巨樹たち

千葉県香取郡神崎町「神崎の大クス」

通称「ナンジャモンジャの木」

 夏の巨樹探訪、巨樹・写真の仲間であるto-fuさんと千葉県北部の巨樹を訪ねました。
 日帰りで行ける地元でありながら……いや、それゆえ後回しにしていた巨樹をフォローする好機です。

 地元の物産豊かな道の駅「発酵の里こうざき」を待ち合わせ場所にすると、その巨樹はすぐ近く。
 神崎神社にある「神崎(こうざき)の大クス」です。

 天然記念物であることを示す石柱に、こうあります。

 「神崎の大樟 通称 なんじやもんぢや」

 なんじゃもんじゃの樹。この樹は古くからそう呼ばれてきました。
 地元なので聞き回りましたが、実際見たことはなくとも、この名だけは聞き覚えがあるという人も多いです。

  「なんじゃもんじゃの樹」は日本各地にあるようで、例えば神奈川県「有馬のはるにれ」もその一本、やはりご当地で「なんじゃもんじゃといえばあの樹」という固有名詞と化しています。
 文字通り「正体不明の怪しい樹」という意味ですが、筆者自身は、水木しげるの「日本妖怪大全」で、謎めいた樹のオバケ?として知りました。
 数ある「なんじゃもんじゃ」の中でも、この樹は国指定天然記念物。
 どういう巨樹なのか、ずっと気になっていました。

 しかしながら、訪問を後回しにしていた。
 理由としては、「近所なのでいつでも来られる」と、「枯れてしまった樹らしい……」という情報のためです。

 来てみれば、確かに。
 主幹はそれなりの大きさ……これだけで6、7メートルはありそうですが、パサパサに枯れきっている。
 今も黒く残る部分は、この樹がかつて炎に包まれたことを物語っています。
 よくある落雷ではなく、明治40年の神社火災で一緒に燃えてしまったのだそうです。

 奇妙なのは、火災が明治40年(1907)、国の天然記念物に指定されたのが大正15年(1926)年という時系列。
 つまりはこの巨樹、燃えてしまってから天然記念物に指定されているのです。
 まさにナンジャモンジャ? とでも言えば良いのか……。
 樹木の天然記念物指定って、枯れた樹にも適用されるものなのでしょうか。

 なかなかミステリーを感じますが、現在もこの指定は解除されていません。
 その枯れた主幹の左右を挟むようにして立ちあがっているのが、巨大化したひこばえ。
 主幹はまもなく枯れる運命を悟って、ひこばえ達に余生を託したのでしょう。

 クスの生命力と成長する力の強さを実感できる巨樹です。
 丹念に周囲を掃除している方々もおられ、親しまれているのが良くわかります。

 幹周囲10メートルとされていますが、当然ひこばえ部分も含めた数値。
 ちょっと甘い採点じゃないか? と思うのも当然として、しかし、それを補える濃さの物語を持っているのがこの「なんじゃもんじゃ」。

 天鳥船命、大己貴命、少彦名命を主祭神とする神崎神社の歴史は古く、白鳳2年(673年)にはこの地に在ったとのこと。
 この地域は歴史的な資料が少なく、神社に残る古文書は貴重なものだそうです。

 クスが植えられた歴史については語られていませんが、この樹に「ナンジャモンジャ」と名付けたのは、かの水戸光圀公だそうです。
 御老公、茨城県「三浦杉」でも名付け親になっていましたね。
 その頃には主幹が元気だったはずですが、300年も遡るとなると、逆に、まだ巨樹ではなかったのでは? と疑念が湧きます。

 一方で、生気に満ちてシイやケヤキの大木に恵まれた神崎神社の社叢(「神崎森」自体も県指定の天然記念物に指定されている)はあれど、目立ったクスノキの個体はは他には無さそうで、あえて御神木として選んで植えたものと推測します。※1
 この辺りにない樹種だからこそ、光圀公は「ナンジャモンジャ?」と呟いたのでは。そんなことを思いました。

「神崎の大クス」
 千葉県香取郡神崎町神崎
 神崎神社
 推定樹齢:不明
 (光圀命名から300年以上?)
 樹種:クス
 樹高:7メートル(主幹)
 幹周:1oメートル

 国指定天然記念物

 訪問:2018.8、2023.10

 探訪コメント:
 神社駐車場から数分、徒歩で坂道を登ります。
 木々が鬱蒼としており、夏場は蚊が襲いかかってきますので、注意です。

 道の駅「発酵の里こうざき」は、お酒などの物産が多くておすすめですよ。

※1
 素人考察をひねってみるなら、主祭神のひとつである「天鳥船命(あめのとりふねのみこと)にヒントがあるのでは。

 古事記によれば、イザナギ・イザナミの間に生まれ、葦原中国平定で事代主神への使者となった神とのこと。
 日本書紀には登場しないそうですが、同場面で使者となる神はやはり船に乗って行くと描かれる。

 そう、船です。
 東日本一の巨樹とされる静岡県「「阿豆佐和気神社の大クス(來宮神社の大クス)」にも、海とクスを紐づける神話が残っている
ように、古代から造船の用材と言えばクスノキ。
 利根川のほとりにあるこの神崎神社にも、水運に乗ってこの信仰が持ち込まれたのではないでしょうか。

 2023.10、出張がてら立ち寄りました。
 樹勢お変わりなく、たくましい「なんじゃもんじゃ」ぶり。
 鬱蒼とした木立に囲まれた駐車場に戻り、車に乗り込むと同時に急激な眠気に襲われたのは、単に疲れのせいだったのか……?

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