巨樹たち

山形県新庄市「志津のイタヤカエデ(角沢のイタヤカエデ)」

東北一のイタヤカエデ

 世にも奇妙な「万年杉」を訪ねた後、新庄市に入りつつ、県道36号を数キロ北上しました。
 新田川の手前で道が丁字路になるので、左へ。まもなく「清水公民館」があります。
 道は細くなりますが、100メートルほど進むと、田んぼに行き当たる手前で、左手に清水が湧いているのが見えます。

 これがその名も「清水の清水」で、「里の名水・やまがた百選」にも選ばれている湧水だそうです。
 (調べていくうち、「清水」で「しず」と読むらしいと知りました。転じて「志津」となったようで、最寄バス停も「志津」表記。)

 たいへん水量が多く、冷たい。
 9月下旬だというのに30℃超の酷暑……手や顔を洗い、一口飲んでみるとすっきりとおいしく、二口、三口とおかわりしてしまう名水でした。
 実際、水汲みに来る人が絶えないらしく、少し先に小さな公園を併設した広場があり、車を停めておけます。
 いやあ、思いがけない名水との出会い、大満足でした。

 ……と、清水のために来たとしても何ら不満はないのですが、巨樹。
 この先に全国有数のイタヤカエデがあるというのです。
 これもぜひ見なければ(それはそうだ)。

 先ほどの「清水の清水」から道を少し戻り、右手の脇道を入る。
 農家さんの間のゆるい坂道を登っていき、道がなくなるまで行きます。

 草むらと自家菜園の畑があり、その奥をじっと見ていると、他と異なる黒々とした太い幹を判別できるようになります。

 踏み分け道を進んでいき、到達。
 おそらく同年代と見られる二本が樹冠をひとつにして立つ、「志津のイタヤカエデ」。
 幹周3メートル台後半と見当する個体(写真手前)と、幹周5.6メートルと記録されているさらに太い個体(写真奥)。
 もちろん「東北一」だというのはこの太い方ですが、すでにその迫力に異論が出て来ません。
 たしかに、こんなカエデは見たことがない。

 藪に埋もれているのかと懸念していましたが、周囲はきれいに手入れされている。
 このイタヤカエデが特別だということを意識し、現地の方が世話を焼いてくれているのに違いありません。
 おかげでこの堂々とした巨樹ぶりを堪能できる。まことにありがたいことです。

 二樹とも見事な幹で、一見するとケヤキの巨樹のようですらあります。
 しかし、カメラの自動感度が上がってしまうくらい薄暗い木陰で見上げれば、そこには確かに、独特なカットが入ったカエデの葉の天幕がある。
 季節がくれば黄色に色づくはずで、さぞかし見ごたえがあるでしょう。
 見ていればいるほど良さが実感される、そんな巨樹。

 根本には、かつては自立していたとおぼしき標柱が。
 別名「角沢のイタヤカエデ」の表記とともに、「日本六位」「東北最大 幹周り五・六米(おそらく)の表記。
 全体的な迫力のせいなのか、ゴツゴツした凹凸によるものか……実測はしていませんが、数値よりもっと太いようにも見えました。

 新庄市のサイト記事によれば、こちらの太い方のカエデは緑、隣のカエデは赤い葉をつけると言われているそうです。

 吊り下げ型の標識だったり、真ん中から水が噴き出す路面だったり、道を走っているだけでも豪雪地帯だとわかる土地柄。
 イタヤカエデは北海道が本場の北方樹種ですから、むしろ胸を張って巨樹にまで育っているようでもあります。
 広葉樹が好きなら、わざわざ遠方からでも見に来る価値のある二樹だと思います。

「志津のイタヤカエデ(角沢のイタヤカエデ)」
 山形県新庄市角沢510
 推定樹齢:不明
 樹種:イタヤカエデ
 樹高:25メートル
 幹周:5.6メートル(大きい方の樹)

 訪問:2023.9

探訪メモ:
 清水はともかく、カエデを訪ねる人は珍しいのかなと。くれぐれも畑などを踏み荒らさないように。

 また少し先に進むと、「大坪のヒメグルミ」という、幹周4メートルほどのクルミの巨樹があるそうです。
 うーん、マニア好み(日が傾いて、今回の訪問では割愛)。

 秋の巨樹巡りなら、同じく新庄市の「福鐘稲荷のイロハモミジ」の紅葉も見ごたえが凄そう。

 イタヤカエデなら、
宮城県「定義如来のイタヤカエデ」もどうぞ。
 アクセスしやすく、おまけに紅葉(黄葉)の名所です。

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