巨樹たち 千葉県長生郡「玉前神社のイスノキ、イヌマキ」 / 0件のコメント ひょんなことから訪問 広々とした九十九里浜と南国の空。 ただドライブするだけで楽しい千葉県長生郡を、日帰り巨樹探訪で南下していきます。 体感的にはもう夏だ……と、冷たい飲み物を買い求めたコンビニ休憩のおり、思い付きでスマホを見てみる。 と、ほんの近所に珍しい神木を擁する神社があるのに気づきました。 さっそく向かったのは、上総国一之宮・玉前(たまさき)神社。 想像よりかなり立派な神社で、それもそのはず、平安時代からこの神社があったことから、地名が「一宮町」となったという格式高さ(住所はさらに「一宮町一宮」)。 駐車場には幹周4メートル程度はあろうクスノキが林立。 東北に身をおいていると全くご無沙汰なクスノキを眺められただけでも、すでに充足感があります。 一段小高いところにある本殿を参詣。 社叢にも大きな木がたくさんありますが、よくよく見てみると、驚くべきことにこのほとんどがイヌマキです。 イヌマキも東北では見かけない樹種ですが、房総では生け垣や庭木にポピュラーです。 潮風に強く、沖縄ではかつて建材として使われていたそうですが、なかなか巨樹レベルに育つ樹種ではありません。 ところがここ玉前神社では、幹周3メートル・樹高20メートルオーバーの見事な個体が複数みられます。 この築山のようなところに茂っている大木もイヌマキ。周囲の玉砂利を裸足で巡って願掛けできるようになっています。 さて、この玉前神社のユニークな神木がこちら。 本殿向かって右手にある「玉前神社のいす」と呼ばれる樹です。 いす? そう、イスノキという樹種。 すらっとした立ち姿に青々と濃い緑を茂らせ、案外健康的な印象。 樹皮は赤みがあり、ところどころ自然と剥がれてもいる。 どこか、同じく暖地性のバクチノキ(神奈川県「早川のビランジュ」)にも似ている気がします。 幹周はかろうじて3メートルをクリアするくらいでしょうか、巨樹として決して大きいとは言えませんが、当樹種では異例の大きさのよう。 イスノキ(柞の木)はマンサク科の……マンサク科自体なじみがないんですが、紐づく種もなかなか通好みでやっぱりピンとこない……、かなり暖地性の植物のようです。 常緑広葉樹で、花も咲けば実もつける。 イスというからには椅子が作れないと困ってしまうわけなんですが、作れます。 ウバメガシと並ぶ重くて堅い材がとれ、示現流の木刀として特に選ばれて使われるそうです。 特徴の多い樹種で、別名「ひょんの木」とも呼ぶ。 これは、つややかな葉にイスノキコムネアブラムシがつくる虫こぶの穴を、笛のように吹くと「ひょん」みたいな音が鳴るという話から。 「ひょんなことから、イスノキの巨樹を訪ねて……」というこの言い回しも、ここから出ているという説があります。 綿密な検索抜きで他のイスノキの代表を思い出すとなると、伊豆半島の最南近く「八幡神社のイスノキ」が樹種唯一の国指定天然記念物で目通り幹周3.95メートルあるとのこと(Wikipedia)。 他に、書籍「宮城の巨樹・古木(河北新報社)」に載っていた東北大学医学部付属病院の敷地にある「ヒョンノキ」。 胸高直径0.5メートルとのことなので、幹周約1.5メートルくらいでしょうか。 東北大学医学部第二外科の同窓会は、この樹にちなんで「瓢木会」というそうです。 解説を読むと、この樹を「なんじゃもんじゃ」とも呼んでいるそう。 珍しい、見覚えのない種類の樹木を「なんじゃ?」と呼ぶときのあだ名のようなもので、千葉県「神崎の大クス」や神奈川県「有馬のはるにれ」など、複数存在しています。 イスノキ。大きさに圧倒されるというより、樹木に関する知識や文化性を深めてくれるという意味で、訪ねる価値を感じる樹でした。 「玉前神社のイスノキ」 千葉県長生郡一宮町一宮 玉前神社 推定樹齢:不明 樹種:イスノキ 樹高:10メートル(目測) 幹周:3メートル(目測) 訪問:2025.2 探訪メモ:国道128号から一の鳥居に進みますが、神社周囲の道は狭い一方通行なので注意。広い駐車場が神社裏側にあります。 関連