巨樹たち

埼玉県比企郡ときがわ町「萩日吉神社の児持杉」

夫婦関係維持の秘訣は距離感?

 海なし県である埼玉県のほぼ中央部、かなり山奥感のある比企郡ときがわ町に巨樹巡りに行ってきました。

 ときがわ町は全体の7割が森林だそうで、大きな樹も多いらしい。
 その中でも最も目を引くのが、萩日吉神社の鳥居奥を固める「児持杉」です。
 (本来、単に「児持杉」という名称ですが、同名の杉も多くあると思うので、神社名を付けて呼ぶことにします)

 萩日吉神社に続くまっすぐな道を進んでいる時から、その姿がはっきり見えています。
 隠しようもないので、まずその姿をどーんと。

 真ん中に祠を抱え込むようにして、かなりの迫力でそびえています。
 これはなかなか、見る人を早足にする姿ですね。

 若干の斜面に立っていて、樹高が高いこともあってか根元の発達が逞しく、砦のような重厚感を感じます。
 明らかに合体樹ですが、横に広がる扇のような珍しいスタイルだと感じました。

 裏側に回ってみましょう……。

 すると、この杉の実際の姿が見て取れます。
 さっきの鳥居前から見た姿とはがらっと印象が変わりますね。

 そう、かなり近い位置に育ってはいますが、2組の大杉なのです。
 この関係を夫婦になぞらえたのでしょう、男杉女杉という名前がついている。
 この写真で、左側が男杉、幹周6.5メートル。右側が女杉、幹周8.9メートルとのこと。
 形は揃っていませんが、どちらも立派な図体。

 男杉・女杉が一体になってしまうには距離が空きすぎているのでしょう、間の空間を埋めるように祠が築かれています。
 霊験ある御神木で、なんでも、若い男女がお詣りすると子を授かってしまうとか……それゆえの児持杉の名称なのでしょう。

 最初は大きい方が男杉なのかと思っていたのですが、実際は左側の折れ、枝の数も少ない方です。
 思うに、最初は同程度の大きさだったものを夫婦として名付けたはいいが、ある時傷つき、男杉の成長が遅れてしまったのではないか。
 それでも幹周6.5メートルはあるので、根幹部から感じる大きさは結構なものです。

 対して女杉(右)。
 これはもう、幹周8.9メートルという数字通りの巨大さ。片側に寄ってこちらだけを見てもかなりの存在感です。
 ただし、男・女杉それぞれ単体も、複数の合体杉なのではないかと見えました。

 タイプ的に、裏杉の血が入っているのではないか? と感じる容貌。
 山あいの地域なのでそれなりに積雪があるのかも。
 しかし、同じときがわ町の「越沢稲荷の大スギ」は、明らかに表杉なんですよね。困惑するところ。
 誰かが北陸方面の神社の御神木などから苗木を移植したのかも……?
 まあ、単に折れ方と斜面による重力の影響で似たような形になっただけかもしれません。

 それ以上に特筆すべきは、この位置関係でしょう。
 見る距離と角度によってはしっかり一体となって、巨大なひとつの杉の巨樹に見える。
 この理想的角度で見た姿は、十分、二度見三度見に耐える迫力です。

 なかなか面白いぞ……と、はっと気づいたのですが。
 付かず離れず。
 これこそまさに夫婦長続きの秘訣だと語っているのではないでしょうか……。
 適度な距離を置きつつ、見るべき角度から見ればしっかり一体になっているように見える。
 うーん、と唸る。それこそ理想なのかも。笑

 余計なお世話の深読みはともかくとしても、この杉、神社の舞台装置としてかなり良くできていると思います。
 神社の入り口である鳥居から覗いた姿こそが、この杉を最も巨大に見る角度である。ほぼ完全一致です。

 そのために、萩日吉神社の霊威的インパクトがグンとかさ上げされて感じられます。
 まさかこれを計算して植えて育てることはできないと思いますが、ご立派ではありませんか。

 解説文。
 再度になりますが、お児を授けられてしまうそうなので、お若い男女サンはちょっとばかし気をつけましょう。笑
 いや、少子高齢化社会ですから、ありがたいパワースポットかな。

 「根周り」とありますが、見ての通りのスタイルなので、女杉の幹周を同じくらいと見ておいても大丈夫でしょう。

 もともと合体樹なので、あまり積極的にランキングには出てこない存在だと思いますが、ときがわ町でも最大の巨樹、見た時の迫力は記憶にしっかり残るものがあります。
 あっ、見る時は、必ず鳥居を正面に捉えて、見るべき角度から見てくださいね。

「萩日吉神社の児持杉」
埼玉県比企郡ときがわ町 萩日吉神社
推定樹齢:800年
樹種:スギ
樹高:40メートル
幹周:
6.5メートル(男杉)
8.9メートル(女杉)

村指定天然記念物

訪問:2018.6

 探訪メモ:
 駐車場は少し手前にあります。
 ときがわ町にサイクリングやツーリングに来る方も多いらしく、脇の道を高速で走り抜けていくので、気をつけてください。

 3年に1度の祭りでは、流鏑馬が催されたり、「納め猿」という木彫りの猿の像を買い求めることができるそうです。

旅行記「埼玉県比企郡ときがわ町・巨樹探訪旅」もぜひご覧ください。

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