巨樹たち

栃木県日光市「東照宮のコウヤマキ、スギ群」

巨樹を見に行く、大人の修学旅行

 埼玉県西部を巡った今回の巨樹探訪も復路に。
 せっかく関東まで来ているので、栃木県日光市にも立ち寄ってみました。
 お題目としては、もちろん「大人の修学旅行」
 ダサいって? いや、関東出身の中年としては、むしろこれ以外にはありません。不可避。定め。  
 呼称はともかくとしても、「日光東照宮にはでっかい樹がいっぱいあった」とは確かに記憶しており、再確認しにいく価値は十分あると踏んだのです。

 前日、埼玉県東松山市で「正法寺のイチョウ」を見た日没からひた走り、日光市の宿で前泊。
 宿のお姉さんの話では、「紅葉ピーク時は、名所のいろは坂はおろか東照宮の入り口にすらたどりつけない」そうですが、11月のこの頃、すでに少し落ち着いてきているらしい。よかった。
 もみじ狩りに来たわけではないのですが、まあ、見られるならばそれも苦しゅうないぞ。と言っておいて、朝いちばんで出発。

 ちょっと、この辺の臨場感も。
 駐車場は東照宮付属のそれが広く、料金も安い(前払いで一度払えばよく、500円)。
 8時時点ですでにけっこう埋まっていてハラハラしましたが、無事着地成功。

 東照宮内でも、紅葉はちらほら楽しめます。
 しかし、巨樹好きの目に映えるのは、何と言っても徳川時代に植えられたと思しき、300年もののスギたち。
 巨樹認定の基準をクリアすればいいだけなら、数えきれないくらいたくさんの「巨樹」がここにはあります。

 ああ、確かに一度来た!
 そういうデジャヴ的実感を得たのもつかの間、1300円(宝物館込みだと2100円……)の拝観料に覚悟を試されます。
 開門は9時。券売機には長蛇の行列ができ、老若男女、誇張なしに世界中から人が押し寄せています。

 天然記念物として個別に指定されている樹木を探してみたところ、コウヤマキに出会えました。
 上図の「表門」をくぐってすぐのところ、「神厩舎(本物の白い馬がいる!)」の脇に立っています。
 スギの群れに見とれていた目をしっかり捉える、立派なコウヤマキですね。

 ちゃんと個別の解説もありますが、幹周データが割愛されているのが惜しい。
 しかも、市指定天然記念物にもかかわらず、日光市のサイトに記載が見当たらないのはなぜなのか……。
 東照宮に詳しいサイトをいくつか巡ってみたところ、「直径(目通)1.4メートル」との記載を発見。旧世代の解説にはこう記述されていたようです。
 2πrで計算すると約4.4メートルで、成長誤差があるかもと考えれば、幹周4.5メートルで丸めて良いかと。

 いずれも我が国固有の樹種ですが、コウヤマキはスギほど成長が早くなく、そこまで大きくならない。
 個体数自体も多くはなく、幹周4.5メートルもあれば巨樹として十分注目に値すると思います。
 寒い地域には珍しいと解説にありますが、実は宮城県北部にも「祇劫寺のコウヤマキ」等、巨樹があります。

 この「東照宮の高野槇」を見上げれば、枝葉の量も決して少なくはなく、果実(いわば「こうやまきぼっくり」)もいくつも見られる。
 きちんとメンテされ、それに応えて現在も樹勢を保っている樹という感じがします。

 ……しかし、人通りはたくさんあっても、行列が滞る以外に足を止めて見ていく人はほぼ皆無。
 というのも、横の「神厩舎」の壁面にあるのが、かの有名な「見ざる聞かざる言わざる」……「三猿」なのですね。

 あえて「三猿」の前の人混みに揉まれながら見てみたコウヤマキ。
 「三猿」を含む一連の彫刻は、人生とその機微みたいなものを暗喩していたりするのです! ……
 とか、よその会社の社員旅行に交じってガイドを拝聴する(赤背広がガイドさん)。

 樹木も文化財的建築も、その場所から動かせないので仕方がないのですが、知っておくと見どころがひとつ増えるかもしれませんよ。
 そっと耳打ちして差し上げたくなりました。

「日光東照宮の高野槇」
 栃木県日光市山内
 神厩舎の横
 推定樹齢:370年
 樹種:コウヤマキ
 樹高:38メートル
 幹周:4.5メートル

 市指定天然記念物
 とちぎの名木百選
 訪問:2023.11

探訪メモ:
 東照宮周辺の駐車場のオープンがだいたい8時前後だったりします。
 東照宮の開門(入場開始)は9時。
 夜討ち朝駆け的な奇襲作戦は通用しません。

 見るべきものを見て、しっかり楽しみ、教養を身につけましょう。
 きらびやかとしか言いようがない「陽明門」の柱は、樹木を生きている時とは逆さに据えた「逆柱」。
 建築のしきたりでは特に忌むべきものですが、あえて強力な邪を据えることで他のそれを寄せ付けない狙いがある。などなど。

 日光東照宮は、平成11(1999)年、日本で10番目の世界遺産として登録されたそうです。
 つまり、中坊の私が修学旅行で訪れた当時、あるいは糸井サンが大穴を掘っ繰り返してらした当時(1990年らしい)には、まだ世界遺産じゃなかったのですね。
 いわゆる徳川埋蔵金は360万両くらいと言われていて、1両は現代では4~13万円くらい? つまり1440~4680億円くらい!?
 ……案外少ないな。東京オリンピックできないじゃないですか。

 それはともかく、単に風景っぽく立つこのスギもかなり立派です。
 幹周6~7メートルはあるはず。
 コウヤマキと比べると樹皮や枝の少なさに老いを感じますが、参拝客の波に洗われながらよく今まで立ってきたものです。

 ここも、すぐ脇の薬師堂に有名な「鳴龍」の天井画があり、それ目当ての人々が続々と通りすぎていく場所です。
 龍の顔の下でだけ、拍子木がキーン! と異様な反響をするという神秘は確かにおもしろい。
 あと、ここで売っているお線香「鳴龍」を買ってみましたが、いかにもトクガワっぽいというか、派手な、スパイシーな香りでしたね。

 東照宮本殿へ参拝後、有名な「眠り猫」の彫刻(ちっちゃい)をくぐって奥の院まで行くことも可能ですが、すでに竹下通り並みの人出です。
 竹下通りには行ったことがありませんが、思わず引き下がってしまいました(要するに人混みが苦手)。
 奥の院には、ウロに願いごとをすると叶うという「叶杉」も立っているそうです。ご興味ある方はぜひ。

 巨杉の姿を追いながら西側にある「二荒山(ふたらさん)神社」まで来ました。
 ここにも立派なスギが多く、連理した「夫婦杉」「親子杉」、拝殿近くの神木「三本杉」など、こまめに名前が付けられているのが特徴的。
 それぞれ3~5メートルくらいの幹周はありそうですが、巨樹として見た時、面白いと感じたのは、こちらのスギ。

 数あるスギの中でも、太い方に数えられる一本だと思います。
 根張りも大きめ、幹周囲で言えば目測で5……いや、7メートルくらいあるかもしれない。

 途中から横方向に長々と伸びている枝がありますが、なんだか異質です。
 葉がスギのものではないぞ。これは広葉樹だ。
 そう、ウロに着生して大きくなったらしきナラの着生樹だそうです。
 このタイプの異種合体樹は、刺激的な見た目の茨城県「鹿島神社のやどり木」を思い出しますが、シイやサクラの例は複数見たものの、ナラは初めてでした。珍しい例なのではないでしょうか。

 二荒山神社の鳥居をくぐって、神門へと至る道沿いにあります。
 この角度からしか観察できませんが、照明がつけられていて、立て札には「縁結びの御神木」とあります。
 「好きなら一緒に」ともある。
 すきならいっしょに……スギ、ナラいっしょに……好きならばと一緒になりました……

 なぜかちょっと恥ずかしくなってしまった。
 この樹を由縁としたものか、近くには「むすび大黒天」や「良い縁の打ち出の小づち」などが配置され、縁結びのパワースポット的に積極アピール中のようでした。
 東照宮に比べて、少し軽……もとい、親しみやすいのが二荒山神社と言えそうですね。

「縁結びの御神木」
 栃木県日光市山内
 日光二荒山神社
 推定樹齢:不明
 樹種:スギ/ナラ
 樹高:30メートル(目測)
 幹周:6メートル(目測)

 訪問:2023.11

 というわけで、詳細な調査とは呼べないものの、日光東照宮の巨樹の雰囲気だけは味わうことができました。
 中禅寺湖方面はいっそう自然豊かで、機会があればそちらへも踏み込んでみたいですね。

 さて、巨樹好きとしては、むしろこれからが本題です。
 車を取り戻し、国指定特別天然記念物「日光杉並木街道」へと向かってみました。

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