘルメットも必須アイテムになるかもしれませんね。
狛 2023年10月21日 at 8:09 AM 返信 RYO-JIさん> 初上陸の青森、どのイチョウを最初にしようか……と、実際は寸前まで決まりませんでした。 幹周10メートルクラスはざらにあるし、かといってそれぞれ個性がある樹種ですしね。迷いました。 確かにこの白い柵、イチョウが完全に越境してしまってますね。笑 枝はもちろん、根っこも……なんだか「三陸大王杉」の時にも同じようなこと書きましたが、とにかくここ一帯がこのイチョウです。 本来根っこを踏まないように柵を作ったはずなのに、保護対象は逃走?しようとしています。 見てる前でも落枝があって、割と本気で防具が欲しくなりましたね。実際危なかったと思います。 「ぬののふく」以上の、なんか、「かわのよろい」とかが必要か……また装備品が増えてしまうのか? みたいな。笑
4件のコメント
to-fu
これはすごい 笑
いや、本当にシンプルにすごいとしか言葉が出てこないくらい立派なイチョウですね。
ここが青森県でなければ間違いなく地域ナンバーワンのイチョウとして名を馳せていたことでしょう。
この手の巨大すぎるイチョウって逆に撮影が難しいんですよねえ。
広角域だと全然収まりきらないし、かといって超広角で全てを収めてしまうとむしろちっぽけに見えてしまって。
イチョウではありませんが「杉の大杉」とか、大きすぎるとむしろ撮影を諦めてしまいたくなります。
イチョウはカツラと同じで幹周の定義がわりと曖昧なので実際見に行かないことには何も分かりませんね。
いや、カツラ以上にあまりにも葉の量が多いので、実物を見たところで樹形が全然分からないことも多々ありますが 笑
最近四国のイチョウをよく見ますが、やはり温暖な地方だからなのかズドンと単幹で育つタイプがとても多い。
この荒々しい姿が東北っぽいなあと興味深く写真を眺めました。
葉の量が落ち着いて黄葉シーズン前で人も少ない今がイチョウの巨樹的には一番おいしい時期かもしれませんね。
狛
to-fuさん>
青森のイチョウ巨樹といえばどうしても「北金ヶ沢」ですが、いきなりそれでいいのか? それだけ行けばいいのかい!? と思うんですよね!
……いやまあ、本当は青森が広すぎてムリという判断ですが、「根岸のイチョウ」、イチョウ王国へのエントリーとして相応しい巨樹でした。
十分すぎるほどにデカく、しかしこの上も、そのまた上もあるのか! という、いわばベンチマークになってくれると思います。
と言いつつ、撮影では早々に困ってしまいました。苦笑
このイチョウの場合、折損もあってか、樹下に入れば比較的幹を観察しやすいと思いますが……何せデカい。
障害物ある中でこの大きさなのでもう初手から超広角しかないんですが、東西南北で全く形を変えてしまうし、全貌を捉えた気になれないんですよね……。
この点は「北金ヶ沢」も同様でしょうが、身近なイチョウ巨樹を何本かムリヤリくっつけたのがこのタイプの巨大イチョウだとも言えそう。
ここはあのイチョウ巨樹に似てる、だが、こっちに回ればまるでアレだ……みたいに見ている自分に気づきました。
暴風の中での枝の轟きが怒っているようでもあり、人里にありつつ人の手から離れようとしている強大な存在として記憶に残りました。
RYO-JI
青森と言えばイチョウ王国、その名に嘘は無しと思わせる迫力満点のイチョウですね!
凄まじいまでの子孫繫栄への執念、白い柵の意味ないんじゃあ・・・と思わせてくれるほどです。
周囲に樹々がたくさんあるせいでわかりにくいですが、これが単独で存在していたらとんでもないスケール感を味わえそう。
なのにアクセスが非常に良いのがまた有難いですね。
居眠りをしている間に杖が根付いてしまうだなんてあり得ない・・・そんなことは子供でも指摘できそうな話ですけど、
イチョウのモンスターぶりを知っているからこそ『ひょっとして・・・』とわずかでも受け入れてしまいそう(笑)。
巨樹好きだからこそ落枝の被害には遭いたくはないし、遭わなくて良かったですね。
そう、クマ鈴同様にヘルメットも必須アイテムになるかもしれませんね。
狛
RYO-JIさん>
初上陸の青森、どのイチョウを最初にしようか……と、実際は寸前まで決まりませんでした。
幹周10メートルクラスはざらにあるし、かといってそれぞれ個性がある樹種ですしね。迷いました。
確かにこの白い柵、イチョウが完全に越境してしまってますね。笑
枝はもちろん、根っこも……なんだか「三陸大王杉」の時にも同じようなこと書きましたが、とにかくここ一帯がこのイチョウです。
本来根っこを踏まないように柵を作ったはずなのに、保護対象は逃走?しようとしています。
見てる前でも落枝があって、割と本気で防具が欲しくなりましたね。実際危なかったと思います。
「ぬののふく」以上の、なんか、「かわのよろい」とかが必要か……また装備品が増えてしまうのか? みたいな。笑