巨樹たち

岩手県一関市「峯岸のサイカチ」

夏ごとに更新される民俗史

 一関市サイカチ巡り。
 日が傾き始め、三本目にしてラスト一本に定めたのは「峯岸のサイカチ」。
 天然記念物無指定のため資料に乏しい巨樹ですが、Googlemapでの捜索およびそこから紐づく「人里の巨木たち」さんの記事で把握できました。
 環境庁出版物「日本の巨樹・巨木林 北海道・東北版」にも掲載されていたようです。

 有間川の流れが形作ったと思しき谷地地形で、周囲は広々とした水田地帯。
 国道342号からスズキの自動車屋さんのところを入っていくのが車道の簡潔ルートだと思いますが、1キロ程度の徒歩が苦にならないなら、南側に東北本線の駅もあります(「清水原」駅)。
 実際に行ってみた感じ、付近の道がかなり細くなるので、電車&徒歩訪問の方がむしろ苦労は少ないかもしれません。

 周囲の住民の方しかまず通らないであろう道を入っていく(左手方向)。
 怪しい者ではございませんよ……
 と、出会え次第ご挨拶の心構えで、向こうで草刈りをされてた方にも会釈してみたりしましたが、気づかれたかどうか。

 軽トラ用道路を数十メートル進むと、右手にひときわ大きく元気な樹が見えてきます。
 「赤荻のサイカチ」「堤下のサイカチ」で、サイカチ巨樹の特徴をつかんでいるので、もはや目が迷うようなことはありません。

 「峯岸のサイカチ」。
 サイカチ巨樹の通例を踏まえ、現在も個人邸の敷地前に立っていますが、前の二本よりも主幹がしっかりしている印象。
 これまで横で構れば全て事足りていたカメラを、ここでは縦にしたくなりました。

 根張りも力強く、多種多様な草木が絡みついて野趣を醸し出している。
 よく見ると、例に漏れず黒々したウロが確認できるのですが、一方での樹勢の良さも書くまでもなく。

 幹周5.2メートル。
 数値的には他樹種に見劣りしますが、サイカチ自体そこまで大きくなる樹種ではないらしく、幹周6メートル台後半でほぼ全国トップクラスと言えるようです。

 正直、期待値は高くなかったのですが、これまたサイカチという樹種の印象をポジティブな方向に強く牽引してくれる良い樹でした。

 幅広い有用性を重んじられた樹種だけに、おそらく寺社仏閣の御神木のようには保護されてこなかったのではないでしょうか。
 しかしそれだけに、サイカチの巨樹の根元に立つと、牛馬舎や古い農耕の気配が蘇るかのような不思議な懐かしさが感じられます。
 風俗と密接に紐づいていた樹種なればこそ、巨樹を中心に保存される土地の記憶はいっそう濃いと感じました。

 サイカチ限定の巨樹巡り、想像以上の満足度でした。
 岩手県にはまだ他にも見ておくべきサイカチがあり、中には全国規模で樹種筆頭と言って良さそうな巨樹も。
 ぜひまた初夏の時期に巡ってみたいと思います。

「峯岸のサイカチ」
 岩手県一関市花泉町金沢峯岸
 推定樹齢:300年以上
 樹種:サイカチ
 樹高:15メートル
 幹周:5.2メートル

 訪問:2023.6

探訪メモ:
 Googlemapでは「峰岸」で登録されていますが、周辺集落が「峯」の字なので、正しくは「峯岸」かなと。
 周辺の農道は道幅が狭く、駐車できるスペースも限られます。
 お住まいの方々の迷惑にならないように配慮お願いします。

「一関市サイカチ巡り」

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