巨樹たち

茨城県久慈郡「文武館跡のけやき群」

「つよく 大きく たくましく」

 茨城県の最北端の一角、久慈郡大子町の巨樹巡り。
 茨城最大のイチョウ「法龍寺の銀杏」も必見ですが、市街地内の小学校にも見ておくべき大ケヤキがあります。しかも複数。

 自然豊かな大子町の7月、昭和レトロな佇まいの街並みには七夕の飾りつけがされ、久慈川ではアユ釣りの人が出ておりました。
 スナップ撮影を楽しみながら歩いてきて、目的地のだいご小学校へは東側の裏口から(八雲神社がある方)入りました。
 この坂道からして、大きなケヤキが目につく。

 小高い丘の上の小学校に到着してすぐ、巨樹として何の疑いも持たない大ケヤキが目に飛び込んできます。
 これが「文武館(ぶんぶかん)跡のけやき群」

 脇には蔵のような見た目の史跡「文武館文庫」がある。
 解説文によれば、水戸藩が文教政策として各地に建設した郷校(ごうこう)のひとつだそうで、1850年からこの地方の教育拠点だったとのこと。
 現在もこうして教育というテーマが受け継がれているということですね。

 

 ここは先に挨拶を済ませるべきだなと、校舎まで行ってみましたが、日曜日ゆえか誰もおらず。
 まあ、ケヤキは裏口の至近、敷地の一番端にあるので、校舎にむやみに近づかなくても観察可能。
 鍵付きゲートを強行突破したわけでもなし、つかの間「怪しい者ではない者の歌」でも歌いながらケヤキを楽しませて頂くこととしました(それが怪しい)。

 データによれば、巨樹レベルのケヤキは3本。
 うち、大きな2本が「群」という名目で県指定天然記念物とされているようです。

 まず目に入るのが、校庭の端にある最大幹周の個体で、太い! と思わず感嘆が漏れます。
 解説板によると幹周9.7メートル。
 かなり立派な数値ですが、周囲を巡ってみても大きな枯損や空洞化が目につかないのが良い。
 これほどの大きさ/樹齢ともなれば、まず無傷ではいられないのがケヤキ巨樹ですからね……。

 環境省の巨樹データベースでは幹周7.8メートルとされているようで、数値の開きがあります。
 築山状の立地を覆うように根張りが発達しているため、計測箇所がバラついたのではないかと推測します。
 まあ、9.7メートル説をとったとしても訝しむに至らない迫力はしっかりとあります。

 主幹はかなり昔に失われたようで、一気に伸びた大枝で樹高を稼いでいる。
 長野県「大六のけやき」などに似た樹形です。
 片側には枝がもげた跡らしいウロもありますが、樹勢はかなり良いと感じます。

 背後に写っていましたが、こちらがもうひとつの個体。
 校庭の中ほど、島のような築山にあり、なんとも雄大で良い景観の校庭だよなあと感心しました。
 「つよく 大きく たくましく」。
 まさにこの標語がケヤキ巨樹を体現しつつ、小学校にふさわしい。
 同じく小学校を見守る超巨大ケヤキ、山形県「東根の大ケヤキ」を彷彿とせずにはいられません。
 ここが子供たちの遊び場になっている微笑ましくも美しい絵がすぐに浮かんできました。

 こちらの個体は、解説文によれば幹周7.5メートル。
 こちらも環境省数値と差があり、それによれば6.2メートルだそう。
 確かに、この斜面に沿った根幹形状、計測者泣かせと言えるのではないでしょうか。
 隣の別種の樹(樹種確認を失念……)を押しのけるか飲み込むかしてしまいそうな関係で、欠損もなく、樹勢良好に見えます。

 一方、最も校舎に近い位置にある三本目、幹周5~6メートルクラスと思われる個体はちょっと心配。
 ケヤキの大敵、菌類にやられたのか、外科手術跡が痛々しく、一番下の大枝も無くなっていました。

 これら大ケヤキたちの姿から、色々な教訓が得られそう。
 ……などと感じるのは自分が歳をとったからでしょうね。
 子供時代は、とにかく遊ぶことで頭がいっぱいでしたから。苦笑
 だとしても、「俺たちの小学校の校庭にはでかい樹があって……」と、だいご小学校は卒業生たちにまずそう語られるはずです。
 その時、ケヤキたちの存在感はいっそう大きく思い返されることでしょう。

 秋冬には落葉してしまうケヤキ巨樹、ぜひ青い空と白い雲に緑の天蓋がバッチリ似合う夏場の姿を見てほしいです。
 当日はかなりの酷暑日でしたが、木陰はびっくりするほど涼しく、風がよく抜けて行きます。
 さわさわさわ……と葉がそよぐ音も、すごく心地よい。

 気づくと、周囲を囲っている石に腰かけて短い昼寝をしていたようです。
 意識がリフレッシュされ、本能的な安堵と感謝が湧き上がってきました。

「文武館跡のけやき群」
 茨城県久慈郡大子町大子564−1
 だいご小学校
 推定樹齢:500年
 樹種:ケヤキ
 樹高:30メートル/25メートル
 幹周:7.5メートル/9.7メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2018.7

探訪メモ:
 「大子町立 だいご小学校」の敷地で、道の途中には保育園もあり、カメラを提げてウロウロするとあまりにも怪しい。
 まあ、本当に怪しいヒトはカメラを抜き身で提げてたりしないと思いけどね……。苦笑
 ご挨拶やアポとりなどを想定しておけば、駐車場の交渉も同時にできるかも。

 ちなみに茨城県教育委員会のサイトでは、一号樹/二号樹の表記が逆になっていました。
 ちょっとややこしいですが、南側の方が太い=幹周9.7メートル=最大個体ということで。

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