巨樹たち

青森県三戸郡「天当平のアカマツ」

赤く燃えるうつくし松

 朝、八戸市街から30分ほど車を走らせ、三戸郡階上(はしかみ)町に来ました。
 この日は、青森に来た主目標、「巨樹巨木林の会」の観察会に参加します。
 階上町のマニア垂涎のユニークな巨樹をガイド付きで案内してもらえるとのことで、楽しみにしていました。

 と序文を書いておくのも、ここ階上町特有の事情から。  
 寺社よりも、私有地や個人宅に代々守られている巨樹が数多いのです。
 この「天当平(てんとうたい)のアカマツ」もそうで、見学には階上町の巨木ガイドに問い合わせが必要とされています。

 所在は、コミュニティセンター「ハートフルプラザ階上」の東側の住宅地。
 すぐ手前まで車でアクセスできるのでストリートビューにも樹冠が写っています。
 というか、周囲を囲む木々のため、樹冠を見るにはここまで引くしかない。

 階段から木立の中に入っていくと、早々、絶対に見間違いようのない姿が現れます。

 なんだか、アフリカに生育する有名なアロエディコトマの樹みたいだ……
 と同時に、張りを感じさせる樹皮の質感はまるで恐竜、さらにその群れをも想像させました。
 アカマツとしては青森県内でも最大級とのこと。
 それはそうだろうと納得させられてしまう迫力があります。

 扇状に近く、正面と側面がある樹形です。
 「ベストポジションはここだ! ここから撮れ!」とカメラマンに主張してくる巨樹だとも言えますね。

 幹周3.8メートル、樹高22メートル。
 青森で現在もアカマツ(南部赤松)の林や巨樹が見られるのは、マツノザイセンチュウ被害が本格上陸していない証拠。
 南部赤松は昔から陶芸窯の薪に最適とされてきたそうです。完全に燃えて灰しか残らない上、独特な風合いを与え、現在でも県の誇りとされている。

 言ってしまえば、線虫がダメにしなくても人に切られるのがマツ巨樹であり、材木にも薪燃料にもされず、これほどのマツが残ってきたとは驚きです。
 明治の神社合祀令における青森への影響も気になりましたが、このアカマツに関しては、ひとつ、明確な「こたえ」があります。

 それが、青森県巨樹を語る上で不可欠な要素、「三頭木」です。
 古来、三又に分岐した樹は神の樹とされており、人々から尊崇され、切ることはタブーとされてきたのです。
 この「天当平のアカマツ」も、末端でこそかなりの本数に見えるものの、最初の大枝の分岐は確かに三又。
 ガイド先生によれば、この三頭木思想のルーツはシヴァ神の三又槍にまでさかのぼるそうです。※1

 「三頭木」というキーワードには実際この後も幾度か直面しました。
 ふと、(四又以上の巨樹は尊ばれなかったのか?)と浮かびましたが……ああ、訊いてみればよかった。

 躍動感あふれるこの樹形に夕陽が差すと、まるで火焔が燃え上がるように見えるそうです。
 たしかに。その絵を撮ってみたいものです。
 このような威容を指して「うつくし松」という言葉もあり、北東北の巨樹を巡る楽しみがまた増えました。

「天当平のアカマツ」
 青森県三戸郡階上町道仏天当
 推定樹齢:250年
 樹種:アカマツ
 樹高:22.2メートル
 幹周:3.8メートル

 訪問:2023.10
 ※ガイドが必要。

探訪メモ:
 駐車場はありません。
 個人所有の巨樹であり、階上町のサイトにも「巨木ガイドが必要」とあります。
 探訪前に階上町役場産業振興課(0178-88-2111)に連絡を。

この旅の様子は「2023年・青森県東部巨樹探訪3」でどうぞ。

※1
 シヴァ神ルーツは、実際、寺院で普及している解釈のようです。

 中高生の頃、「真・女神転生 デビルサマナー」かなんかに膨大な時間を費やした筆者の脳は、「シヴァ神の三又槍」と聞いて即座に、「ピナーカか!」と反応しました(武器アイテムで出てくる)。
 が、今回、三頭木と三又槍に関して少し調べたところ、

 ・シヴァ神の持つ三又槍は「トリシューラ」という。
 ・「一部のゲームではシヴァの三叉戟がピナカまたはピナーカ(Pinaka)と書かれていることがあるがこれは間違いで、ピナーカは弓の名前である。

 ……と、Wikipediaにあっさり覆されました。
 ン十年ぶりに記憶が更新されるとは。それもこんな思いもよらぬ方面から……ちょっと衝撃でした。

2件のコメント

  • to-fu

    これは!!
    例のブナの木で興味を持って三頭木の風習について調べていたときにこのアカマツの存在を知りました。
    東北巨木調査研究会のサイトだと「火炎の松」なんて紹介されてたような。名付けたのはきっとゲーマーだな 笑

    マニアによると三又の木に神が宿る説には仏教、修験、神道、史実として切り倒すと悪いことが起きた…などなど
    色々な説が絡み合っていて、結局のところどれが発祥なのかは確認ができなかったということです。

    ああ、この巨樹ガイド必須なんですねえ。
    撮影に時間をかけまくる私はつい避けがちですが、専門家の説明を聞きながら眺めるというのもオツなものですね。
    好き勝手回りたければ改めてソロで来たらいいわけで、積極的に参加してみると新しい世界が広がりそうです。

    しかしこれ三頭どころかヤマタノオロチ的な迫力ではありませんか。
    このアカマツを見られるというだけで巨樹巨木会に参加する価値がありそう。
    (しかし無料の高速がありましたか…馬鹿正直にお金まき散らして有料の方を突っ走ってしまったことを後悔。)

    • to-fuさん
      三頭木つながりでこのマツを知っておられたとはさすが!
      実は、この日のガイド先生が東北巨木調査会の方で、しかも「火炎の松と呼んでるのは私なんですけどもね笑」とおっしゃってました。
      自分のようなゲーム脳にはもちろんたやすく記憶されましたが、同時にこのアカマツの存在感、ゲームの中のランドマークとしてまんま登場させたとしても十分通用しそうです。
      樹皮の感じがまたドラゴンっぽくてカッコいい。この質感、厳めしさはマツ巨樹の特権ですね。

      神仏習合にせよ、その広がり方と深まり方は地方によって違うのだろうと思いますが、青森はまたちょっと独自路線な感じがする上、古い時代に形成されたものが割とそのまま残されているような気配を感じますね。
      巨樹も変わりモノが多いし、探れば奥が深そうで、専門家の解説を聞けてよかったです。
      歳のせいか、「学ぶ」ということの面白さがやけに身に染みる時があるんですよねえ。笑

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