巨樹たち

青森県八戸市「七崎神社の大杉」、ヒバの神木

個性豊かな神木たちが続々…

 青森県東部の巨樹探訪、八戸市に宿をとっての二日目、早朝。
 八戸駅から西へ車でおよそ15分走り、上永福寺集落へ。
 南部藩代々ゆかりの永福寺は「普賢院」と名を変えて現存しており、若いご住職がアイデアを凝らしておられるようです。

 もう少し進むと、ほどなく「七崎(ななさき、ではなく『ならさき』神社」の朱色鮮やかな大鳥居が左手に見えてきます。
 七崎神社も平安時代の創建時には「七崎山徳楽寺」というお寺だったようで、神仏習合の時代を経て、明治の神仏分離令により神社となったそうです。
 前述の永福寺は、七崎神社の別当寺(神社を管理するために置かれたお寺、=神宮寺)だった、とのこと。

 停車前から、早くも大杉の威容が目を捉える……。
 前情報として、青森で最大級の大杉だと聞いていますが、偽りない大きさ。

 「七崎神社の大杉」、その最大の個体。
 幹周8.8メートル、樹高は40メートル近くある単幹。
 八戸にはあまり積雪がないそうで、とっても寒いのは確かですが、少なくともスギが雪の重みにへし折られて分岐するようなことはない。
 よって、はっきりしたオモテスギ型となる。

 どの県にあったとしてもまず代表的なご神木と呼べる規模のはずで、一目見て「ああ、これは立派だ」と安定の納得感が湧きました。

 しかし、高齢なのも確かそう。3、4メートル上にはぽっかり深いウロが空いていて、すっかり空洞となっている内部にはハチの巣ができていたそうです。
 分岐しなければ空洞化する。そもそもそれがスギ巨樹の一生なのでしょうね。
 太い根本のくぼみごとに、ひとつ、ふたつと小さなカップ酒のお供えがあり、信奉の篤さを感じさせました。

 進んでいくと、もうひとつの鳥居の奥に、元お寺にふさわしい門があります。
 現在、中にはお稲荷さんがおられるようです。

 門をくぐってすぐ、右手に第二の大杉が見えます(手前の建物は神輿堂)。
 これも7メートル超の幹周があり、樹高も40メートル近いとても立派なもの。

 幹は迷いのない直進型単幹ですが、大きく露出してタコのようにうねっている根が興味を惹きます。
 近くに立ってみると、ただただ、でっかい。
 茨城県「筑波山神社の大杉」を思い出しましたが、状態はこちらの方がずっと良さそう。
 門から内側は鬱蒼として薄暗く、空気自体が湿っているように感じます。
 土もまた常に濡れたようになっていて、多くの水分を得られそうです。

 間口からは想像できなかったのですが、境内は広く、末社なども色々とある立派な神社でした。
 書き忘れてましたが、狛犬は2匹ずつ、計4匹もいます。

 拝殿への石段を上る……と、その左手に、ズーンと空気を重くする黒くて高い影が立ち上がっているのに気づきます。
 なんだこれ……と、恐る恐る見上げます。
 幹周4メートルくらいでしょうか、もちろん巨樹と呼べる規模ですが、一見して何の樹かわかりません。

 葉を見て、ヒノキの仲間だろうとは思いましたが、立ち姿にどうも違和感がある……。
 樹皮には檜皮がなく、黒ずんだ感じ。
 じっとりと暗いような日陰にありながら、やけに背が高い(30メートルくらいある)のも(とても)気になる……。
 もちろん見分ける自信がないから迷うわけですが、ヒノキかサワラかとするには違和感を感じ、ほとんど見た経験のないクロベか? 
 いや、にしては、落ち葉が明るい色をしているな、と。

 ずっと「気になるあいつ」という感じのまま仙台まで帰り着きましたが、書籍「青森県の巨樹・古木を訪ねて(東奥日報社)の七崎神社の頁に、「この地方には珍しいヒバの古木が育ち、」との記述を見つけました。

 ヒバ! あれが話に聞く青森ヒバだったのか、と目からウロコ。
 実はこの後、地元の方に青森ヒバについて解説を頂く機会があり、いわく、他のどんな樹種より日陰に強い「スーパー陰樹」なんだそうです。
 この巨樹の姿、薄暗い周囲環境を思い出せば、なるほど! と。
 個人的にここ七崎神社でのイチオシ巨樹はこのヒバ。ぜひ注目して頂きたいです。 ※1

 という感じで、いよいよ拝殿に参拝を果たすと、その左手奥にもスギの神木がある。
 これも根上がりして、他2本よりは少し細身ですが、しっかり30メートル以上の樹高があります。
 ここからが本当の聖域だぞと言わんばかりの厳かさを感じさせました。

 上記してきた3本のスギがそろって市天然記念物に指定されており、七崎神社ではこれらを「北斗の鉾杉」と呼んでいるそうです。
 かつて7本のスギを北斗七星を象った位置に植えたためだそうで、現在残っているのはそのうちの3本とのこと。
 歴史と巨樹に恵まれた、見どころの多い神社でした。

「七崎神社の大杉」
 青森県八戸市豊崎町上永福寺127−2
 推定樹齢:900年
 樹種:スギ
 樹高:36メートル
 幹周:8.8メートル

 計3本のスギが市天然記念物
 他、青森ヒバの巨樹も

 市指定天然記念物
 訪問:2023.10

探訪メモ:
 国道454号から折れると、集落の中の道が急に狭くなります。
 子供たちが路肩で遊んでいたりするので、通行注意を。
 鳥居の中に広場があり、7~8台は停められると思います。

 ※1
 青森ヒバ=ヒノキアスナロ。
 北方系変種のヒバで、命名にはかの牧野富太郎が関わっており、学名にも「マキノ」と入っているそうです。
 (林野庁のサイトを参照。)

 面白いことに、神社公式の看板やサイトではこの巨樹を「ヒノキ」としています。
 ほんとはヒノキなのか? ヒノキとヒバの違い、その鑑定方法は……うーん、それ聞いたところで多分見分けられなかったな、と……。

 境内には他にも幹周4メートルクラスのモミや、カヤ、イチイも神木として名を連ねています。

4件のコメント

  • RYO-JI

    三本のスギにヒバですか!
    とても見どころの多い神社ですねぇ。
    見応えのある巨樹が複数あると、どうしても駆け足になってしまって勿体なく感じてしまいます。
    記事にしても一本一本のボリュームが少なくなってしまって・・・かといって記事を分けるのもなんだし・・・と。

    雪深い青森だからスギはウラスギだろうと安易に考えてしまいがちな遠方の関西人、青森だって広いんだからそう単純じゃないですよね。
    北斗七星のスギってのも斬新、すべてが現存していないのが大いに悔やまれます。

    しかし狛さんと同じようにヒバが俄然気になってしまいます。
    スーパー陰樹っていう響きがもうホラーっぽくて是非この目で見たくなりました(笑)。

    • RYO-JIさん
      巨樹クラスのヒバは初めて見ました……って書いて、ヒバ自体まじまじ見るのが初めてなことに気付きました。
      一種独特の雰囲気があり、そこが「これヒノキじゃない……」と気づかせたのでしょう。
      RYO-JIさんもきっと何かを感じられるはず。ぜひ見て頂きたいです。

      ここ「七崎神社」は程よいスケール感にまとまっていて、風土の違いを感じつつも巡りやすいのですが、高野山、日光街道、室生寺の杉並木となると……。
      巨樹面だけでも、深掘りするなら、即そこは「調査」とか「研究」の領域で、一度風呂敷を広げてしまうと畳むのがだいぶ大変。笑
      しかし、それだけに大多数の人がやっていないことでもあり、できたらスゴイこととも言えますね。
      千本単位のスギ巨樹が全部丁寧に記録されているサイト……すごすぎる。
      一般ウケするかどうかはともかく、暇を持て余してんだったらやるべき仕事はここにもあるぜ! とも見ることができそうですね。

  • to-fu

    おおお、まず狛さんの装いを見て気候の違いを感じました 笑

    大杉もさることながら大ヒバ!
    ヒバといえば木材にされるくらいのイメージしかないので驚きです。
    神社の境内という立地だからこそ、ここまで大きく育ったのでしょうねえ。

    こちらではヒバ材というと能登ヒバが思い浮かびますけど、なるほど東日本では青森ヒバが有名でしたか。
    スギみたいに品種そのものが違うのかと思いましたが、どうやら呼称が違うだけみたいですね。
    東北のヒバ=ヒノキアスナロと能登のヒバ=アテは同種なのだとか。(アテという呼称も初耳です)

    しかしこの七崎神社…ここだけでもかなりの見応えがありそうですね。
    私がチェックしていた岩手のほぼ北端「古屋敷の千本桂」から(地図上では)近そうなので、
    次回秋田県奥地に行くことがあれば併せて回ってみたいです。

    • to-fuさん
      青森まで来るとさすがに肌寒い&日が短い気もします。
      逆に関東まで下ると季節は逆走し……これも日本の広さの実感ですね。
      ここまで来ると、南東北と比べても明らかに植生が異なっています。
      七崎神社は、厳かさもさることながら興味を刺激する点が色々あり、あれこれ見回って飽きずに1時間弱が過ぎました。
      もちろん大杉撮影は楽しかったですし、朝から充実です。
      東側へ足を延ばす機会がありましたら、ぜひ。

      このヒバ、一度見たら頭から離れなくなってしまいまして……やっぱりそれくらいヒノキとは違って見えたんですよねえ。
      なるほど、アテっていうのもヒノキアスナロなんですね。
      「アテノガンソ」というのが、変なキーワードみたいに脳の片隅に残ってますが、あれのことか。笑
      大きさとしてみたらスギの比ではないですけど、土地の風土をよく表す存在で、多くのことを教えてくれそうですよね。

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