巨樹たち

福岡県糟屋郡「湯蓋の森」

其の枝葉繁りて湯船の上に蓋の如くなれり

 九州自動車道で福岡県を北上し、有名な太宰府天満宮を通り過ぎて下道に降りました。
 その大宰府天満宮にも幹周12.5メートルの大クスをはじめクスの森がありますが、九州上陸後、巨大クスばかり見て感覚がおかしくなっており、今回は素通り。

 それでもなお特筆すべきという巨大クスが現れます。
 ここ宇美八幡宮には、国天然記念物指定を受け、一本で「森」と呼ばれるクスの巨樹が、ふたつも存在します。
 今回の「湯蓋(ゆぶた)の森」、そして「衣掛(きぬかけ)の森」です。

 宇美八幡宮に到着した途端、鮮やかな楠の葉の緑が目に飛び込んできます。
 駐車場からもすぐに目通り6、7メートルはあるのではないかという楠たちの姿が見えますが、まだこれは脇役。
 その奥、まさに八幡宮の真ん中に、超巨大と言っていい主役が鎮座しています。

 「大樟なり目通り四十八尺 境内には樟の大木三十余あり 
   其内此樟の下にて産湯を仕え奉られるとき
    其の枝葉繁りて湯船の上に蓋の如くなれり依りて 湯蓋の森と云う」

 48尺というと、およそ15.8メートル
 おそらく、天然記念物指定を受けた大正期の測定でこれなので、現在ではもっと大きいはずです。
 根本からほとんどそのままの太さで立ち上がっており、実物を前にすると驚異的なボリュームを感じます。
 「一本」より「一座」と数えたい。

 文中、「此樟の下にて産湯を仕え奉られるとき」とあるのは、第15代天皇である応神天皇の誕生を指すそうです。
 応神天皇は、「確実に実在が確かめられる最初の天皇」とのこと。

 応神天皇が産湯をつかったのがこの楠の真下で、枝葉の茂りがまるで蓋のように覆い被さって見えた。
 「湯蓋の森」の名の由来です。

 ちなんで(「蚊田」という地名だったのが)産みの地すなわち「宇美」と改名され、宇美八幡宮は子安・安産にご利益のある神社として今でもとても活気があります。
 古くから神木として重視されてきたようで、樹の根元にある大正13年の天然記念物指定の注意書きに、

「もしこれを犯したる時は国法により罰せられるべし(※この樹にふざけたことをすると国がお前をぶっとばす)

 などという物々しい文言も見えます。
 が、自分としては、もはやこの壮大な存在感の前でそんな狼藉を働こうという気も起きません……。

 古墳の研究、日本書紀の記述と百済の年代記の照合などから、応神天皇の時代はおそらく4、5世紀頃だと考えられているようです。
 つまり、伝承どおりなら1500年〜の樹齢があるということになりますが、そこまではどうか。
 まだまだ長生きしそうな頼もしさからは、もっと若い感じすら受けますね。

 まさに樹一本からなる森、神社の境内を覆い隠すほどの巨大さでした。

 撮りながらぐるっと回ると何分もかかり……
 きっと安産願掛けのお礼参りなのでしょう、幸せそうなご家族に「湯蓋の森」をバックに写真を撮って欲しいと頼まれました。
 気持ちよく引き受け、その後もう一周……
 するとまた別のご家族に頼まれます。笑

 少子高齢化著しい日本にあって、なんて幸福な神社なのでしょう。
 この宇美八幡宮自体パワースポットに間違いなく、終始とても良い気分で過ごすことができました。

「湯蓋の森」
 福岡県糟屋郡宇美町
 宇美八幡宮
 推定樹齢:1500年
 樹種:クスノキ
 樹高:20メートル
 幹周:15.7メートル

 国指定天然記念物
 訪問:2017.9

探訪メモ:
 同神社内の「衣掛の森」も凄い。お見逃し……ようもない巨大さですが。笑

 安産・子育て参詣で有名な神社なだけあって、広い駐車場があります。
 なお、応神天皇生誕のお祭りは毎年1/5だそうです。
 初詣と続いてすごく賑わいそうですね。行ってみたい。

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