巨樹たち 山形県鶴岡市「羽黒山の爺スギとスギ並木」 / 4 コメント 修験の霊山に根付く大杉 山形県内陸部。羽黒山、月山、湯殿山から構成され、現在でも修験道の霊山として信仰されている出羽三山。 おそらく他地方の方でも名称程度なら知っておられると思いますが、「三山」と聞くと、「山」の字形のごとく、険しい山が三つ連なっているさまを想像しそうです。 が、実際はそうではなく、月山(標高1984m)、湯殿山(標高1500m)に比べ、羽黒山(標高414m)と、こんなバランスなんですね。実際、羽黒山は主峰・月山の西方に付属する「丘陵」という扱いとのこと。 月山と湯殿山が登山と呼べるのに対し(特に湯殿山は登山道が無いと書いてある)、羽黒山山頂へは階段で行けます。 ……ただし、2446段。 信仰の地に巨樹ありで、羽黒山にある数々のスギは有名です。 まず、正門に当たる「随神門」に進んでいくと、手前にある合体杉(夫婦杉?)が出迎えてくれます。 誰も注目していないようですが、双方4メートル近くはありそうな樹が合体しているボリュームはなかなかのもの。 しかし、このご時世にあっても、立ち止まれないほど人がおり、スギにカメラを向けると誰かしらと目が合ってしまって、撮影には苦労します。 「随神門」をくぐるとすぐに下りの長い石段が続く。 両側に樹高4、50メートルはありそうな立派な杉並木。 これが「羽黒山のスギ並木」で、栃木県「日光杉並木街道」と並んで国の特別天然記念物に指定されています。 確かに、ここを歩いていると、自分が霊場に足を踏み入れているのだという実感が湧いてきます。 ……ただし、あえて書きますが、ここでも行く人戻る人でごった返しは必至で、好きな場所で立ち止まって写真を撮ることはまず不可能なのが残念。……高校か大学か、部活動のトレーニングなのか、走って上り下りするジャージ人たち、やめて頂きたい。危ない。 ……と、幻滅しそうですが、それでなお荘厳な雰囲気を味わわせてもらえるところはさすがです。 明け方など、人が少ない静かな時間に歩けたなら、いっそう良いだろうと思いますね。 無数のお社が立ち並ぶ中、お賽銭が足りないので、自分に関わりが深そうな神様にお詣りをしつつ進みます。 (鳥居ではなく)「門」をくぐり、「神社」に参詣している。 そして、羽黒山の巨樹の主役である「爺(じじ)スギ」に対面するすぐ横には五重塔がある。 神仏習合、修験道の信仰の中にいることに気づかされます。 周囲にも高い杉が林立していますが、やはり「爺スギ」の放つ雰囲気は特別なもの。誰もが足を止め、もっとよく見ようと近づいていきます。それ自体が社殿や五重塔と同じ存在として扱われている。 雪の多い地域にありながら、その身はひたすらまっすぐ天を突く。 周囲の杉も同じくらい高いからというのもあるでしょうが、御神木として、真っ直ぐに立つことを運命づけられたスギという印象を受けました。 東北の荒ぶる巨杉を見続けたせいか、驚くような巨大さではないんだな……という感想を持ちます。 じっと立っている。枝張りも面積も少なく、修行のために一切無駄な肉が削ぎ落とされた僧のような印象。背後に五重塔が見えるせいもあるでしょうか。 雪の時期に来ると、そんな印象はまた一層深まると思います。 やはり多くの参拝客の方々が連なり、落ち着いて長時間……という感じではありません。 一眼レフで撮っていると、さも「玄人のベストアングルはあそこだ!」みたいに思うらしく、順番待ちが発生してしまうという。笑 解説板もありますが、ちゃんと撮れませんでしたので、内容を書きます。 羽黒山の爺スギ(はぐろさんのじじすぎ) 国天然記念物 S26(1951).6.9指定 樹齢推定1000年以上・根周り10.5m・幹囲8.25m 羽黒山で最大最古の巨木。付近に婆スギがあったが明治35年(1902)の暴風に倒れる。 「婆スギ」が隣にあったのかどうかは解説からは不明ですが、東北に多い双塔型の夫婦杉だったのかも。 健在だったなら福島県小野町の「諏訪神社の翁スギ媼スギ」と並ぶような壮観だったかもしれません。 並木からは外れていますが、爺スギ単独で国指定天然記念物に指定されています。 数年前、日本海側からこのルートを通った時には、連休中でごった返し、訪問を諦めた経緯があります。 今回、改めて訪ねることができてよかった。 やはりいつか訪ねずにはいられない場所だったと言えましょう。 「羽黒山の爺スギ」 山形県鶴岡市羽黒町手向手向7 推定樹齢:1000年 樹種:スギ 樹高:30メートル 幹周:8.2メートル 国指定天然記念物 ※「羽黒山の杉並木」は 国指定特別天然記念物 訪問:2020.9 探訪メモ: 実は羽黒山頂までは車でも行くことができます。 しかし、階段をゼイゼイ登ってくる人を見ると、すごく爽やかで、ああ自分もさぼらずに登れば良かったなあ……という気分に。笑 いつか登ります。いつか。 特別天然記念物のスギ並木以外にも、大きさだけで言えば同じくらいのものは無数にある羽黒山。 山頂の三山神社(三山の神を一緒に祀っている神社)の周囲のスギも大変立派です。 階段を登ってもいないくせに、やたらお腹がすき、玉コン。 するめのダシがきいててうまい。 関連
to-fu 2020年10月21日 at 7:46 AM 返信 門前の杉を見て、これが爺杉か?なんて勘違いしてしまいそうです。スタート地点からこれとはテンション上がりますね。それにしても爺杉。東北の山中にもこんなスタンダードな巨杉が存在するのだなと、普段山奥でウラスギと対峙するのとは真逆の意味で驚きました。本来我々の想像する巨杉とはまさにこれなんですが… それにしてもこのストイックな参道。近畿圏の神様仏様に対する信仰心とはまた種類が違うように感じます。自然そのものを崇拝しているかのような。北陸の白山信仰やあの四国の剣山と同じで、厳しい自然環境というのはそれだけで畏怖の対象となるのでしょうね。これだけ重々しい雰囲気を持つ神社だけに人の多さが残念でにも思えますけど、今はただ世の中に活気が戻りつつあるこの光景を喜ぶべきなのかもしれません。我々にも言えることですが一時は出かける気力もないくらい心身ともに疲弊してましたからね…
狛 2020年10月21日 at 3:45 PM 返信 to-fuさん> 大きさという点で言えば、この門前の杉も含めてアベレージが非常に高く、地上1.3mの幹周で……なんて集計していたら大変なことになるでしょう。 おそらく大きな杉に対する古来からの理想の姿が、このような直線的な表杉形状なのであろうと思います。 その点で、爺杉は、まるで羽黒山の杉全体におけるお手本のような存在のようです。 すべからく全ての杉が爺杉のごとくになるのだ……というように。 山岳という地形を活かした修行の場であったわけで、低い羽黒山はその玄関口あるいは事務所のような存在だったのだなと感じました。 月山や湯殿山に登れないような人でも、その雰囲気とご利益を何割かいただけるというような。 そういう意味では、今、羽黒山に多くの参拝客が来られるのは当然でもあるわけですね。確かに、そう復興してきたのはいいことだと言えるかもしれません。 神と仏が入り混じり、入ったり出たりする日本の信仰の歴史は難しくも興味深いです。 巨樹はそれを通しで見てきた。ここまでよくぞ生き延びてくれたと言いたいです。
RYO-JI 2020年10月23日 at 8:45 PM 返信 出羽三山、関西人の私でもその名称は耳にしたことがあります。 しかし山深いイメージのある東北においてその羽黒山の標高がたったそれだけとは驚きです。 それでもさすがは修験の霊山だけあって羽黒山も知っていますとも。 単幹の特天はもちろん憧れの的ですが、杉並木としてその存在が指定されているのは余程のことでしょう。 仮にこの爺スギが無くとも、是が非でも見ておきたいと思わずにはいられませんね。 想像するに、こちらの室生寺の奥の院に向かう階段沿いの杉並木を何倍も凄くした感じ・・・あぁ想像できません(笑)。 爺スギも東北のイメージを覆すような美しい樹形をしていますね。 狛さんの「御神木として、真っ直ぐに立つことを運命づけられたスギ」という表現に大いに納得させられました。 学生のトレーニングコース?になっているのは、いくら何でもそりゃないだろうと思ってしまいますね。 これは学生が悪いというより、コーチ?顧問?の責任であってすぐにでも止めて欲しいと思いました。 まぁこの偉大な爺スギさんは、そんなことは些細なことであって全然気にもしていないかもしれませんが。
狛 2020年10月24日 at 3:14 PM 返信 RYO-JIさん> 合宿とか遠征がようやく再開されたのか、活きのいい連中がおりました。 「コンチワー」とか挨拶してくれたりするんですが、いや、そこじゃないだろと。笑 出羽三山の名前くらいは関東人の僕でも知っていましたが、羽黒山だけ低いというのは今回初めて知りました。行ってみるものですね。 特別天然記念物というのは、その信仰の地としての重要さも加味されているのではないかと思います。 並木自体は室生寺の方が深く長いですし、杉の規模は同じくらいかと思いますね。 室生寺のような個性豊かな杉が見られるようなところはないので、僕個人としては室生寺の方が興奮したかも……笑 「天然」記念物指定というものはわかりそうでわからない基準で決められてますね。 爺杉は巨大さよりも静けさの印象を受ける巨樹でした。 ものすごく多くの人の目に触れる巨樹ですが、修験の信仰の象徴として立っているようにも見えました。
4件のコメント
to-fu
門前の杉を見て、これが爺杉か?なんて勘違いしてしまいそうです。スタート地点からこれとはテンション上がりますね。それにしても爺杉。東北の山中にもこんなスタンダードな巨杉が存在するのだなと、普段山奥でウラスギと対峙するのとは真逆の意味で驚きました。本来我々の想像する巨杉とはまさにこれなんですが…
それにしてもこのストイックな参道。近畿圏の神様仏様に対する信仰心とはまた種類が違うように感じます。自然そのものを崇拝しているかのような。北陸の白山信仰やあの四国の剣山と同じで、厳しい自然環境というのはそれだけで畏怖の対象となるのでしょうね。これだけ重々しい雰囲気を持つ神社だけに人の多さが残念でにも思えますけど、今はただ世の中に活気が戻りつつあるこの光景を喜ぶべきなのかもしれません。我々にも言えることですが一時は出かける気力もないくらい心身ともに疲弊してましたからね…
狛
to-fuさん>
大きさという点で言えば、この門前の杉も含めてアベレージが非常に高く、地上1.3mの幹周で……なんて集計していたら大変なことになるでしょう。
おそらく大きな杉に対する古来からの理想の姿が、このような直線的な表杉形状なのであろうと思います。
その点で、爺杉は、まるで羽黒山の杉全体におけるお手本のような存在のようです。
すべからく全ての杉が爺杉のごとくになるのだ……というように。
山岳という地形を活かした修行の場であったわけで、低い羽黒山はその玄関口あるいは事務所のような存在だったのだなと感じました。
月山や湯殿山に登れないような人でも、その雰囲気とご利益を何割かいただけるというような。
そういう意味では、今、羽黒山に多くの参拝客が来られるのは当然でもあるわけですね。確かに、そう復興してきたのはいいことだと言えるかもしれません。
神と仏が入り混じり、入ったり出たりする日本の信仰の歴史は難しくも興味深いです。
巨樹はそれを通しで見てきた。ここまでよくぞ生き延びてくれたと言いたいです。
RYO-JI
出羽三山、関西人の私でもその名称は耳にしたことがあります。
しかし山深いイメージのある東北においてその羽黒山の標高がたったそれだけとは驚きです。
それでもさすがは修験の霊山だけあって羽黒山も知っていますとも。
単幹の特天はもちろん憧れの的ですが、杉並木としてその存在が指定されているのは余程のことでしょう。
仮にこの爺スギが無くとも、是が非でも見ておきたいと思わずにはいられませんね。
想像するに、こちらの室生寺の奥の院に向かう階段沿いの杉並木を何倍も凄くした感じ・・・あぁ想像できません(笑)。
爺スギも東北のイメージを覆すような美しい樹形をしていますね。
狛さんの「御神木として、真っ直ぐに立つことを運命づけられたスギ」という表現に大いに納得させられました。
学生のトレーニングコース?になっているのは、いくら何でもそりゃないだろうと思ってしまいますね。
これは学生が悪いというより、コーチ?顧問?の責任であってすぐにでも止めて欲しいと思いました。
まぁこの偉大な爺スギさんは、そんなことは些細なことであって全然気にもしていないかもしれませんが。
狛
RYO-JIさん>
合宿とか遠征がようやく再開されたのか、活きのいい連中がおりました。
「コンチワー」とか挨拶してくれたりするんですが、いや、そこじゃないだろと。笑
出羽三山の名前くらいは関東人の僕でも知っていましたが、羽黒山だけ低いというのは今回初めて知りました。行ってみるものですね。
特別天然記念物というのは、その信仰の地としての重要さも加味されているのではないかと思います。
並木自体は室生寺の方が深く長いですし、杉の規模は同じくらいかと思いますね。
室生寺のような個性豊かな杉が見られるようなところはないので、僕個人としては室生寺の方が興奮したかも……笑
「天然」記念物指定というものはわかりそうでわからない基準で決められてますね。
爺杉は巨大さよりも静けさの印象を受ける巨樹でした。
ものすごく多くの人の目に触れる巨樹ですが、修験の信仰の象徴として立っているようにも見えました。