巨樹たち

福島県喜多方市「温泉神社の大杉」

火焔型怪樹

 福島県喜多方市、9月。
 一面満開のそばの花と、金色に色づく田園風景が写欲をそそります。
 しみじみと風景写真撮影を楽しみましたが、もちろん当地の巨樹を探訪する気も満々です。

 訪ねたのは鄙びた湯治場の雰囲気がナイスな「熱塩(あつしお)温泉」
 アクセスは下記するとして、徒歩で戻り、温泉宿に囲まれた路地を登っていくと、裏山が神社になっています。

 巨樹出現時の「つかみ」は万全に近い。
 石段を登っていくと、ゴゴゴゴ……と漫画擬音でも書き込みたくなるようなその存在が露わになってきます。
 参道には何本もの立派な杉が並んでおり、天然の階段のように根が這い回っていますが、その御神木だけは他の杉とは似ても似つかない。
 まるで「俺こそが神木である」と唸りを上げつつ主張するかのごとくです。

 全貌を現した「温泉神社の大杉」。
 四方八方に湾曲したトゲトゲしい大枝を突き上げているこの姿は、間違いなく裏杉の性質によるものです。
 天然・野生の本能を剥き出しに生長し続けている凄まじい形相。

 スギの前を横切ろうとして驚く。
 幹周囲6.5メートルと聞いていたのに、はるかに大きく感じます。
 えっ、これ、10メートルくらいあるんじゃないか? と思わせる大迫力のビジュアルを叩きつけてきます。

 しかしこれはトリック(と言ったらちょっと怒られてしまうか)。
 見る角度を変えると印象が変わり、これがまた個性でもありますね。

 要は、幅広く厚みが薄いというか、板状に近い形状をしている。
 おまけにすぐそばに別のスギが立っていて、遠景だと重なり、いわば借景的に太くも見える。
 この「もうひとつのスギ」は全く趣の異なる直立タイプですが、全体樹冠を構成する枝の何割かもこちらのものだったりします。

 何をさしおいても、この豪快な勢い。
 異様な形に発達した大枝が、「スギの御神木」という一般的なイメージを完膚なきまでに覆します。

 幹には黒々とした炭化部分があり、およそ100年前の「温泉大火」の飛び火で燃えた跡だそう。
 「大正9年(1920)4月17日、温泉街は大火により消失」とあり、小高い立地のスギまで類焼する猛烈な火災だったのでしょう。

 隣に立つ「もう一本のスギ」に改めて注目すると、これは明らかに若く、まるで大杉を避けるように片側にしか枝を付けていない。
 つまり、別の樹がすぐそばに生えてしまったわけではなく、「大杉が創ったもうひとつの幹」に見えます。

 山形県「松保の大杉」「高沢の開山杉」も繰り出していた、勢いのある裏杉の必殺技もとい「必生技」……
 これほどまざまざと見せつけられるとは、と感心してしまいます。
 もしかすると、大火の危機が次世代のスタンバイを急がせたのかもしれませんね。

 解説文には、天然杉であると記されています。
 温泉神社自体、大杉の存在を踏まえてここに建てられたのかも。
 周囲のスギは参道並木として後から植樹されたものと考えるなら、裏と表、タイプが異なる裏付けになるでしょう。

 かつて大火に焼かれ、自らも燃え盛る火焔のようなフォルムで活発な生命を見せつける。
 完全に幹周数値以上、実に痛快な一樹でした。

「温泉神社の大杉」
 福島県喜多方市熱塩加納町熱塩熱塩甲831
 温泉神社
 推定樹齢:不明
 樹種:スギ
 樹高:25メートル
 幹周:6.5メートル

 市定天然記念物
 訪問:2018.9

探訪メモ:
 温泉神社には駐車場がありません。
 温泉街をいったん一番奥まで進むと(道が狭いので注意)、示現寺参拝と共同浴場利用のための共用駐車スペースがあります。

 印象的な巨樹探訪の後は……そう、温泉ですよオンセン!
 さっそく共同浴場に(写真の建物)。
 手前の売店でお金を払うようになってますが、誰もいず、カウンターにお金を置いてきました。
 こういうとこがいかにも古い湯治場っぽいなと。

 共同浴場も、一坪くらいの広さしかない中をペラいカーテンで無理やり仕切って男女を分けている。
 (※旅館の日帰り入浴や足湯もあります。)

 「熱塩温泉」というだけあって、熱い、そしてしょっぱい。
 あーだのうーだの言って入っているうち、自分の汗なのか温泉なのかわからないですが、口の中がしょっぱくなってきます。
 いやしかし、ちょっと疲れてからの(朝6時出発)活きのいい源泉堪能、最高でした。

 なんだかやる気が出てしまい、喜多方ラーメンでさらに活力注入後、会津若松市「高瀬の大木」までもうひとっ走りしてしまいました。
 こちらもスゴい!!

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