2017年・九州~関東 巨樹旅3

〇6日目(つづき)

 鞆の浦での充実の街歩きスナップ撮影に浸るうち、日が傾いてきました。
 「立ち寄る」というあっさりした言葉には余るくらい、この街の風景を楽しんでしまいました。
 歩いた距離としては3〜4キロというところだと思いますが、山口県防府市からの行程もあり、さすがに疲労感があります。

 東京暮らしで車を持っていなかった頃は、1日20キロ×5日連続なんていう徒歩旅行を繰り返してたもんですが……あの頃の自分が今の自分の旅を見たら、何て言うだろう。
 この先、どこで夜を明かすかもまだ決めていなかったのですが……

 狭い街中を縫って降りて行き、いよいよ鞆の浦よさようならというところで、女の子二人組が「岡山方面」と書かれた紙を持って立っている。
 車内はすっかり車中泊仕様に固まっているので、乗せることができない……。
 車窓越しに目が合いましたが、思わず、ゴメン! と口パクとジェスチャーで断ってしまいました。

 通り過ぎ、100メートル行くと、急にザーッと雨が強くなってきました。
 さっきの子ら、傘持ってなかったみたいだった。誰かに拾われてるといいんだが……と、どうしても気にかかりました。
 一方で、「こういう時に人助けすることで自分もピンチを救ってもらえる」……それが渡世ってもんじゃねえのかな、なんて、旅の頭は思い始める(思えば、ここ数日の僕は、常に変な時代劇か寅さんのモノマネみたいなことをしていました)

 寅さんのモノマネをしても、僕は寅さんじゃあないので、やはりモヤモヤする。
 いっそう強くなる雨の中、急いで引き返してみる……と、もはやその姿はありませんでした。

 ちょっとだけホッとしました。きっと誰か、同じ方面に向かう優しい人にすぐに乗せてもらえたんだな。
 そう思うことにしましたが、そうした場面で親切にできなかった自分には悔いが残るようで……。
 「とっさの親切」、かあ……。

 こんなところでいきなり連れができたとしたら、展開としてはかなり面白そうだった。
 どうしてヒッチハイクなんかしてるのか? お金がないのか? だいたい、それは何がテーマの旅なのか? ……
 他人が旅をする動機というのは、どうしても聞きたくなってしまいます。
 せめて親切な人に乗せてもらえたことを祈る……万一にもひどい目にあったりしないといいな。

 ……だけど待てよ、あんな女の子二人でヒッチハイクなんて、やっぱりおかしくないか?
 雨だから駅まで乗せてというならまだしも、岡山までと言ったら1時間半くらいはかかる。
 ヒッチハイクの長旅? どうも引っかかる……。
 も、もしかして……彼女らの方が、ヒッチハイカーを装った殺人鬼とかでは?

 寅さんのお次はテキサス・チェーンソーとは。妄想癖もいいところ。
 でも、いや、全くありえない訳ではあるまいよ、桑原桑原……と怖くなるのでした。
 ひとりで黙々と運転している時間が長いと、ロクでもないことを考えるものです。

 渋滞に巻き込まれ、コンビニ飯をすませ、21時過ぎに岡山県瀬戸内市の道の駅に着。
 自販機の前に1000CCくらいの大きなバイクが2台停めてあり、テントが2つ。
 ゴミ箱周辺にはやけに猫がいっぱいいる。人馴れしていて逃げません。
 いつものようにシェードを窓に貼り、充電ライトをつけて車内で書き物やメール。そのうち眠くなります。

〇7日目

 深夜にゴトゴト車が揺れ、すわ心霊現象かと動揺したんですが、猫でした。
 朝暗いうちにトイレに行ったら、車の下にもいたし……。

 5時起床。
 寝心地はとてもよく、背中とか腰が痛いなんてことは全然無いし、疲れもほとんど取れていると思います。
 一泊ちゃんとしたホテル泊を挟んだので、もう車中泊には戻れないかと思いましたが、大丈夫でした。
 この質素さがたまらない感じがありますね、車中泊は。

 昨晩は寝袋だけでは深夜に寒くなってきて、アルミシートを取り出しました。
 ペラペラなんだけど、これ一枚かぶせるだけで嘘みたいにあったかい。
 しかし欠点もあって、朝起きて触ってみると、シートと寝袋の間がすごく結露しています。
 車中が続くようなら、いずれ寝袋も洗濯しないといけないでしょうね……。

 最悪だったのは、安眠するためにはカルシウムを摂らないとね、と、車中で牛乳を飲んでたんですが、ちょっと置いといた隙にパックが滑り落ち、シフトレバーの辺りにぶち撒けたこと。
 車内騒然。ひどいよなあ、重力ってやつは。

 夜明けを待たずに走り始めると、瀬戸内海の静かな風景が美しく、少し停めて少し撮る。
 立ち寄った道の駅で同じく車旅のおじさんに声をかけられ、
 「うちは長野から1500キロ」「すげえ、僕は茨城から1100キロです」……みたいな。

 移動日ではありますが、車中泊旅の気ままさがぶり返し、巨樹の資料本を開いてみました。
 兵庫県はゆかりがないので、どんな樹があるのかもチェックしていなかったのです。
 偶然、30分くらいのところに注目に値する樹があることを知りました。

「法雲寺のビャクシン」

 単幹での樹種日本最大説もある「法雲寺のビャクシン」
 実に、この旅で初めてのクス以外の巨樹です(おそるべし西国におけるクス勢力)。

 勝手に木戸を開けて見に入ったので、お坊さんに見つかってお説教されたら嫌だな、でもそれもいいかな、そのまま奉公人にでもなろうかなあ、ビャクシンの枯葉を掃いて……と思ったけど、ビャクシンは常緑樹なのであんまり仕事がなさそうだし、やめときました。

 さて。
 予定より先に進んでいるのはいいけど、大切なことを忘れています。昨日から風呂に入っていないのです。
 不快感もあるので調べてはいましたが、必要な時になかなかない……。結局、言わずと知れた大都市・神戸まで走ってしまう羽目になりました。
 渋滞に巻き込まれつつも、湾岸地域にあるスーパーな感じの入浴施設にIN、しばし気を失う。

 さっぱりしたところで、午後は高速を飛ばし、一気に奈良まで進みます。明日は、写真ブログ&巨樹仲間のRYO-JIさんと会える予定なのです。

 奈良では、せっかくだからと奈良公園周辺へ向かうも、ものすごい観光客で、駐車場がどこも満車!
 どこにもよることができずに脱出……。
 そういうイメージがなかったのですが、市街地を抜けるといきなりけっこう険しい山で驚きました。
 RYO-JIさんからアドバイスをもらっており、大型道の駅「針テラス」というところがあなたにうってつけ、という。

 ここの充実っぷりには驚きました。
 レストラン、フードコート、コンビニ、ガソリンスタンド、なんと温泉まである!
 間違いなくAランクの道の駅です(そう認定するお気に入りが全国にいくつかある)。
 たらふくごはんを食べ、人里を満喫するつもりでロッテリアでジュースを飲みながらゆとりの読書。
 車中の夜は暗いので、久しぶりの読書タイムのオツなことといったら!

 広大な駐車場では、まあ予想通りですが、車やバイク好きのあんちゃんたちが集合してきます。
 レーシーにいじった軽をずらっと並べたり、お金を貯めて買ったのか、排気音がブリブリうるさいスポーツカーを乗り付け、何時間でも眺めてだべっている。そろそろ寒かろうに。
 なんだろう、見て欲しいのか、わざわざウチ(フォレスター)の隣に乗り付けてきて集会するのは勘弁して欲しいです。
 剣呑な雰囲気になるかと警戒しましたが、22時くらいには皆引き揚げていき、静かに消灯。

〇8日目

 ぐっすり眠り、ドタバタと車を片付けてこの先の宿どうしようかなど検討・リサーチしていると、RYO-JIさんがやってきました。
 この色のフォレスターは珍しいからすぐわかりましたよ、とのこと。
 彼との対面は初めてでしたが、誘いに甘えて、あちらの素晴らしい自動車に乗せて頂き、奈良の巨樹を案内して頂けることに!
 もう1200キロも運転してきていたので、よそ様の車のそれも助手席に乗れるなんて、ものすごく素敵!
 地理勘がないのは当然ですが、かなり山がちな奈良。地元の人に案内してもらえてつくづくよかった。

「八ツ房杉」
「高井の千本杉」
「黒瀧神社の夫婦杉」

 異界からいけないモノが溢れてる感抜群の「八ツ房杉」
 思わず爆笑してしまうほどスゴい千杉白龍大神「高井の千本杉」
 ストレートに巨大な三重県の「黒瀧神社の夫婦杉」
 ここにはクスの姿はない。勢いのある巨杉に大満足しました。

 巨樹を撮る者同士で語り合う機会も貴重。
 大きなものへの驚愕、長大な一生への畏怖、せめぎ合う生と死の気配……こんな感情をおぼえる機会は現代の日常では珍しい。そう意見が一致します。

「からあげ定食(ふつう)」

 途中、「ニホンオオカミが最後に捕獲された」というエピソードからも底なしの鬱蒼ぶりが伺える吉野山中にて、孤独な定食屋さんでお昼。
 「ふつう」を頼んだのに岩石の小山のような唐揚げ定食に攻め込まれ、むさぼり、ちょっとギブアップする(当然おみやげにする)。
 絶えずガス欠気味なこの旅にあって、貴重なライフパックだったと思います。
 多分、かなりカロリー使ってると思うんですよね……。

 その後、「女人高野(古くから女性もお参りできた派生高野山)こと古刹・室生寺にまで連れて行ってもらいました。
 不精者の旅ですから、ひとりで回っていれば、おそらく奈良まで来てもお寺も見ずに帰るところ、感謝感激です。

「ここへは何度か来てるんですが、いつもあそこの角のお店の回転焼きを買うんです」
「そうなんですか……回転焼きって何です?」
「回転焼きを知らんのですか!?」
「実際初めて聞いたんですが、何? 何が高速スピンするんです?

 関東で言う「今川焼」「大判焼き」のことですね、的、定番の東西トークも忘れずに。笑
 (回転焼き屋さんはお休みでした)

 1400年もの歴史を誇り、国宝、重文を多数擁する室生寺は、本当に素晴らしいお寺でした。
 (ここの五重塔は日本最少らしいです。)
 ずっと本降りの雨に祟られていましたが、これほど古い木造建築がこの気候の中で残っていることにこそ霊威を感じます。

「室生寺参道の杉並木」

 加えて、参道の杉並木も十分巨樹群と呼べるレベルです。
 これだけでも一見の価値はある! (巨樹の個別ページにしましたので、画像クリックしてご覧ください)
 見どころ充分。これにも大変満足しました。

 我が旅の相棒が待つ道の駅「針テラス」に戻り、また少し巨樹や写真について談義した後、RYO-JIさんと別れました。
 おもてなしには感謝してもしきれません。また遊びましょう。笑

 温泉を拝借し(雨の露天風呂)、寝てしまいたい誘惑を振り切って出発。
 お隣の京都まで走り、次の停車ポイントで車中泊。
 明日もなんと、東京時代からの写真仲間であるto-fuさんと合流できる予定なのです。
 雨は降り続き、街路樹からの雨だれがルーフを叩く音の中、高まる気分を眠りにつかせます……。

(つづく……)

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