巨樹たち 山形県山形市「高沢の開山スギ」 / 4 コメント インパクト大、大型単幹裏杉 コロナの禁が解けた暁には、その鬱屈を一撃で解消してくれるようなインパクトある巨樹に会いに行きたい。 そう願って自粛生活を送り、一応、緊急事態宣言は解除されましたが、いまだ県をいくつも跨ぐような遠征はすべきではない雰囲気……。 近くて、凄い。そんな都合良すぎな巨樹あるわけが……いや、ありました。仙台市から1時間半程度の距離に、すごいやつが。 と、勿体ぶっていますが、実際は前々から見に行きたいと気にしていた巨樹です。 今回はまさにコイツの出番だとばかり、このカードを切ることにしました。 山形市「高沢の開山スギ」です。 そのアクセスは意外なほど容易。天童市と山形市のほぼ中間くらいの位置で、村山高瀬川という川を遡るルートにつく。 景色はきれいな山の風景が広がり……有名なベニバナの産地でもあるそうです。 以降、位置情報の詳細はネット上のマップにしっかり記載があるのでそれを参考にしていただくとして…… 山あいの高沢集落内は道がちょっと狭いくらいで、ちゃんと人の気配もあり、呑気に歩いていても、クマやヒルやハチに急襲される心配は全く無さそう。 集落全体が坂道になっている。登っていくと、上の写真のような雰囲気ある神社が現れます。 看板に「開山スギ300m」と案内があり……この名もなきスギからして、十分巨樹のレギュレーションを満たしています。 なおかつ、隠しようもない裏杉感。 神社には他にも5mクラスの背高いケヤキも見られました。 先へ進むと、若干の駐車スペースに使えるらしい空き地もありますが、道は細い。 自分はこの神社横のスペースに停めさせていただいて、歩いて向かいました。 やがて、建物の屋根から飛び出たひときわ大きなスギが見えてきます。 高い建物がないので普通のスギもそう見える……いや、そこはやはり巨樹で、最初に目に入った瞬間から「あれだ」と区別が付きます。 路地のようなところを入っていくと、目の前にズン! と存在感ある太い幹が。 あの太さ、見るからに只者ではありません。近寄る足が早くなります。 これが念願の「開山スギ」。太い! 明らかに裏杉(日本海側に分布する杉、積雪の重みなどから独特の樹形になる)で、根元から大きく分岐してもおかしくはないところ、逞しいとしか言いようがない単幹で立ち上がっています。 横型の樹であると思いがちですが、一息に画角に収められないほどの高さもあります。 周囲を回りながら撮っていくと、数多くの太い枝が文字通り四方八方に伸びていることがわかります。皆が皆、弧を描くようにして反り上がり、大きな丸い樹冠を作っている様は、同じ山形県で「トトロの木」と呼ばれる「小杉の大杉」にも似た特徴に見えます。もしかすると、環境上似た条件にあるのかもしれません。 傍から唐突に立ち上がる一本幹は、明らかに枝が地につき分離したと見られるこのスギの分身(更新)。露骨なまでにこうした生態を見せつけてくるのが、いかにも裏杉です。 前にある石仏は「熊野大権現」とありました。 樹冠が濃く、おのずと樹下に入り込むような格好になる。そしてそこへ入ってしまうと、全体像が視界に入らなくなる。 ジレンマもありつつ、やはりこの極太の主幹(と言っても幹は明らかに1本しかない)に終始釘付けになってしまいます。 解説板によれば、地上1.3mでの幹周囲は……えっ、6.3m?! ウソだろ。それっぽちしかないの? と、ネットでも資料を漁りましたが、どうしても7m程度の数値しか出てこない。 目の前で体感した感じでは、9〜10mと言われても少しも不思議と思わない。そんな数値、もう何十年も前に計測したきりなんじゃないのか? この巨大な剛腕を除けば、実際それくらいだということなのでしょうか……。 許されるなら是非自分でも計測してみたい。ソワソワしてしまいました。 では、数枚、筋骨隆々とした幹と大枝の姿をお楽しみください。 脇の下(?)に当たる部分で樹皮が剥がれているところ、このスギの新陳代謝の激しさを物語っているかのようです。 この枝は本当に太い。ほぼ水平に伸ばされた第二の幹のようです。 瘤……というか、もしかするとこれは気根を出そうとしているところかも。 やや根上がり傾向もありつつ、がっしりと大地を捕まえています。太い枝を出しても不安定さは全くない。 根元に何やら書かれた石板?が置かれていますが、どこかのどなたかが個人的に置かれたもののようです。 いつまでも一緒にいられるようにとの願掛け? うーん……。できれば他所でやってください。 解説。スギから見て東、少し離れたところに墓地とともにこのお寺があります。寺を開いた記念で植えられたから「開山」の名がついた。 文中、寺を指して「この」とありますが、現状ではどう見てもスギが敷地内にあるようには見えない。 昭和31年当時はそうだったのでしょうか? 文章が当時のままの可能性もあるのでは? と訝しみます。 つまり幹周囲も当時計測のままの疑いがあるかも。 目測ですが、ここにある全ての数値が過小評価に見えるんですが……。 ちなみにこれも、巨樹マニアが喜ぶ「上人ぶっ刺し伝説の樹」でした。笑 そのような歴史を踏まえ、ひとつ我儘を述べさせていただければ、昔のまま寺内にあってくれたらなお良かったのに。と。 単にケチをつけるだけになってしまうのであまり具体的には書きたくないですが、これだけ貴重な天然記念物の背景としては、ちょっとチグハグな眺め……里の樹の難しいところです。 同じような型の単幹裏杉として、同県の「松保の大杉」が最大最強の個体として思い浮かびます。 さすがにそこには及ばないながらも(アレは化け物です)、東北の力強さを体現しているかのような、素晴らしい裏杉でした。 「高沢の開山スギ」 山形県山形市大字高沢 推定樹齢:700年 樹種:スギ 樹高:25メートル 幹周:6.3メートル (多分もっと大きい) 県指定天然記念物 訪問:2020.6 探訪メモ: 集落内はギリギリ車がすれ違えるか……という道幅。 しかし、除雪用と思われる側溝がとても大きく、急なので、下手をすると……。 通行の迷惑をかけないためにも、歩きが良いと思います。 余談: 話によれば、この地方のベニバナ農家を題材として、ジブリの映画「おもひでぽろぽろ」が描かれたとか。 美しい山里風景は、それだけで心を写真旅行に駆り立ててくれます。 あと、開山スギのすぐそばの草地には、四つ葉のクローバーがありましたよ(異常に細かい情報)。
to-fu 2020年7月3日 at 12:02 PM 返信 つい先日ウラスギの巨樹を眺めていて全く同じことを感じました。 えっ?これ6m台のスギじゃないでしょ!と。 頭上の辺りから大きく広がるウラスギに関しては、幹周ってあまりサイズ感の指標にならないのかもしれませんね。遠目にはちょっとした丘にしか見えない石川県の「御仏供杉」ですら、幹周7mくらいですから。 それにしても良いスギです。何だこの外国人レスラーの腕みたいなぶっとい枝は。案内板の脇あたり、写真を見ていてついぶら下がりたくなってしまいました。(実行はしませんけど 笑)元々この辺りが山門だったのでしょうか。きっと当時はかなりの勢力を誇っていたのではないか。色々と妄想が膨らみます。どうしようもないことですが、本当にここがお寺の敷地として残っていたら素晴らしい景観になっていたのでしょうねえ。しかし北陸から東北にかけて、豪雪ゾーンの巨杉のポテンシャルたるや想像を絶しますね。時間とお金さえあったら少しずつ北上を進めてみたいものです。
狛 2020年7月3日 at 10:59 PM 返信 to-fuさん> ああ測りたい……。実際にはどのくらいなんでしょう。このスギの場合、計測部分はぐっと引き締まったウェストあたりで、もしかしたら印象とは裏腹に本当に7メートル程度なのかもしれません。 例の洞杉とは違って大きな損傷もなく成長した裏杉ですが、いわば筋トレしすぎのマッチョマンみたいな、やっぱり普通じゃない感じです。 ちょうどほぼ水平、この大枝の上に寝そべってみたいもんですね。 ただただ開山スギだけを目標に来てしまったので、一瞬、えっ、どこに寺が? となってしまいました。 これも世の移り変わり、ただ巨樹だけがずっとこの場に立ち続けている。周囲の移り変わりを見ながら大きくなってきたということですね。 これだけ大きく特徴的な裏杉が、ある意味無造作に路地裏みたいなところにあるというのは、ちょっとばかし居心地が悪いような感じがしました。 環境が厳しくなればなるほど、応えて杉は凄まじく育っていく。 真にそういう個体は我々がたどり着けないような世界に立っているのでしょう。 そうとはわかっても、行けるところまで行ってみたいと思ってしまいますね、これは。
RYO-JI 2020年7月4日 at 2:04 PM 返信 全体像を見るととても幹周6m台のスギとは思えない程の見事な質量ですね! 技術がもっと発達し、スマホをかざすだけで対象物の重量が解れば面白いのになぁと思いますね。 このスギを仮に数値で評価するならば、重さでしょう。 幹周6mだけど重量は55トンで県下ナンバーワンの重さのスギですとか(笑)。 真横に伸びたぶっとい枝なんかちょっとしたスギの巨樹くらいありそうです。 変な願掛けは他所でやれよなぁと思う一方、こんな存在感あるスギだと願いを叶えてくれそうで願掛けしたくなる気持ちだけはわかります。 現に「叶の大杉」なんていうド直球のスギが我が県には存在しますからね。 クスノキやイチョウなんかは民家に囲まれていてもそれほど気にならず、むしろ地域に溶け込んでいるような気がして嬉しさすら感じますが、 スギは寺社内か山の中にひっそりと佇んでいて欲しい存在です。 あくまで勝手なイメージですが(笑)。
狛 2020年7月4日 at 8:19 PM 返信 RYO-JIさん> 質量を測れるとしたら、巨樹の評価の仕方としてはとても面白いことになるでしょうね。 未来のツールとして、ものを透過して密度を測れるようになれば、全体計測とともに重さもわかる。 このスギはかなり良いランカーになりそうです。 もちろんそれができるなら計測の過大過小もなく、空洞化も即座に見抜けますね。 そういうツール、早くできませんかねえ(しかし、兵器転用が怖い)。 乳イチョウのように願掛けの伝統があるものも存在しますが、個人個人で始めるのはどうかなと……。 天然記念物だから良かれと思っても触れられないわけですし、そもそもこういった念みたいなものが宿っていそうなのには触りたくないですし……。 天然記念物指定の時にこういうのがおいてあると撤去できず、そのまま天然記念物になってしまうかもしれません。 そういう意味でも、寺社内にあるということにはメリットがありますね。
4件のコメント
to-fu
つい先日ウラスギの巨樹を眺めていて全く同じことを感じました。
えっ?これ6m台のスギじゃないでしょ!と。
頭上の辺りから大きく広がるウラスギに関しては、幹周ってあまりサイズ感の指標にならないのかもしれませんね。遠目にはちょっとした丘にしか見えない石川県の「御仏供杉」ですら、幹周7mくらいですから。
それにしても良いスギです。何だこの外国人レスラーの腕みたいなぶっとい枝は。案内板の脇あたり、写真を見ていてついぶら下がりたくなってしまいました。(実行はしませんけど 笑)元々この辺りが山門だったのでしょうか。きっと当時はかなりの勢力を誇っていたのではないか。色々と妄想が膨らみます。どうしようもないことですが、本当にここがお寺の敷地として残っていたら素晴らしい景観になっていたのでしょうねえ。しかし北陸から東北にかけて、豪雪ゾーンの巨杉のポテンシャルたるや想像を絶しますね。時間とお金さえあったら少しずつ北上を進めてみたいものです。
狛
to-fuさん>
ああ測りたい……。実際にはどのくらいなんでしょう。このスギの場合、計測部分はぐっと引き締まったウェストあたりで、もしかしたら印象とは裏腹に本当に7メートル程度なのかもしれません。
例の洞杉とは違って大きな損傷もなく成長した裏杉ですが、いわば筋トレしすぎのマッチョマンみたいな、やっぱり普通じゃない感じです。
ちょうどほぼ水平、この大枝の上に寝そべってみたいもんですね。
ただただ開山スギだけを目標に来てしまったので、一瞬、えっ、どこに寺が? となってしまいました。
これも世の移り変わり、ただ巨樹だけがずっとこの場に立ち続けている。周囲の移り変わりを見ながら大きくなってきたということですね。
これだけ大きく特徴的な裏杉が、ある意味無造作に路地裏みたいなところにあるというのは、ちょっとばかし居心地が悪いような感じがしました。
環境が厳しくなればなるほど、応えて杉は凄まじく育っていく。
真にそういう個体は我々がたどり着けないような世界に立っているのでしょう。
そうとはわかっても、行けるところまで行ってみたいと思ってしまいますね、これは。
RYO-JI
全体像を見るととても幹周6m台のスギとは思えない程の見事な質量ですね!
技術がもっと発達し、スマホをかざすだけで対象物の重量が解れば面白いのになぁと思いますね。
このスギを仮に数値で評価するならば、重さでしょう。
幹周6mだけど重量は55トンで県下ナンバーワンの重さのスギですとか(笑)。
真横に伸びたぶっとい枝なんかちょっとしたスギの巨樹くらいありそうです。
変な願掛けは他所でやれよなぁと思う一方、こんな存在感あるスギだと願いを叶えてくれそうで願掛けしたくなる気持ちだけはわかります。
現に「叶の大杉」なんていうド直球のスギが我が県には存在しますからね。
クスノキやイチョウなんかは民家に囲まれていてもそれほど気にならず、むしろ地域に溶け込んでいるような気がして嬉しさすら感じますが、
スギは寺社内か山の中にひっそりと佇んでいて欲しい存在です。
あくまで勝手なイメージですが(笑)。
狛
RYO-JIさん>
質量を測れるとしたら、巨樹の評価の仕方としてはとても面白いことになるでしょうね。
未来のツールとして、ものを透過して密度を測れるようになれば、全体計測とともに重さもわかる。
このスギはかなり良いランカーになりそうです。
もちろんそれができるなら計測の過大過小もなく、空洞化も即座に見抜けますね。
そういうツール、早くできませんかねえ(しかし、兵器転用が怖い)。
乳イチョウのように願掛けの伝統があるものも存在しますが、個人個人で始めるのはどうかなと……。
天然記念物だから良かれと思っても触れられないわけですし、そもそもこういった念みたいなものが宿っていそうなのには触りたくないですし……。
天然記念物指定の時にこういうのがおいてあると撤去できず、そのまま天然記念物になってしまうかもしれません。
そういう意味でも、寺社内にあるということにはメリットがありますね。