巨樹たち

宮城県仙台市「東昌寺のマルミガヤ」

伊達政宗公お手植え伝承のカヤ

 東昌寺は、伊達家の菩提寺。
 伊達家で思い浮かぶのはもちろん伊達政宗公ですが、彼が仙台藩初代となるより300年以上も前、伊達家の四世である伊達政依(だて よりまさ)が建立した最も古い菩提寺だそうです(ちなみに政宗は十七世に数えらえる)。

 前回紹介した「東昌寺のアカマツ」から徒歩で1分ばかり進むと、同じくらい背の高いカヤが見えてきます。
 これが「東昌寺のマルミガヤ」。
 知名度のある樹で、多くの書籍にも掲載されています。なにしろ国指定天然記念物。
 しかし、実物を前にして、とりわけ衝撃を受ける巨樹ではないな……と、ある意味で予想通りの、確認のような感想を抱きました。

 国指定天然記念物の評価は難しい。巨樹巡りを重ねるにしたがって痛感します。
 純粋にもの凄い巨樹(1)がある一方で、一見してわからない学術的な希少さや差異のある個体(2)や、歴史エピソードや所属組織の権威が理由になっているもの(3)の率が高いのも、がぜん国天。
 この「東昌寺のマルミガヤ」は(2)と(3)を掛け持ちするタイプでしょう。
 純粋巨樹(1)としての見比べでは、とても上位にはこない。きれいに掃除されているとはいえ周囲は墓地、目の前にごみ集積場もあり、ぱっと見、先のアカマツよりオーラがない。
 確かにマルミガヤは珍しいけれど、その珍しさのため天然記念物指定されるせいか、東北ではすでに見慣れてしまっている。

 ただ、ここで立ち去ってしまっては勿体ない。
 撮りながら、我々愛好家は可能な限りリーディングしてみねばなりません。巨樹本体に秘められた「文」を。
 まあ、それでも時々、なんでこれが国天なのかまるでわかんない(4)のもあるんですが……このマルミガヤの場合、けっこう「読める」予感がしました。

 (3)だと分類しましたが、「伊達政宗が仙台城の鬼門封じの意味を込めてここに植えた」とされている。
 エピソードとしては「空海さんの超能力が炸裂!」の四分の一くらいの地味さですが、仙台で暮らしていると、
 (政宗公がやりそうなことだ……)
 などと、妙に腑に落ちるところがあります。
 加えて、非常時に食糧や油にできるカヤとくる。うむ、いかにもすぎます。
 (ちなみに、お寺のHPでは「真偽は定かでない」ともあり、推定樹齢と合わないのもそこかも。)

 考えつつ撮っていると、よく鳴く小鳥(ジョウビタキ?)たちがしきりに頭上を飛び回る。
 この天幕のような樹冠を棲み処のひとつとしているようで、「家宅侵入だぞ!」とでも咎めているようです。
 ああ、すまんすまん。そう謝りつつも悪い気はしません。

 二本が癒着しているかのような幹姿をしていますが、逆で、双幹の一樹が真っ二つに引き裂かれつつある。
 倒壊を防ぐため、上部で幹同士をベルトでつなぐという力業の処置が施されています。
 お寺のホームページに処置工事が記録されていますが、非常に興味深い。

 この「読む巨樹」の起であり結は、福島県「万正寺の大カヤ」にあると思います。
 幹周日本一のあの大カヤこそ、ここ東昌寺よりさらにさかのぼる伊達家初代の足跡を刻む巨樹とされています。
 ここまで来ればおのずと気づく。宮城県界隈でカヤ巨樹を巡るたび、同時に伊達家の歴史をも巡っていたのではないか、と。
 この「東昌寺のマルミガヤ」も、その全体図の中で欠かすことのできないチェックポイントだったのだと。

「東昌寺のマルミガヤ」
 宮城県仙台市青葉区青葉町8−1
 推定樹齢:500年
 樹種:マルミガヤ
 樹高:17.5メートル
 幹周:5.3メートル

 国指定天然記念物
 訪問:2024.2

探訪メモ:
 お寺の駐車場もありますが、鉄道と徒歩での訪問が良さそう。
 北側から訪問した場合、ひょっとしたら見落とすかもしれませんが、東昌寺本堂の方へ向かえば、とても見事なアカマツが立っています。
 伊達政宗公を祀る青葉神社も隣にあります。

4件のコメント

  • RYO-JI

    さすが伊達政宗公の名前が頻繁に出てくるのは宮城県ならでは。
    寿命が長く歴史を見てきた巨樹たちと地元の英雄たちとのエピソードが多いのは当然と言えば当然のことですね。
    空海サンの超人的な力技よりははるかに地味とは言え、むしろ真実味が増すとも。
    あとすごく印象に残ったのは、まるで鏡に映ったかのように見えるシンメトリーな姿。
    作り物ではなくそれが自然の姿だと意識すると、鬼門封じとした政宗公の意思がいまなお宿っているようにさえ感じます。
    処置工事の様子もとても興味深く、こういうのは他の巨樹ももっと公表して欲しいなぁと思います。
    あとバス停のような丸い看板がやけに場違いで面白いです(笑)。

    • RYO-JIさん
      はっきり全国区の知名度だと言える伊達政宗公はやっぱり大物ですね。
      歴史好きでも巨樹同士の関連まで注目する方は少ないのかもしれませんが、伊達家とカヤ巨樹巡りはなかなか含蓄あると感じました。
      そう、この丸形看板が仙台市保存樹木の証なので、散歩中にこれを見つけたらとりあえず注目。巨樹愛好家の停留所ですね。笑

      確かに、このシンメトリーな双幹は記憶に残る姿です。そこまで大きくはないな……とは思いつつも、この姿だけは記憶にありました。
      この姿が損なわれてしまうのは惜しいですし、そうなってしまっては樹体自体のダメージも相当なもののはず。この処置も互いにバランスが良かったから成立したのかもしれません。
      維持管理の工夫と尽力から、どれほど大切に思われている巨樹かも伝わります。
      地元の歴史へのリスペクトと一体化して今も存在しているのだとしっかり実感できました。

  • to-fu

    こちらでは鬼門にクスを植えてあるのをチラホラ見かけますが、カヤが来るところが東北らしいですね。
    マルミガヤにヒダリマキガヤなどなど。国天指定されてはいるけど見栄え的にはあんまり、な巨樹も多いですが
    傘のように開いた樹冠が見事です。これはモノクロが映えますね。実のレア度抜きにしても撮影が
    楽しめそうな巨樹だなと感じました。(しかしゴミの集積所よ…何とかならんか)

    根元が既に空洞化して亀裂になっているようにも見えますが、何とか持ちこたえていただきたいですねえ。
    それこそ長いことベルトで固定しておいたら癒着して空洞を埋めてくれるといいのですが。

    • to-fuさん
      鬼門をおさえる巨樹。やはり長寿でどっしりと構えてくれる樹種だと安心感があるでしょうね。
      数多くはなさそうですが、どんな樹種があるか意識してみると面白そう。モッコクとかだったらびっくりしますよね。
      もしかすると、このカヤを出発点に伊達家が菩提寺などにマルミガヤを広めていったんじゃないかな……などとも。根拠はありませんが、想像が湧きました。
      「殿、御植樹にあたっては、なにとぞこの実ひときわ大きく丸いと評判のカヤを」「おお、それにせい!」「ははあ、御意に」 みたいな寸劇です。

      読み込める深さのある樹ですが、現代ではほぼ周囲の風景に溶け込んでしまってますね。
      一般の方が多く通行する墓地側で、向こうのアカマツがそうとう優美なせいもあり、あまり特別感をもって見られないような……。
      ともあれ高齢なことは確かそうですし、この大胆な処置がなければ訪問より先に真っ二つになったニュースを聞くことになったかもしれません。
      そう思えば、実際にこの樹の前に立てたことに感謝したい気分になります。
      仙台の歴史を語る史跡のひとつとして、長くあり続けてほしいものですね。

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