巨樹たち

茨城県北茨城市「八坂神社のシイ」

二度見確実、強烈なシイ

 東北から茨城へ出張。
 高速道路は飽きてきたし、少しケチる魂胆もあって、いわきで降りました。
 海沿いでも通れば風景が綺麗かも知れない。などと思っているうちに北茨城の市街に入ってしまった。
 国道6号を渋滞気味に進みながら、あーあ退屈、と、あくびしようとして……
 えっ? と思わず目を疑いました。
 丘の上に、何かいる!?
 ノーマークな巨樹との出会いでした。

 いや、これ……国道から見た姿ですよ? この図体。ディテール。強い異物感。
 こんな絵を見せつけられてしまっては、たちどころに眠気も覚め、とりあえず地図にグリグリとマーキングし、再訪を誓うってものです。巨樹愛好家なら、そうでなきゃおかしい。

 改めて検索してみると、確かに北茨城市指定天然記念物のスダジイであると記述が見つかります。
 「八坂神社のシイ」というらしい。
 2ヶ月後、再び仕事で茨城へ移動することになったので、今度は意図して訪ねました。

 国道から見える。しかし、停まってみても、駐車に適したスペースがない。しかも神社の入り口は写真の階段だけ。
 どうすれば……と、しばらく地域をぐるぐる回ることになりました。
 どうにか徒歩に切り替え、階段を登り、小道を歩いていくと、すぐに巨大な気配を感じます。
 きたぞ……とゾワゾワします。

 社殿背後に、ありました。「八坂神社のシイ」。
 ほぼ全体図が国道から見えていたわけですが、改めて、これは特筆すべきスダジイだと感じました。
 小高い丘のてっぺんに立っているので、見下ろす眺めがとても良いです。
 シイを夢中に撮影していた自分の姿も、道路からよく見えていたことでしょうね。

 スダジイの巨樹の常で、巨大な幹には空洞が多い。
 複雑に入り組んだ幹姿は影を含み、晴天下でも不気味なほどです。
 分岐した幹と、そこからの大枝がかなりのボリュームなのもあって、近寄りがたいような迫力を発散しています。

 巨樹DBでは、2000年の追加計測として幹周6.1メートルとありますが、本当にそれくらいしかないのか? と疑う巨体です。
 目測では、8メートルだと言われてもすんなり鵜呑みにできるスケール感がある。
 計測箇所は最もくびれた箇所になりそうで、実際メジャーを当ててみたかったのですが、片側は完全にになっており、無理しない方が良さそうです。柵がない上、笹や草で覆い隠されてズボッといくので、くれぐれも気をつけて。

 それにしてもこの迫力はすごい。
 早い時間に来て正解。夕方だと恐怖感が先に立ってしまったかもしれない。

 ……と、根元を見ていると、また思わずギョッとします。
 ふ、福助かよ……。誰だ、こんなところに置いたのは……。
 よく見ると根の間にはいくつか石仏。踏まなくてよかった。
 隣の空洞には謎の赤い球体もある。これがまたテラテラ光って不気味だったのですが、後で先達の方の写真をよく見たところ、やはりどなたかが置いたダルマさんらしい。

 見上げれば、「剛腕」と呼びたくなる太い3本の大枝が素晴らしい。
 その付け根は盛り上がった筋肉を連想させます。この部分のボリュームは、茨城のスダジイの中でもトップクラスではないかと思いますね。
 かすみがうら市「出島の椎」は好きな巨樹ですが、双璧をなせると思います。
 こちらの方が背が高い分、のしかかってくるような圧迫感が強い。

 神社背後から回り込むと、完全に巨樹が影に没し、さらに恐ろしげな姿に。
 スダジイ特有の陰な感じ。クスやスギでこのような近寄り難さを感じることはごく稀だと思います。
 差し伸ばした枝は社殿の半分を覆い、その先に張り出しています。
 いや、見事。迫力満点……そう呟きながら回り込もうとして、また足下のフクスケにビクッとする。

 再び正面に戻ってきました。幹は傷んでいますが、樹勢はかなり良い。
 丘の頂点の立地で塩気のある強風に吹かれ続け、冬は雪にも晒され、こうした荒々しい外観が出来上がる。ただし、引き換えに陽当たりはこの上なく良い。
 ここにこの巨樹が生きる理由を、姿から明確に読み取れるように思いました。

 解説板は簡素。伝説伝承も特に無しか。
 「最大周囲13メートル」がどこを指すのか分かりませんが、幹の一番膨れたところを測ればそれくらいありそうです。
 ここには幹周囲はありませんが、今一度、6メートルはちょっと小さく見積もりすぎじゃないか……と思いますね。おっかなびっくり測ってみたいですが、どなたか手伝ってほしいところです。
 別の杭によれば(社)茨城県緑化推進機構により、樹勢回復手当ても実施されたようです。

 茨城は実はなかなか巨樹多き県だと思いますが、この樹の知名度は高くないはず。
 公称幹周囲値の小ささ、アクセス難、スダジイという樹種……それらがために後退するのでしょうが、実は「茨城を代表する巨樹」の1本に加えて見劣りしないと断言できる樹です。
 スダジイ部門では、もしかすると……いや、まだ見ぬ樹もあるでしょうし、「ベスト3には必ず入る」としておきましょう。
 スダジイという樹種の醍醐味を見せつけるような、凄みのある巨樹です。

「八坂神社のシイ」
 茨城県北茨城市大津町北町
 推定樹齢:600年
 樹種:スダジイ
 樹高:20メートル
 幹周:6.1メートル
 (実際はもっと大きい)

 市指定天然記念物
 訪問:2020.8

 探訪メモ:
 神社には駐車場が全くありません。周囲にも停められるところがなく、難儀します。
 数百メートル先に駐車場が広い商業施設がいくつかあるので、束の間停めさせてもらいました。
 もちろん、日用品を買い物して帰りました。

4件のコメント

  • to-fu

    茨城北部といえばどうしても山間部に大物が揃っているイメージがあり海沿いはチェックしていませんでしたが、これは素晴らしいシイではありませんか。6号線沿いということでアクセスが良すぎるが故に逆に他の大物たちの立地から浮いてしまっているようで、狛さんが偶然発見できたことに何やら運命じみたものを感じます。

    拝殿側から見た姿も迫力がありますが、やはりキモは国道側からの眺めですね。まるで同行していたかのように発見した瞬間の狛さんの興奮が伝わってきますよ。私なら興奮のあまり脇見してしまって事故を起こしていたかも。しかしこれは是非とも幹周を測定してみたいですねえ。二人いれば何とかなるか?かなり危険そうではありますが。しかし唐突な根本の福助に笑ってしまいました。福助は今までにないパターンです 笑

    • to-fuさん>
      茨城って、よく考えるとなんでもありますよね。海も山もそこそこ険しいという。笑
      いつもはもっと先まで高速で行ってしまうので、このシイに関しては本当に偶然の出会いでした。
      え、アレって……うわあああっ! みたいな。びっくりしましたよ。タイヤがバーストするところでした(実際にバーストしたのは別のとき)。

      そう、文でも書きましたが、この国道から見た異物感がすさまじく、このシイの一番の特色だと言えます。
      お堂との対比もしっかり巨樹を引き立たせてくれていて、なんともギャップある良い絵になっていました。
      北茨城方面はto-fuさんとも無縁ではないと(あえて)言えますし、ぜひ機会があれば見て欲しいです。
      測るべき樹だとも言えます。福助を踏まないように……ぜったいこれ、踏んだらタタリが……汗

  • RYO-JI

    スタジイの〝陰〟はどこまでも深く果てしない闇のようで、このシイはまさにそれを体現しているような存在。
    日当たりが良い高台にあってこのドロドロしさですから、こんなのが森に潜んでいたら絶対に近付けないでしょうね。
    とは言いつつ、怖いもの見たさは人間の不思議行動でもあり、ましてや巨樹愛好家としては是非拝見したい一本ですよ、これ。
    おっしゃるように国道からの姿が異質、異様、異次元。
    まったくのノーマーク状態で目にされたということで、その驚き(歓喜?)は想像を絶するものでしょう。
    すぐにでも駆け寄りたいのに仕事で行けず、訪問できたのは二ヶ月後ですものねぇ。
    その期間の期待を大きく上回る対峙だったと思うともう・・・その体験が羨ましく感じます(笑)。

    そんな驚きのシイに更なる不可思議な福助や達磨の存在、置かれている理由が気になりますね。
    単純に祈祷などにまつわるものだと想像しますが、この恐ろしいシイを見ていると生贄?(の身代わり)とか変な妄想をしてしまいます。

    • RYO-JIさん>
      スダジイらしいスダジイでした。いろんな樹形や雰囲気を帯びることができる樹種でもあるし、こうした迫力のある巨樹を見ると、やっぱりこれがスダジイだ! と思いますね。
      巨樹からパワーをもらいたい! とか、例の感じで行くときっと逆効果ですが、たまにホラー映画を見たくなるのと同じで、一度気になり出すと、こういうのこそ訪問せずにはいられなくなりますね。
      そう、初見してからずっと気になっていたのですが、北茨城は東北からも、茨城の家からも遠い。
      この日はほぼこの樹のために行動しました。でも、その甲斐ある巨樹でしたね。

      見た目おどろおどろしいですが、達磨も福助も縁起物なので、商売繁盛とか豊漁のためでしょう。
      ……と思いたい。北茨城はあんこう鍋で有名で、近くに漁港がありますしね。
      お越しの際はぜひ。笑

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