巨樹たち

山形県最上郡「高坂の大カツラ」

潜伏上手な全国第四位の巨大カツラ

 山形県の最北辺をなす真室川町、北へ抜ければもはや秋田県です。
 最上・真室川方面にはデータを見ているだけで居ても立っても居られなくなるような巨樹が多数存在しているのですが、山の深さは尋常ではない。
 レクリエーション気分で踏み込むべきではないな……と、結局バツ印をつけていくことになります。

 けれども、見たい。なんとかこのゾーンに取っ掛かりを見つけておきたい。
 そういう時にありがたい立地、そして何よりインパクト十二分な大カツラがありました。
 それが「高坂(たかさか)の大カツラ」です。

 この地域には特に全国トップレベルの巨大カツラが複数存在していますが、どれも登山か探検を必要とする。
 冬はスキーしないとダメだし、他の季節はハチ、アブ、ヒル、マムシ、クマと、強敵が待ち構えています。
 ルートを見失うとか、斜面から滑落する危険もあるし……。

 その点、「高坂のカツラ」のアクセスはなんとちょろいことでしょうか。
 「高坂ダム」を目指し、標識に従って林道へと進めば良く、この林道も、少なくともカツラまではちゃんと舗装されたおもてなし林道です。
 入口からわずか数十メートルの地点で、写真のような標識がある。
 おわかりでしょうか、矢印が斜め上を向いていますね。

 指された崖上を仰ぎ見た瞬間、衝撃が走ります。
 この異様に巨大な……例えるなら、山中に不時着したエイリアンの宇宙船を発見したかのような存在感!
 自分で言っててわけわかりませんが、駆け寄って観察を試みます。

 い、いやー、こりゃあ……なんというでかい樹でしょうか!
 写真で伝達が難しいのはわかっていて文章で書きますが、おそろしい巨大さです。
 株立ちであることは自明。
 ですが、塊として扱っても、あまりにも大きい。
 これだけの木々の中にありながら全く埋もれもしない……「樹を隠すには森」とよく言いますが、隠しようもない。

 しかし、じたばた近寄っても崖下まで。
 高さにしておよそ7、8メートルはあろうかという、ほぼ垂直の斜面が立ちはだかります。
 「ちょろい」と書いてしまったというのに、ここで見て終わりなのか? そういう、いけずなカツラなのか?

 と思った時、……え? これ、トラロープ?
 汚れてヨレヨレですが、カツラのすぐ隣の別種の樹に縛り付けられていることが判明。
 それが意味するところはつまり……

 泣いたり笑ったりだな、おい。
 ということで、ごらんの有様と相成ったわけでございます。
 FPSみたいですね……。

 いや、これは危ない。
 誰がいつ設置したかわからないくそロープがブチッ! と行くかもしれないし、そうすりゃ真っ逆さまです。
 「滝の沢の一本杉(お化け杉)」の泥林道アタック同様、自己責任なのは当たり前ですが、決しておすすめしません!
 これを読んでチャレンジして怪我されても、当方は責任を取れないとはっきり宣言しておきます。

 なんとか登り切りましたが、急斜面で狭く、まともに立つのも難しい。
 秋でも藪があり、どこに穴があるかわからないので、結局自由には動き回れませんでした。

 同じレベルに立って大カツラの全体像を捉えることは不可能。
 近すぎる上、ビルのように巨大すぎる。
 いったい自分が何のどこを撮ってるのか、まるでわからない有様。
 というか、常に別の枝やらカツラ自体に抱きついていないと危ないので、ノールックでとにかくシャッターを切ってました……。

 ひこばえが林立していますが、大きく分けて2、3の巨大な株が合体しているように見えます。
 横方向に壁のように広がっていて、カツラ巨樹によくあるアンバランスなほどの樹高はありません。

 この樹皮の白骨化具合から、かなりの高齢なのではないかと想像します。
 葉もあまり多くはなく、黄葉にも半端な時期なので、カツラ特有の甘い香りも感じられませんでした。
 派手に折れて転がっている大枝も長大で、並の樹木の幹ほども太さがある。
 それでも本体としては、それがどうかしたか? 代わりはいくらでもあるぞ、と無造作に立っているように見えます。

 さて……どうしたものか。
 他に何ができるのか……。 

 ということで、一度降りてカメラをセット、またよじ登って、かろうじてヒューマンスケールです!
 僕がどこにいるかわかるでしょうか? 笑
 これが一番太く見える角度かというと怪しいのですが、ご存じの苦難があるので、これで。

 とても実測などできる状況・形状ではないですが、記録によれば幹周囲は16メートルを超える。
 株立ちでとんでもない数値を叩き出すカツラ巨樹の中でも、少なくとも全国5位に入る大きさだそうです。
 幹周20メートルを超え日本一とされる、同じく最上の「権現山の大カツラ」の存在を暗示しているかのようなカツラです。

 この樹はずっとここにあったのに、そして奥にダムも開発されたと言うのに、長年誰も見向きもしなかったのだそうです。
 最上や真室で次々常識破りな巨樹が発見されるブームみたいなものが発生した折、ダムの所長さんが「そういえば入口のアレもデカいぞ?」と初めて気にしたそうで……。
 で、測ってみたら、全国有数の大きさ。
 嬉しくなった所長さんは、自らあの斜めを指す標識を建てたとか。

 しかし、こんなとんでもないカツラが、今でも天然記念物無指定です。
 無造作すぎる!

「高坂の大カツラ」
 山形県最上郡真室川町差首鍋
 高坂ダム入口
 推定樹齢:不明
 樹種:カツラ
 樹高:20メートル
 幹周:16.3メートル

 訪問:2019.10

探訪メモ:
 カツラのそばまでよじ登るかどうかは、度々すいません、自己責任でお願いします。
 平たく言えば、「決してマネしないでください」。
 資料本によれば、道路を50メートルほど戻ったどこかから崖上に直接アプローチできるようですよ。

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