巨樹たち

福島県南会津郡「下塩江五本松」

雪に映える赤銅の大松

 福島県下郷町「八幡のケヤキ」を再訪、その足でやはりどうしても再訪せねばと思い浮かべた巨樹がありました。
 それが南会津町の「下塩江五本松」。
 道沿いにそびえているので、ストリートビューでも確認でき、走っていけばもちろん堂々たる立ち姿が視界に入ってきます。
 文句なく素晴らしいアカマツの巨樹です。

 前回の訪問は夏でしたが、今回は冬。
 ピークではないにせよ、周囲にはどっさりと積雪しています。
 目の前に消防小屋があり、ど真ん中に駐車するわけにはいかないので、雪の中に車を突っ込ませて。
 やはり会津の巨樹、雪景色の中でサマになっていることが遠目にも感じられてテンションが上がります。

 マツなので、常緑であり、冬でも葉が青く豊かです。
 背も高く、枝も多い……五又に分岐した先端部が巨大な扇のように広がっています。
 気になるのは樹本体の状態ですが……

 ああよかった! もう全然、心配ご無用という面持ちです。
 まあ、枝葉の状態からも異状ないよね、とは思っていましたが、マツにはマツノザイセンチュウという強敵がある。
 マツ巨樹が次々姿を消している昨今、変わらず堂々とした体躯を誇示してくれて、なんともホッとしました。

 そうそう、この感じ!
 まるで銅鉱の巨塊でできているかのような、メタリックにすら感じる赤銅色の肌。
 文化財・天然記念物としての価値の高さに唸らされるような重厚な存在感。
 前回は気づかなかったのですが、分岐点に着生しているのは、桜でしょうか。

 今回、意外な伏兵だったのが強烈な逆光。真横から邪魔をしてきました。
 加えて冬の光が雪に反射してとても眩しく、コントラストを増し、アカマツの幹を余計真っ赤に照らし出します。

 あえて注釈しておきたいのですが、写真の色調として、決して誇張して仕上げていません。
 五本に分岐した幹は鮮烈な赤銅色で、本当に惚れ惚れするような美しさです。
 青緑色の苔も鮮やかで、まるで銅に生じた緑青。
 年季が入ってなお荘厳さと剛健さ豪華さを失わない仏教建築を見ているかのような感動を呼び起こしてくれます。

 巨樹冥利に尽きる! 
 興奮しながら撮っていると、頭上からズシャズシャと雪の塊が降ってきて危ない!
 三脚にセットした時も、雪やら水滴やらが降り注ぎ、たびたびレンズを拭きにいかねばなりませんでした。
 仰ぎ見れば……それも仕方ない、ほとんど松の傘の下にいるのですからね。

 枝葉の繊細な様相も美しい。
 松葉は細く、かつ大量で、よく見ればマツカサもたくさん付いているのがわかります。
 これほど巨大な松自体珍しい上に、これだけ堂々と健全に生育しているというのは、やはり地元の方の気遣いが反映されているのだと察しますね。
 それ抜きではあり得ないはず。

 それを実証するかのように、解説板が新しくなっていました。これは嬉しい!
 天栄村で消えてしまって全く読めない解説板に出くわした同日だっただけに(「青龍観世音堂のヒノキ」)、なおさらです!

 こうしてちゃんと見守ってるんだ、大事にしてるんだよという証を見られるのが喜ばしい。
 前回訪問時の写真と見比べると、名称も「下塩江五本松」と改められ、説明文自体もリニューアルされています(以前は「五本松」の名称でした。旧解説板の設置時から市町村合併も経ています)。
 街道沿いに立っていた、標識の樹であったことも追加情報として書かれています。

 そしてそう、解説にある通り、まさにこれは「文化の宝」
 今後何百年にも渡って保ち伝えるべき宝とは、こういう存在のことです。
 ましてや、それが命を持っている。ものすごいことです。
 この樹の前に立てば必ずやそう実感できるはずです。

 ここはちょうど福島県のど真ん中、四季による彩り豊かな土地。
 この大アカマツは、どんな季節でも絵になってくれるはずです。

「下塩江五本松」
福島県南会津郡南会津町塩江上坪乙959
推定樹齢:190年(説明文の年代で計算)
樹種:アカマツ
樹高:30メートル
幹周:5.5メートル

町指定天然記念物
訪問:2016.7、2018.2

探訪メモ:
 手前に1、2台分のスペースがあります。
 南会津町の観光ページが新しくなっていましたが、残念ながら掲載なし。勿体ない!
 県指定天然記念物の「古町の大イチョウ」などもあります。

・夏の訪問時は、こんな感じ・

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