巨樹たち

岩手県一関市「赤荻のサイカチ」

サイカチ巨樹は旧家のしるし

 宮城県北部から岩手県南部にかけての巨樹をマークしていて気付くのが、サイカチという樹種の存在です。
 数年前、宮城県北部の路肩で「柳沢の皂莢(さいかち)に出会って以来、個性豊かな樹種として記憶に刻まれていましたが、岩手県一関市ではサイカチの巨樹をいくつも見出すことができます。
 これほど集中、かつ現存している地は、全国でも珍しいのではないでしょうか。
 一日で巡れる三本をひとまとめにし、サイカチ巡りを計画しました。

 まず一本目、「赤萩のサイカチ」。
 実はリサーチ段階で「赤萩のサイカチ」だと思い込むケアレスミス……念のため書いておきます。
 お約束っぽいですが、「おぎ」です。「はぎ」ではなくて。
 国宝・金色堂で有名な中尊寺にほど近く、ご参拝がてら立ち寄られても良いと思います。

 晴れ晴れとした空の下走っていくと、路肩にそれと一目でわかる樹影が現れます。
 スギやケヤキのような巨大さはありませんが、代わりにサイカチ巨樹特有の雰囲気が目を惹きます。
 この時期、樹冠の緑色がとても目に鮮やか!

 根幹はボロボロに朽ちています。
 かつて徳島で日本一の大きさをもつセンダン「野神の大センダン」を見た時には、その腐朽度合に衝撃を受けたものですが、それといい勝負の空洞がある。
 これほど崩壊しているというのに……この樹勢の良さは一体何なんだ。

 左右対称に列をなす葉ひとつひとつは小さいのですが、暑くなってきた日差しをよく遮り、樹下を涼しくするほど茂りが濃い。
 これを仰ぎ見てしまっては、「元気な良い樹だ!」と感嘆しないわけにはいきません。

 しかしまた逆を言えば、これほど冬季に訪ねるべきではない巨樹もないでしょう。
 全て落葉してしまった後、このボロボロ幹でポツンとたたずむ姿……想像しただけで物悲しくなります。 

 この地方に多い理由が早くも明らかに。
 サイカチは漢方での薬効が注目される樹種で、特に馬や牛の薬として重宝されたそうです。
 そして、それが必要になるほど家畜を養えるといえば、旧家の家柄。
 お屋敷につきものの樹種だったようです。

 今一度、ごつごつに荒れた幹姿に不釣り合いなほどまぶしい緑に見惚れます。
 幸先よし、サイカチ巡りのフットワークを軽くしてくれる一本でした。

「赤荻のサイカチ」
(登録名は単に「サイカチ」)
 岩手県一関市赤荻外山47
 推定樹齢:300年
 樹種:サイカチ
 樹高:10メートル
 幹周:4.7メートル

 市指定天然記念物
 訪問:2023.6

探訪メモ:
 路肩駐車になりますが、見通しのよい道端にあります。
 解説版と同内容にとどまるのが少し残念ですが、市提供の「一関市の文化財」PDF中に記述が見られます(その他、同市の他の巨樹の情報も若干あり)。

「一関市サイカチ巡り」

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