巨樹たち

福島県郡山市「大仏のケヤキ」と大ケヤキ、大エノキ

湖畔の巨樹密集ゾーン

 2024年初夏、富山県に「洞杉」を再探訪しに行く足で立ち寄った猪苗代湖南岸の巨樹めぐり。
 スケジュールの都合上、この大きな湖を一周はできませんでしたが、しかし実は、取り巻くように点在する巨樹を見出すこともできます。
 いつか改めて「猪苗代湖一周巨樹の旅」に出かけるのもさぞ爽快だろうと思っています。

 美しい湖岸風景を眺めながら走り、現地到着。
 猪苗代湖から1キロ程度、のどかなところで、こんなところに住むのもいいもんじゃないかなとちょっと思う。
 平坦な土地なので、離れた位置からもこの時期のケヤキ特有の豊かな樹冠が確認できました。

 この「大仏のケヤキ」は、猪苗代湖周辺でもひときわ幹周数値にモノを言わせられる巨樹のひとつ。
 定型的な紹介文に同福島県「高瀬の大木」とも肩を並べるという書き方をされているのにも興味を惹かれました。

 実物を見て、なるほど、と腑に落ちる。
 9.6メートルもあるという幹周囲を訝しむ気が起きないほどに、順当に太い。
 それでもあの「高瀬の大木」ほどではない……というか、あちらがもっと太いのはもちろんのこと、本当に一部の巨大ケヤキのみが帯びる、樹じゃなくて岩山か? と疑うような量感まではいまだ至っていない感じ。

 だから、樹木らしいくびれた幹姿をしているこの巨樹には「順当に」と言いたくなる。
 あえて福島県でのケヤキ巨樹で健全なものを数えるなら、「八幡のケヤキ」、「高瀬の大木」についで第3位のケヤキと言えると思います。

 子供時代、家の本棚にあった文学全集の「大佛次郎」をずっと「だいぶつじろう」だと思い込んでおり、「違うよ『おさらぎ』だよ、知らないの」と指摘される、これを一種「マウントをとられた」原体験のように記憶しているもので、この巨樹も「だいぶつ」と呼んでいいものか警戒しました。
 が、「だいぶつ」で良いようです。ルビもそう言っている。

 ここ東光寺にあるという阿弥陀如来像の通称「中地(なかじ)の大仏」が由縁のようです。
 大仏といっても外から見えるわけではないですし、東大寺のような巨大な堂があるわけでもない。
 唯一、県道からの入り口の看板にその姿が示されていますが、郡山市の観光サイトによれば「像の高さが約3mの東北地方最大の坐像」とのこと。
 中尊寺にもっと大きなのがあったような……同じくらいでしょうか。

「大仏のケヤキ」
 福島県郡山市湖南町中野堰内2488
 東光寺
 樹齢:550年
 樹種:ケヤキ
 樹高:31メートル
 幹周:9.6メートル

 県指定天然記念物
 訪問:2024.8

探訪メモ:
 県道6号から一本入ったところですが、入り口に看板があります。
 駐車場はありませんが、路肩に寄せて見させて頂きました。

 さて、ここで忘れず記しておきたい。
 さらにもうひとつ……いや、ふたつ……全て入れればみっつ? ここ一か所で、さらなる巨樹にお目にかかることができてしまいます。

 右奥に見えるのが前述の「大仏のケヤキ」ですが、本堂を取り囲むようにしてもう一本の大ケヤキ(左手奥)、大エノキ(中央手前)、そしてここではその他扱いされてしまいますが、幹周3~4メートル規模のケヤキも1本ある。

 こちらが、いわばナンバー2の大ケヤキ。
 一瞬混乱しますが、「大仏のケヤキ」が県天、こちらのケヤキは市天に指定されています。
 解説によれば「胸高直径245センチ」。円周を2πrとして求めると、幹周769.3センチになる(諸説あり、書籍「東北の巨樹・巨木」では幹周8.8メートルとある)。
 巨樹愛好者とすれば、これ一樹だけでも十分訪問に値する。
 どころか、「大仏のケヤキ」とともに、この規模のケヤキがこんなに近くに並び立つこの光景、なかなか見られないものだと思います。

 「中地の大仏」を収めているという本堂を正面に、遠景として捉えても特別太いことがわかるはずです。
 寸胴体型で、枯損の少なさの点でいえば「大仏のケヤキ」よりも若々しく見えますが、樹齢的には同じくらいかもしれない。

 さらに、ケヤキに負けじとエゾエノキの巨樹
 こちらは「胸高直径135センチ」、すなわち幹周423.9センチ。
 溶岩が滴りながら固まったかのようなかなり凸凹した幹姿で、計測位置によって数値変動があるでしょうが、大ケヤキたちに混じっても自己主張できる立派なエノキ巨樹です。
 樹高も高いし、何より、夏のエノキの青々とした樹冠がとても気持ちいい……。

 一か所で三粒おいしい。巨樹たちの林立が姿の見えない大仏のパワーを暗示しているようにさえ思いました。
 強靭な根は地中で猪苗代湖の水を飲んでいるのかも。「東北にクスはなくともケヤキがあるぞ」と、そう主張しているようにも感じました。

「清水川の梅花藻」

 これから新潟の大部分を走破しなければ……とか言いつつ、もひとつ寄り道してしまいました。
 徒歩数分の距離にある「清水川の梅花藻(バイカモ)」。ちょうど小さな白い花をつけていました。
 ごく普通の住宅の間にこうした光景が見られる。この水の量と質が巨樹たちを育んだのだろうと納得がいきました。

4件のコメント

  • RYO-JI

    主幹が上部で欠損しているようですが、それでも幹周10mに迫るケヤキの迫力は流石ですね!
    樹齢が550年でもまだ量感が特定の域に達していないとは、巨樹の世界には桁違いの怪物が潜んでいることを表していますね。
    というか、そう感じる狛さんがそういう存在をいくつも目にしているということでもありますね(笑)。
    そして意外にもアッサリ紹介が終わったなぁと思っていたら、なんと!他にもいましたか!
    サイズだけ見ると脇役になってしまいがちですけど、ナンバーツーもかなりの大物。
    おまけにエノキまで。
    これだけ揃うとなると中地大仏のご加護かなぁと思いましたが、梅花藻まで(一度見てみたいと思っているやつ)。
    住宅街でも綺麗な清水川が巨樹をも育んだという考察もおおいに納得ですね。

    • RYO-JIさん
      ケヤキ巨樹のポテンシャルにも底知れぬものがありますね。
      RYO-JIさんと探訪した「専福寺のケヤキ」も超越的なケヤキ巨樹のひとつだと思いますが、そのクラスのものは大なり小なり大怪我の記憶が見て取れますね。
      言われてみれば、「そこまでいかず」……というのは、「まだ行ける!」でもあり、「主幹ちゃんとしてるワー」でもあるんだなと。

      このお寺は完全に「ゾーン」でした。到着した時からすでに複数本の巨樹が視界に入るので、見たり撮ったりも軽くツアーみたいになっていきます。
      ナンバー2のケヤキも良い巨樹でしたが、エノキがあったのも個人的にお得感満点でした。
      梅花藻も暑いさなかで涼し気で、思わず旅足を止めさせるような良い環境でした。

  • to-fu

    これは何とも贅沢ですね。
    茸の付着が宿命のように付きまとうエノキもきれいで、是非とも新緑の時期に訪れてみたいものです。
    まだ緑が新緑の鮮やかを保ち梅花藻まで開花している。あの遠征は何から何まで本当にベストな時期でしたね…
    こちらで梅花藻の花を見ようと思うと滋賀県の醒ヶ井が有名なのですが、それなりに混雑するようでまだ見たことがありません。
    たまには100mmマクロでマクロらしい撮影をしてみたいのですが 笑

    しかし疫病からの大地震、そして日照り。もう大仏建立しか手段はないんじゃないですかこれ。

    • to-fuさん
      まだまだ危なげなく立ち続けてくれそうな大ケヤキ、大エノキでした。
      ここの前に猪苗代湖の浜でパンをかじって存分くつろぎ、43ミリのキャップを紛失しかけたりし、その上でのこの巨樹ゾーンなので、もうほんとここで帰っちゃっても満足だなと思った……のも分かっていただけるかと(強引)。
      実際のところ猪苗代湖一周も良かったはずですが、こいつはなかなか有望だぞ、駆け足だと勿体ない、と思ってしまったのもありました。
      昔の人の感性だと、必ず起きるとわかっている南海トラフだけでも大仏建立してしかるべきですよね。そう、言われてみれば、建立しないのが不思議なくらいです。

      ここの梅花藻はホントに住宅の間の小川にあって、え、こんなとこに? と驚きました。
      這いつくばってマクロしてたらゴミ捨ての人に踏まれたかも。笑

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