巨樹たち 山形県西村山郡「松保の大スギ」 / 4 コメント 東北最強クラスの野獣系巨杉 一大イベントの徳島・高知探訪旅もさることながら、2019年の巨樹探訪においてひときわ衝撃的だったのが、山形県大江町山中の「松保の大スギ」探訪でした。 仙台から片道2時間半。 大江町は、山形県のほぼ真ん中、寒河江市の西側に位置する町で、ほぼ全てが山地です。 県道27号から枝分かれする道はすぐに狭小になり、その先はほぼ林道直結。 この杉へと至る道も、県道から入って即・すれ違えない道。少し行けば未舗林道。それを8キロ走ります。 序盤はともかく、後半の荒れ具合はなかなかのもので、訪問者は度胸を試されます。 詳しい道順と、全ての林道走破行程をドライブレコーダー動画で記録しました。 途中の分岐や道の難度の把握(走破可能かどうか)など、探訪時の参考になれば幸いです。 しかし長い! 淡々! 30分にも及ぶ林道ドライブの末に現れる大杉は、見誤りようもない。 巨大な姿が見えた瞬間、かなりの達成感が押し寄せてきました。 有名な樹ではあるので、調べれば写真やデータは出てくる。 大きさの想像はできていましたが、自分の視界に実物を捉えると、その規模の大きさに度肝を抜かれます。 比較対象がそばに無いにも関わらず大きさや迫力が伝わってくる。 この感じは、あるレベルを超えた巨樹のみが持つものであろうと思います。 来たな……そう身構える感じ。 こんもりとした緑の茂りから幹が覗いた瞬間の衝撃は忘れられません。 ズームしてみれば隣のお堂との比較ができるわけですが……でかい! を通り越して、なんだあれ!? とわけがわからなくなります。 正直、ブルっときました。 近づくにつれ、背筋がゾワゾワ、あっという間に樹冠の薄暗い影に飲み込まれます。 根元にはカヤが茂っていたり、大きなジョロウグモがピアノ線みたいな糸を張っていたりしますが、負けずに突進。 巨大な幹は覆い隠しようもありません。 しばらく呆然。気を静めるためにも「山の神神社」にお詣りしておきましょう。 ボックスには芳名帳が入っています。険しい場所ですが、各地の方々が訪ねられておりました。 改めて「松保の大スギ」の幹姿! もう、最初からヒューマンスケール。 あまりにも大きすぎ、まるで壁のようで、それだけ撮っても何が何だか伝わりませんよ、これ。 間近まで近づくと、文字通り視界全てがスギで塞がってしまう。 それ以前に、立ちはだかる物体の単純な大きさとして、怖さを感じるくらいの圧力があります。 いやほんと、すさまじくデカい! 四国同様、20mの長尺をリュックに入れて行ったのですが、こんなもの、ひとりで測れるわけがない! 自分のおこがましさを思い知りました……。 巨大一本杉という点では岐阜県「加子母の杉」を思い出しますが、生命体としての勢いはこちらの方が数段上です。 積雪による豊富な水量がヒントであるなら、岩手県「白山杉」を思い返すべきか。 「板状に横にだけ広い」とか「複数の幹が変な形に合体」とか、そういうトリックなしにただただ太い幹。 色つやがよく、樹皮には若々しさすら感じる赤みがあります。 しかし、きれいな姿の杉ではない。 全体樹高はかなり高いのですが、幹の形状は独特。主幹は地上10メートルほどしかないと思います。 そこまで恐ろしく太かった幹が、一気に無数の大枝になってバラけ、伸びあがっていく感じです。 雪の重みで折れてからが本領発揮の裏杉の特徴そのもの。 折れる数以上の枝を出し、生きれば生きるほど凄みのある姿に変貌していくのです。 大枝は、イチョウに見られるような気根まで育み、上空を目指すと同時に地面をも目指そうとしています。 見えるでしょうか……数メートル上で、接触した枝が別の枝に連理(癒着)しています。 こうした荒業を駆使して、今現在もどんどん太くなろうとしています。 三脚を据えなおそうとして足元を見れば、点々とヤニが落ちている……。 横に伸びた大枝からも無数の幹が垂直に伸びる。 と同時、下方に向けても枝を伸ばしているのがわかると思います。 天地を同時に攻める、この野心、貪欲さ。 初見で感じた怖さに近い圧力は、こうした巨大な裏杉が放つ独特のものなのでしょう。 植物を見ているという気がしない。巨樹というより獰猛な「巨獣」と呼びたいくらいです。 正面から撮る時どうしても邪魔になる別の杉がある……。 なんて思っていましたが、全体を把握してから考えれば、これ、この大杉の別の幹ですね。 典型的な伏条更新(枝が地面に触れると、そこから根が出てクローンを作ることが可能)。 山形「高沢の開山スギ」でもそっくりな副幹があった……なんて、書き出すとキリがありませんね。 全国各地の巨大杉の特長全てを持ち合わせている大杉だと言えるでしょう。 こうした貪欲な生存戦略を見せつけられると、太平洋側のお上品な表杉とはまるで別種の生き物のように感じます。 気根や下方向への枝張りは、折れて本望の倒木更新すら視野に入れているのではないか。 ただ、もし枝ひとつでも折れれば、一撃でお社を破壊するでしょうが……。 これまでいろんな巨樹、たくさんの杉を見ましたが、まだこんな樹がある。胸躍らせてくれる事実です。 実測は尻尾を巻いて逃げたわけですが、ひとつ明らかなのは、10メートル台という公式幹周はかなり過小だということ。 県天然記念物指定が昭和28年というから、その時の数値じゃないのか?? 帰ってから調べてみると、巨樹写真家の高橋弘さんが実測された際には、12.1メートル(!)という数値を叩きだしている。 単幹形状の杉で12メートル超え! と絶句。 ……が、いやいや待ってくださいよ、と、自分の目で見てきた者は食い下がります。 本当にそれくらい? 12メートルで収まるの、これ? そして、その計測記録を見れば、それさえ03年時点となっているではありませんか。 解説文。 高橋氏の計測からも16年が経ち、この勢いで、どれだけスケールアップしているか。 現在、幹周13メートルを超えていたとしても、押しつぶされそうになった自分としては、一切疑いません。 単純に「この杉は絶対見てもらいたい!」 という一心で、ご同胞の方との再訪をぜひ固めたいと思いました。 ご同胞の方々は関西にお住まいですがね。山形のウマいお肉とお酒で釣ろうかな!笑 1時間半以上、ゾワゾワしっぱなしで撮り続けました。 ハチに追尾されたり、足元に……うわっ、この茶色いおしゃれな柄はマムシだ! と思ったら、アオダイショウの若いやつだったり(若いアオダイショウはマムシに柄を似せて身を守っている)。 ボコボコの林道も、行きの下りと帰りの登りでは勝手が違う、いくらかファイトを残しておかねば。と、いちいち刺激が強い。 ですが、本当に素晴らしいものを見させて頂きました。 これが待っているとわかれば、険しい道も、ぜひまた走りたいと言ってしまえるくらいです! 改めて、遠景でもすごい迫力。(モノクロ写真をクリックすると、カラー版を表示します。ぜひ見てみてください。) すぐ近くに田んぼがあり、ここまで通われている方がいるのも驚きです。 数十年前には松保集落があったようですが、今では住まわれている方はいないようです。 もちろん過度な水分は植物体に良くないでしょうが、そこは大裏杉。 田んぼの水や養分まで吸い取っているのかも?! 「松保の大スギ」 山形県西村山郡大江町松保 推定樹齢:1100年 樹種:スギ 樹高:30メートル 幹周:12.1メートル 県指定天然記念物 訪問:2019.9 探訪メモ: 未舗装で狭く、勾配もあり、路肩が崖、荒れていて、8キロもある林道! 四輪駆動車をおすすめします。オフロードバイクならもっと楽でしょう。 運転に不安のある方や、雨天や冬季の訪問はやめておいた方が良さそうです! 山形県の北部へ向かう際、「チェリラン(道の駅 寒河江チェリーランド)」に寄る癖がついてしまいました。おみやげ盛り沢山、日本人みたいにせっせと働くトルコのおじさんが作るケバブがうまい。さくらんぼ原産地のトルコ共和国ギレスン市と寒河江市は姉妹都市なんだそうですよ。 関連
小山洋二 2023年7月20日 at 10:50 PM 返信 サイトのヘッダーは松保の大杉だったんですね! 私も先日ついに行ってきました! 14日間の東北遠征をしていますがいきなりラスボスに出会ってしまった感じでした。 あれは見ないとわからないやつですね。遠目で見てよし近づいて尚良し!すごい生命体に出会ってしまった。 私的にも感覚ではありますが12mどころではないというのが本音です。 山形懐が広いですね!
狛 2023年7月21日 at 4:26 PM 返信 小山洋二さん> 14日間東北遠征とはまたタフですね! スゴイ。 東北とは言えかなりの暑さ&災害的豪雨にも見舞われていますが、ロマン濃厚な旅となることを祈っています。 ヘッダーは、まさにご名答です。笑 東北の数多い巨杉の中でもイチオシ、とりわけ印象に残った大杉で、その道のりも含めて大興奮モノでした。 そう、まさに単純に生命体として驚異的なんですよね……。 動物とか植物とかを超え、ここまで強烈で動的な生きる意欲を剥き出している巨大存在が目の前にいることに、とにかく唖然としてしまいました。 今でもどんどん太くなっている気配があって、正確な計測が欲しいところですが、太すぎて独りでは測れそうにないですね。 この単幹形状で13メートルとかあるかもしれず……いや、ほんととんでもない巨樹です。
小山洋二 2023年7月21日 at 9:02 PM 返信 今日で9日目、34本目となりました。 初日から昨日まで雨が降らない日はなく、晴れ間が見えたのも一瞬。 そんな中、奇跡とも言えるくらい撮影と登山では降られてないんです。 この松保に行った時も、一日中土砂降り松保に着いた瞬間から帰路に着くまで止みました。 巨木が迎え入れてくれているそんな感じがします。 松保の大杉は別格感ありますね!私も大興奮しました!すんげーなとばかり言ってましたw語彙力w 30mメジャーを持っていって4人だったので計測できたはずが興奮で吹っ飛びました
狛 2023年7月22日 at 3:15 PM 返信 小山洋二さん> すごい一大ツアーですね……クラクラしてきます。 ここのところの日本海側の大雨はマトモじゃないですから、そんな中で探訪できたとすれば、まさに巨樹が歓迎してくれたと言っていいかもしれませんね。 巨樹探訪パーティーを組めるとは、またリッチ。いい夏ですねえ。 しかしまた、それでも計測を忘れさせる松保の大杉ときたら、やっぱりモンスターとしか言えませんね。 笑
4件のコメント
小山洋二
サイトのヘッダーは松保の大杉だったんですね!
私も先日ついに行ってきました!
14日間の東北遠征をしていますがいきなりラスボスに出会ってしまった感じでした。
あれは見ないとわからないやつですね。遠目で見てよし近づいて尚良し!すごい生命体に出会ってしまった。
私的にも感覚ではありますが12mどころではないというのが本音です。
山形懐が広いですね!
狛
小山洋二さん>
14日間東北遠征とはまたタフですね! スゴイ。
東北とは言えかなりの暑さ&災害的豪雨にも見舞われていますが、ロマン濃厚な旅となることを祈っています。
ヘッダーは、まさにご名答です。笑
東北の数多い巨杉の中でもイチオシ、とりわけ印象に残った大杉で、その道のりも含めて大興奮モノでした。
そう、まさに単純に生命体として驚異的なんですよね……。
動物とか植物とかを超え、ここまで強烈で動的な生きる意欲を剥き出している巨大存在が目の前にいることに、とにかく唖然としてしまいました。
今でもどんどん太くなっている気配があって、正確な計測が欲しいところですが、太すぎて独りでは測れそうにないですね。
この単幹形状で13メートルとかあるかもしれず……いや、ほんととんでもない巨樹です。
小山洋二
今日で9日目、34本目となりました。
初日から昨日まで雨が降らない日はなく、晴れ間が見えたのも一瞬。
そんな中、奇跡とも言えるくらい撮影と登山では降られてないんです。
この松保に行った時も、一日中土砂降り松保に着いた瞬間から帰路に着くまで止みました。
巨木が迎え入れてくれているそんな感じがします。
松保の大杉は別格感ありますね!私も大興奮しました!すんげーなとばかり言ってましたw語彙力w
30mメジャーを持っていって4人だったので計測できたはずが興奮で吹っ飛びました
狛
小山洋二さん>
すごい一大ツアーですね……クラクラしてきます。
ここのところの日本海側の大雨はマトモじゃないですから、そんな中で探訪できたとすれば、まさに巨樹が歓迎してくれたと言っていいかもしれませんね。
巨樹探訪パーティーを組めるとは、またリッチ。いい夏ですねえ。
しかしまた、それでも計測を忘れさせる松保の大杉ときたら、やっぱりモンスターとしか言えませんね。 笑