巨樹たち

栃木県那須郡「小川屋前のマツ」

偶然出会った無名のマツ巨樹

 2026年5月。すでに夏日も出る中、栃木県を宇都宮方面へぶらぶらと。
 愛用のご飯茶碗が壊れてしまったので益子で物色して……などと、その車窓、思わず目を奪われるような大きな樹影に出くわしました。

 知らない。というか、調べてもいない。
 そもそもこの道を走っていたのは、途中で気が変わってナビを設定しなおしたために予定より早くバイパスを逸れたから。全くもって偶然の出会いでした。
 しかし、だからこそ、今これをスルーしてしまっては二度目はないかもしれない。

 急遽でしたが、少し先の農協の駐車場にイン、ATM利用風につかの間停めさせてもらって、調査することにしました。
 二、三軒先の農協から見ても、これはかなりの樹高を誇る樹だぞと、ワクワクしてしまいました。

 通過時、もちろん運転中ですから、満足に見られませんでした。
 あの高さであの姿だからと、モミかヒマラヤスギかもしれないと思ったのですが、徒歩で近づくにつれ、どちらでもないと知ります。
 これ、マツだ。驚くべきことに。

 その場でWebマップ等を検索しても何も出ない。無名の巨樹。
 とりあえず直近のバス停(商店)の名をとって「小川屋前のマツ」とでも呼びましょうか。それならば他と被らないでしょう。

 ひょろひょろと背だけ高いマツなら見かけることがありますが、これはきちんと太い。
 そして、相応の年月生きてきたと主張するかのように大きな枝を伸ばしている。

 道路から樹冠を見上げるには、ほとんどのけ反るようなポーズになる。それだけに圧倒感があります。
 ヘタなスギよりも高く、樹高30メートルくらいはあるのではないでしょうか。
 見る者を惹き付ける迫力を放っている……これも巨樹と呼ぶために必須の条件でしょう。それがこのマツには備わっていると感じます。

 ひょっとしたら、このように大きくなるタイプの変わった種類のマツなのか?
 と、葉や球果の残骸を見ましたが、自分の目には普通のクロマツのそれと区別がつきませんでした。

 じゃあクロマツ巨樹といえば……と、仙台市「満福寺の黒松」を思い出しました(いい勝負なので、ぜひ見比べてみてください)。
 あちらは幹周3.7メートル、樹高29メートルとされていましたが、「小川屋前のマツ(仮)」も劣らずと感じる。幹周3.5メートル程度あると思います。
 一概には言い難いですが、「満福寺」は推定樹齢300年とされており、「小川屋前」もそれに近い樹齢を推定されていてもおかしくなさそうですよね。

 当地の歴史を知りませんが、このマツの上背の高さは、かつて周囲に同じくらいの木立があった証ではないでしょうか。
 あるいはむかし、「小川屋」さんの屋敷にあった屋敷林の一本なのかも。
 開発されていくに従い、この一本だけが遺された。ひときわ立派なマツだから、という理由でもあったかもしれません。

 マツノザイセンチュウの猛威、震災や環境変化で名だたるマツ巨樹が次々と消えていく中で、こうした無名の巨樹がふと視界に現れたこと、とても嬉しく感じました。注目されてほしい樹です。

「小川屋前のマツ」
 栃木県那須郡那珂川町小川2556
 推定樹齢:不明
 樹種:クロマツ
 樹高:30メートル(目測)
 幹周:3.5メートル(目測)

 訪問:2026.5

探訪メモ:
バス停「小川屋前」すぐ。
商店利用しない限りは駐車場ナシなので、ご注意を。農協は裏技とお考えください。
目の前の床屋さんは創業110年とかで、これもすごい長寿ですね。

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