2023年・青森県東部巨樹探訪4

〇4日目:十和田湖方面~岩手最北部を経て帰る

 青森県十和田湖町、車中で迎える朝。
 夏の新潟の巨樹探訪旅行でも感じましたが、コロナ禍を挟んでも通算の感覚はリセットされないものなのか、「ワックワクの車中泊!」なんて感じにはならない。
 ですが、今回「バッテリーで動くコードレス扇風機(しかも照明付き、扇風機なのに光る)」という、わかる方にしかわからない便利ガジェットが加わったため、快適度は15%くらい増しました。
 車内の空気を動かせるだけで息苦しさが紛れるし、フワッとした明るさの照明がひとつ増えたのも便利でした。こういう一味が大事。

 早く寝たので、5時には目が覚め、洗面がてら散歩する。
 「道の駅おいらせ」、昨晩は真っ暗闇で何も見えませんでしたが、おしゃれな施設があったり(クラフトビール醸造所?)、公園としてもよく整備されていて気持ちよかったです。

 青森県が広すぎ、こんなチンケな休みじゃ満喫できないとわかりきっている。
 青森筆頭巨樹と言えばそろって日本海側にあると重々承知の上で、今回はすっぱり諦めます。リサーチ段階からそう決めていました。
 今日中に仙台へ戻らないといけない日程でもあり、青森の中央部にぽっかり存在する十和田湖までがせいぜい。そのため前泊したというわけです。

 フロントウィンドウの露をワイパーで拭い、デフロスターを全開で回す。これこそ車中泊からの出発っぽいなと。

 いい天気。コンビニコーヒーをすすりながらうらうら走ってて地元建設企業のバンに煽られつつも、日本で五指に数えられる国天の大イチョウ「法量のイチョウ」まで難なく辿り着きました。
 明らかに観光バスを視野に入れたと思しき広々としたトイレ付駐車場があり、どこまでも訪問しやすい。
 しかし、このイチョウの個性は「日本一気難しい」内面だという……(詳細は個別記事をごらんください)。

「法量のイチョウ」

 まさしく「巨大な樹」。青森県にお越しの際はぜひチェックを。

 駐車場の目の前は奥入瀬川で、周辺散策にも活用できます。
 朝日を浴びてきらきら光る水面、豊富な水量。洗ったような清々しい気分になれました。

 続けてもう一か所、この機会を逃してはなかなか立ち寄れないであろう巨樹に行ってみようと。
 距離もさることながら、巨樹・写真仲間であるto-fuさん(サイト:「with photograph」から、

 「その森林は野獣の支配するおそるべき土地であり、無電波・孤立無援状態、おまけに自殺の名所でもある……」

 ……と聞き及んでおり、ハンドルを握る手にじっとりと汗がにじんできます。
 どうせネットの噂でしょ、と笑い飛ばしたいところですが、秋田出身の彼の奥様のリアリティ情報も交えているので……いやほんと、正直やめようかと悩みました。
 石橋をたたいて壊す。これまでもそうした人生を送ってきました。
 あくまで大人の節度を持ったうえで、しかしさほど考えず、歌とか歌いながら運転していきますが、周囲の森はどんどん深くなっていきます。

 『助けを呼べません』
 このおっかない看板が目印。ここを入ってゆく。
 助けを呼べませんってことは、助けを呼びたいような事態が出来するってことでしょう? でも呼べないんですよ。

 だが、どうだ……森へ踏み込む寸前の駐車スペースに現地の方々がいるという僥倖!
 ついてる! 今年の運を全部使ったかもしれないが、もう10月だし構わない。

 ここで出会った青森おじさんによれば、クマは確実に「いる」、「見えないがいる」とのことで、

 「クマは近眼だから、向こうより先にこちらが気づいたのなら、ゆっくり後ずされ」
 「向こうに気づかれても、背を向けて走って逃げるのは悪手」
 「ただし子熊は目が利く。親子連れに鉢合わせたら、はっきり言って詰み」

 という(青森弁での)レクチャーをありがたく頂くことができました。
 ……恐怖レベルがアップしただけでは?

「森の神(日本一のブナ)」

 こういう思いをして訪ねたのは、明らかな単幹形状としては日本一の大きさを誇るとされているブナ、その名も「森の神」です。
 詳しくは個別記事をお読みいただくとして、現代日本では希少なブナの巨樹であり、探訪の緊張も報われる大変美しい巨樹でもありました。

 前述の青森おじさんが「この道を出て、右に曲がってすぐのとこが展望台で、十和田湖一望絶景ポジション」と太鼓判をくれたので、もちろん行ってみることにしました。
 現地の方のアドバイスには最優先で従ってみる。旅を楽しむ秘訣です。

 しかしまあ……
 福島県で「交差点ふたつ越えた先」だというので歩いて行ったら5キロあったとか、地方(特に東北)の方の「すぐ」は全く「すぐ」ではないことも知っておきましょう。
 全然つかない……これって秋田まで行っちゃうんじゃないの? と、あきらめて引き返すギリギリのところで、展望台が出現(「御鼻部山展望台」だったようです)。

 距離感は大変遺憾でありつつも、絶景に関しては「確かに見た!」と自信を持てる十和田湖ビューでした。
 もういつでも帰ってよろしい。そういう完成した気分に整いました。

 この辺りの林には、道路から見えるだけでも準巨樹レベルのブナがたくさん。希少かつ豊かな森林で、無電波地域なのも頷けるというか、「無電波地域だからこそ」とさえ思えてきます。
 人が踏み込まない/踏み込めないからこそ保たれている。ここは別世界なんだ……としみじみ感じ入りました。

 ただでさえ大きな十和田湖ですが、湖畔に沿って南下するルートが土砂崩れで封鎖されており(当時)、グイーーーッと北上させられ、「森の神」の前もまた通過して奥入瀬川流域まで数十キロ戻るという……まあなんだ、奇跡の展開まで用意されていました。
 これにより、本日の探訪余裕がまた厚切りハムみたいに最後尾から切り落とされていきます!

 しかし、なんということでしょう。
 マニアが見向きもしなかった……一方で一般感性の方々なら是が非でも訪ねるであろう風光明媚、高級リゾート感満点の奥入瀬川の渓流風景を味わえてしまいました。


 思わず下車して散策。ええ、ええ、これによってまた残りの探訪予定が短くなっていきます。
 それでも風景の美しさ、空気のおいしさは味わう価値がありました。旅すなわち一期一会ですねえ。
 ハプニングがたまたま怪我の功名になっただけかもしれないけど。

 観光人気が高い十和田湖や奥入瀬渓流方面なら、道の駅も充実。
 青森っぽくなくて、と言ったら失礼ですが、ちょいと軽井沢のような雰囲気。
 山ほどあるりんごのお土産をかきわけ、フードコートでおいしい塩ラーメンを食べて息をつく。

 そろそろ真剣に南下に舵を切るべき時刻ですが、ここから先、岩手北部にかけてはぐっと通好み地帯といえるでしょう。
 新郷村の「キリストの墓」なんてオカルト少年時代から気になってしょうがない……が、それ寄ってると自動的に八戸市に戻されてしまう罠が張られている。

「古屋敷の千本桂」

 岩手県最北端、軽米町に到達。
 このエリアで目立つ巨樹にはカツラが多く(一戸町「小井田の千本桂」、九戸村「藤桂」など)、中でも最大の「古屋敷の千本桂」を見てみたかったのです。
 この板根状の見事な根張り。大きさは想像以上で、古代文明の神殿遺構を前にしているような荘厳さをも感じさせました。 

「山田の千本松」

 陽が傾いてきましたが、もうひとつ、軽米町で「山田の千本松」を。
 「千本」というにはもっとふさわしい枝数の「うつくし松」があるようですが、幹の大きさと迫力はなかなかのもの。
 十分に個別記事を書き起こす意欲に駆られる巨樹でした。

 さて……と、荒れ始めた天候の中、車に戻って息をつきました。
 コンディション、時間的にも、今日はここでおしまいにした方が良さそうだ。
 そしてそれは、今回の旅じまいでもある。
 多数の樹種を探訪してきて、ラストがマツの巨樹というのは、後味的にいいかもしれない。そういう気分でもあります。
 いろんな料理からなるコースを平らげた後に、渋いお茶を頂いたような心持でした。

 東北は広い。まだまだ、全然広い。
 青森の日本海側、陸奥地方もノータッチですし、やりがいを感じます。

 ということで、お読みくださり、ありがとうございました。

 (おわり)

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