巨樹たち

富山県魚津市「黒沢稲荷の大杉」

全方位で立山杉に驚嘆する

 翌日に「洞杉群」への二度目のアタックを控え、富山県魚津市で前哨戦。
 ……と呼ぶには勿体ない大物に出会ってしまいました。

 魚津駅前から車で20分ほどののどかな地区。
 この先にあるという「大沢の地鎮杉」とともにチェックはしていたものの、比較的知名度が低い巨樹のようだしぃ……くらいのテンションでした。
 しかし、ナビが現地到着を告げるよりもだいぶ早く、何者かが放つ強力な引力に振り向かされる。
 残距離にして500メートル(望遠で撮ってます)。それほどに離れているというのに、このスギは周囲からくっきり際立って見えるではありませんか!

 撮るうちに気持ちを高められればいいかな……なんて、とんでもない。
 遠景全体像ヒューマンスケールがベストショットになる巨樹は案外限られているものですが、この「黒沢稲荷の大杉」も間違いなくその一本。

 ここまで近づいてしまうと、超広角でムリをしても収まらないし! ダメだ!
 (19ミリにて仰ぎ撮っていますが、バランスを崩すと即背面田んぼダイブ。)

 大きく張り出した枝に惚れ惚れします。
 言うまでもなくこれは積雪のために分岐や湾曲を繰り返すウラスギですが、「これくらい太くしておかないと雪の重みを支え切れない」とでも言うかのよう。
 逆に言えば、「どんな雪の重みにも立ち向かってやるぜ」という意気込みのようにも感じられます。
 山形県「高沢の開山杉」にも似ていますが、このスギの方が樹高が高い。

 ウラスギの中でも、土地柄を採るなら、かの有名な「立山杉」となるでしょう。
 株立ちに思えるようないびつなウラスギも多々ある中で、この樹は周囲8メートルを超えるという主幹がどっしり地を掴んでいる。

 かつての落雷で樹高が低くなったそうですが、いたって健康的、躍動的な質感と色彩がたまらなく良い。
 仙台から480キロ走ってきたこちらもぐんぐんやる気を掻き立てられます。
 いやほんと、手前500メートルで目に入ったとたん、疲れと眠気が吹っ飛びましたから。
 立山の巨杉は変なエナジードリンクよりよっぽど効く!

 どの角度から見てもウロや不朽がないのがまことにお見事。
 推測として、「スギのそばに社を建てたはいいが、これほどまでに大きくなるとは……」のパターンでしょうか。
 今しも接触せんか、しかしもちろん勝つのは大杉の方でしょう。

 社の雪除けの中に入ってみると、こんな額がありました。
 初めて見ましたが、御神木指定なんてのがあるんですね。

 神木登録され、大切にされるのはむろん良いことですが、あえて書いておきたいのは、これほどの立山杉の巨樹が何の天然記念物にも指定されていない、という事実。
 「黒沢稲荷の大杉」という名称にしてもGooglemapに合わせたに過ぎず、参考各資料やサイトごとにバラバラ。
 魚津市、それでいいんですか!? 

 という事情で解説板のたぐいはありませんが、周囲から敬われ、大切にされていることは十二分に伝わってきます。
 これほど巨大で健全、美しくすらある巨杉を誰が粗末に扱えようか。自分などはそう感じてしまいます。
 生存のためには手段を択ばない洞杉の驚異の形態とは同地域ながら方向性を異にしていますが、こちらも間違いなく「必見の巨杉!」と太鼓判を何発も押せます。
 うむ。どう考えても、これはとてもよいぞ。またすぐ魚津に行きたくなってしまった。

「黒沢稲荷の大杉」
 富山県魚津市黒沢
 黒沢稲荷神社
 推定樹齢:不明
 樹種:スギ
 樹高:30メートル
 幹周:8.3メートル

 訪問:2024.6

探訪メモ:
 農道が細く、用水路にも注意。隣地に1台停められるスペースがありますが、非公式。
 DBや各資料での幹周は7メートルとされている一方、先人先生の実測に8.3メートルともありました。個人的にもこちらの方が近いかと。
 1キロと離れていない「大沢の地鎮杉」と必ずセットでご訪問を。

4件のコメント

  • to-fu

    ああ、やっぱり無理してでも行くべきだったなあ…とため息が出ました。誇張表現ではなく本物のため息です。
    これは凄い。あの「中村の大杉」の解説板にこのような低地に立山杉が育つことは珍しいと書かれていましたが、
    もっと低地にあるじゃないか!それもこの大きさ。うーん、何で無指定なんだろう。学術的にも価値がありそうです。
    超広角で接近戦に持ち込むもヨシ、望遠で朝日や夕日なんか絡めて作品っぽく撮影するもヨシ。色々な表情が楽しめそうです。
    もし近所に生えていたらコーヒーセット一式抱えて通ってしまうでしょうね、この巨樹は。
    しかしこれでまた魚津に行く用事が出来てしまいましたよ 笑

    それにしても、あの馬鹿みたいな大雨の日に地面が乾き始めてるってどんな奇跡なんですか?
    この大杉に呼ばれていたのかもしれませんね。

    • to-fuさん
      反対に、疲れを振り切って魚津に突っ走って良かった、洞杉後の充足感含め、それ以外の順序では無理だったなコレ……と回想する自分です。
      この日、新潟はずっと豪雨で、あきらめムードでみそラーメン食べながらスマホを見ると、魚津だけは奇跡のバリアーに覆われているだと!? 急げッ! と。
      撮っている際中に遠雷が鳴って降り始めてしまうんですけど、幸運でした。

      無指定な上、例によってほぼリサーチしていかなかったので、これほど素晴らしい立山杉だとは思いもしませんで。
      どっちかというと「地鎮杉」のサブとして寄ったというような感じで、巨樹には失礼だったかもしれませんが、なおさら興奮は倍増しました。
      この樹をより良く捉えるにはどうしたらいいか、この一本杉的周囲風景も含め、しっかり撮らせてくれ! と意気込ませてくれる巨杉です。
      to-fuさんにもぜひ見て頂きたい。魚津界隈はまだまだ見どころ多いと思いますし、自分もまた旅路を向けたい……というか、ほぼ「すぐ行きたい」に近いですが。笑

  • RYO-JI

    『あぁ、そうか~、そう撮れば良かったんだぁ』
    冒頭の遠景全体像ヒューマンスケールショットを見てまずそう思ってしまいました。
    今からでもそのショットを撮りに行きたいくらいに悔いてます。
    しかしまぁそれはともかく、私もこの大杉はまた見に行きたいと感じる存在です。
    現地で狛さんが絶賛されていたんで、翌朝に突撃して本当に良かったです。
    早朝だったこともあって、静かでとても有意義な時間でしたもの。
    魚津行きの前に周辺の巨樹はほぼ調べなかったこともあって、余計に驚きと共に魚津の潜在能力の高さに感心しました。
    それだけに無指定で名称も定かではないのは少し残念ですねぇ。

    • RYO-JIさん
      洞杉のその後に訪問されたと聞き、RYO-JIさんタフだなあと。というか探求心がスゴい。自分としては洞杉群でかなり満足してしまって。笑
      衝撃的だった遠方からの初見の印象のままに、まずヒューマンスケールを撮りに走ってしまいました。
      これだけ周囲が開けている、標準や望遠で歪みなく撮れるというのも、シンプルでありつつ、実は巨樹にはなかなかない好条件ですよね。
      落雷したと聞きましたが、それでもなおここまでの樹高で立っていることに拍手を贈りたいです。
      これほどの巨樹が無尽蔵にあるとは思いませんが、魚津にはまだ秘められた魅力がいっぱいありそうな予感がしますよね。
      うーむ、じっくり腰を据えて滞在して回ってみたいもんですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA