巨樹たち

茨城県久慈郡「法龍寺の銀杏/榧」

「法龍寺の銀杏」

茨城県最大のイチョウ

 遠方への巨樹探訪旅も終わり、日常としての巨樹探訪……つまり茨城県内に見るべき巨樹はないかと探しに出かけました(2018年)。
 茨城のひたすらまっすぐな道はやっぱり気持ちがいいもんです。

 とはいえ、今回選んだのは茨城の最北端……の最西端でもある大子町。
 海なし、こんもりとした山風景も、福島および栃木の印象にかなり近い印象があります。
 当然、巨樹にも期待できる土地ですね。

 大子町の市街から西へ。
 あと数百メートル行けば栃木との県境という位置の「法龍寺」に、堂々たる大イチョウがそびえているという。
 下車し、緑に誘われ歩いていくと、樹影はどんどん大きくなる。
 しかも、ひとつではない。
 手前に見えるのは、こちらも幹周6メートル以上あるカヤの樹です。 
 その脇を通り、先に奥のイチョウに向かいました。

 イチョウ巨樹なら、それはもうデカくてあたりまえ。
 ですが、この「法龍寺の銀杏」幹周11メートルを超え、こちらの身構えを突き崩すような巨大さを見せつけてきます。
 複数の幹がそれぞれ力を合わせ、その存在をより巨大に巨大に……と形作っています。

 根本に供養碑のようなものがある。
 寺入口の解説によれば、ここ法龍寺は、本願寺の第二代、如信上人終焉の地とのこと。
 このイチョウも、上人の十三回忌(正和元年=1312年)に植えられたものだそうです。
 この記録を根拠として逆算し、解説には樹齢690年とあります。

 その十三回忌の記念樹が、とんでもなく立派に育ってしまった。
 おそらくは茨城県で最大のイチョウ巨樹であり、同時に、この幹周値は全樹種を対象としてもおそらくトップ。
 「真弓神社の爺杉」の正確な数値とぜひ競わせてみたいところですね。
 (書籍筋では某神社のケヤキが1位とされますが、実際訪ねると、明らかにコレじゃないよね……と一目瞭然)

 上空を見上げると、明らかに落雷で炎上して炭化した箇所が見て取れます。
 32メートルもの樹高も、折れて低くなった結果の数値だそうです。

 規模が大きすぎて、反対側の端まで視界に入らない。
 あまりの太さに、眺めていると縦横比の感覚がおかしくなり、何だか、もっと低いような気さえしてくる。不思議です。
 反対側にトコトコ歩いて行ってみると(本当、「そこまで行く」という感じ)、腕のように横に伸びた枝があり、そこには気根が。
 垂直方向からさらに拡張を狙う成長意欲を感じ取ることができます。
 イチョウ巨樹につきものの「乳の出が良くなる」という信仰は、この樹には無いようです。

 撮影時は5月。
 一斉に黄緑色の葉を噴き上げ、視界全部が染まって壮観でした。
 足元にはモールみたいな散り雄花が絨毯のごとく落ちていました。

 これだけのイチョウですが、何の天然記念物指定も受けていない……?
 由緒ある寺の敷地内にあるので保護に不安はありませんが、茨城を代表する巨樹としてもっと有名になってもおかしくない。
 秋に来れば、大子町の山々とともに、紅葉で目を楽しませてくれるでしょう。
 これが真っ黄色に染まるだなんて……ものすごい眺めでしょうね。

「法龍寺の銀杏」
 茨城県久慈郡大子町上金沢1684
 法龍寺
 推定樹齢:690年
 樹種:イチョウ
 樹高:32.5メートル
 幹周:11.1メートル

 全樹種幹周県第1位
 訪問:2018.5 他

探訪メモ:
 お寺に広々とした駐車スペースあり。
 敷地内は掃除が行き届いて、一角にあずまやもあり、木漏れ日の下、ゆっくり休憩もできました。
 「撮る」「見る」とは別に、ぼんやり「眺める」巨樹も、またいいもんです。

「法龍寺の榧」

如信手植えの大榧

 仏教とともに日本に持ち込まれたと言われるイチョウ(イチョウの伝来と樹齢に関しては「新穂大野の大イチョウ」を例に考察してみましたので、よろしければどうぞ)、その隣人としてのカヤの存在は、お寺の巨樹風景として万全です。
 カヤの実は食料になり、油もとれる。飢饉の際の備えとして植えられる樹種のひとつと言えるはずです。

 幹周6.8メートル。
 イチョウの半分程度のボリュームと捉えがちですが、カヤとしてはなかなかの巨樹です。
 根張りが大きいので値で数値を稼ぎそうなフォルムですが、図で計測とヒューマンスケールを示す珍しい解説の印象を踏まえると、目通り高さは確かに「幹」だと言えそうです。

 如信上人は浄土真宗の開祖・親鸞の孫に当たるそうで、穏やかな人柄ゆえ信頼され、大きな門徒集団が結成されていた。
 彼の興したその「報恩講教団」がのちに有名な「本願寺」となった……とのこと。
 このカヤは、門弟・乗善房の草庵ができた時、お祝いに如信上人自らが植えたものだそうです。
 上人はここで病に伏せってしまい、入滅されたそう……。
 この故事から、イチョウよりもこのカヤの方が古いと解釈されている。

 なるほど、どんどん巨大化する恐竜樹種・イチョウに大きさは叶わずとも、古木の雰囲気でどっしり構えている。
 根元に大きな空洞がありつつも朽ちてはいず、まるでずっと昔からこうだったかのよう。 

 反対側はしっかりしており、見るからに締まった質感。
 おそらくまだまだ倒壊しないで生き続けてくれるでしょう。

 このカヤだけが町の天然記念物に指定されているのが奇妙といえば奇妙。
 きわめて近距離にあるため、どちらかが指定されていれば同様の保護下における……とでも解釈すれば良いものでしょうか。

「法龍寺の榧」
 茨城県久慈郡大子町上金沢1684
 法龍寺
 推定樹齢:710年
 樹種:カヤ
 樹高:24メートル
 幹周:6.8メートル

 町指定天然記念物
 訪問:2018.5 他

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA