巨樹たち

福井県敦賀市「西福寺のスダジイ」

古刹にふさわしい寂びの名木

 巨樹探訪・スナップ写真の同士三人、福井県敦賀市に集ってみました。
 初夏と呼ぶにも日差しの中、撮り歩きながら目指せる巨樹として発見したのが、この「西福寺のスダジイ」でした。

 現実的に距離を測って検討するような人たちじゃなかったので(我々が)、地図をチラ見して「いけるだろ」と歩き出した感じです。
 実際は、クルマで普通に15~20分かかる距離だったらしく、当たり前ですがなかなか着きません。
 しかし道中「気比の松原」の白砂青松も素晴らしかったし、話も尽きませんでしたので、結果オーライ。
 井の口川を渡る前後は軽く工業地帯のような風景になり、工場の煙がふわふわと漂って田んぼを超えていく……その先にお寺を発見したのは意外な感じでした。

 「西福寺のスダジイ」。
 二本の老木がそれぞれ両側に、寺への来訪者を迎えるような形で立っている。
 スギやクス巨樹のような衝撃的登場シーンはありません。
 実物を前にしてなお、「これかな……?」と一瞬考えてしまう。そんな感じです。
 こんもりと緑は濃く、初夏の日差しをよく遮るため、根本では暗く感じるほどです。

 大きい方が敦賀市指定天然記念物で、幹周7.6メートルとのこと。
 もうひとつの方も幹周6.8メートルで、福井県におけるスダジイの1位、2位を占めているそうです。
 後から知りましたが、大きい方は「新日本名木百選」にも選定されているとのこと。

 この樹にいわゆる巨樹のエモーションを求めるのは難しいかもしれません。
 ルールに則って計測すればそのデータがとれるとしても(おそらく二つの幹の合計値となる)、古びた幹は骸骨化しており、バラバラになりつつあります。
 樹高も低く、筋骨隆々とした他のスダジイ巨樹と比べるのは気の毒……。
 特に、この前に怪物級巨樹「岩屋の大杉」なんてものを見てしまっては、なおさらそう感じてしまうもので。

 しかし、見どころがないわけでは決してない。
 正平23年(1368)年に西福寺を建立した良如上人が民を飢饉から救うために植えたとされる樹であり、まさに寺院における「慈悲の樹」的、シイやカシの巨樹の正道だと言えます。
 西福寺は北陸一帯でも指折りの古刹であるため、600年という樹齢にも資料的な裏付けがありそう。  
 そこまで長く生きた時、スダジイがどんな姿になるのか……。
 このリアルがまさに目の前にあると言えば、じわじわと崇敬の念が湧き上がってくるというものです。

 もちろん、この寂び枯れた感じが寺の雰囲気に一層重厚感を与えているのも間違いない。
 巨樹という言い方をあえて引っ込め、「名木」とか「古老木」と呼んだ方が、いっそ気を遣わないし、ぴったり来ると思いました。

 なんだよー、でっかい樹だっていうから来たのに、超がっかりだぜー、とか言わず、じっくりとこの樹にまつわる「意味」を考える。
 我々も大人になったものです。笑

「西福寺のスダジイ」
 福井県敦賀市原13−7 
 西福寺
 推定樹齢:600年
 樹種:スダジイ
 樹高:8メートル
 幹周:7.6メートル/6.8メートル

 樹種(スダジイ)県1、2位
 
 市指定天然記念物
 新日本名木百選

 訪問:2018.5

探訪メモ:
 我々は歩いてしまいましたが、通常なら敦賀市街から自動車でしょうね。

 西福寺は立派な御影堂、阿弥陀堂、書院を有し、これらが国の重要文化財指定を受けています(この時は工事中でした)。
 1400坪もある庭園、応仁の乱を避けて都から移されたという重要文化財の絵画や書も多く所蔵しているとのことです。

「2018年・福井~兵庫巨樹探訪旅」もぜひご覧ください。

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