巨樹たち

岩手県盛岡市「らかん児童公園の栗割り桜」

あれっ……サクラじゃない!

 岩手県どさくさ花見旅行。
 有名な盛岡八幡宮へ向かう道すがら、運転中に偶然見つけたサクラです。
 何やら公園があるなあ……の次の瞬間には、太い幹と満開の花に目が釘付けになっていました。
「あのサクラ、でかくない!?」
 思わず口をついて出た言葉がそれ。
「巨樹……未確認巨樹だア!」
 とりあえず盛岡八幡宮の広い駐車場に車を預け、小走りで向かってみました。

 この公園は「らかん児童公園」というらしい。
 写真を見た方は「何なのだここは?」と首を傾げられたでしょうが、自分も車窓から同じように思いました。

 人の背丈より大きい羅漢の石像に、公園の広場がぐるりと包囲されている。
 盛岡市のサイトによれば、16体の羅漢像と5体の如来像があり、市から有形文化財として指定されている。
 元々ここはお寺だったようで、盛岡藩を見舞った大飢饉を弔うために1800年代中頃に住職が建立したものらしいです。
 現在では石仏マニアの方が注目する他、名所というより珍スポットみたいな雰囲気かも。

 話を戻して……現地の道から見あげても、期待通りの大桜。
 奥州市「北館桜」など、エドヒガン系の桜巨樹にも劣らない……というのは言いすぎとしても、その幹周は4メートル程度は十分ある。
 樹高も15メートル以上あるでしょう。
 半身は枯死しているのか、道側にだけ花をつけていますが、その樹勢はとても……

 …………?

 この辺りで、何とも言い難い違和感が疼き始めています。
 確かに大きい。見事な満開。サクラの巨樹として大したものだ。
 そう、一本幹の……サクラとはとても思えない……ごつごつした樹皮……

 あれっ……?
 アンタ、そもそもサクラじゃないな!?

 正面に回って名板を確認して愕然としました。
 「栗割り桜」、とだけある。
 フーン、なにがし上人サンがここで栗饅頭でもこしらえたかねえ……なんてイマジネーション豊かにしてる場合ではない。
 偶然にもベストシーズンでの遭遇でサクラに目を奪われてしまいましたが、「名は体を表す」、つまり……そういうことですよ。 

 クリが割られている。サクラのせいで。
 枯死してしまっている……? 
 いや、枝の先にちらほら残っている枯葉は、寸前の季節の営みを示すものでしょう。

 データは何ひとつありませんが、おそらくはお寺時代の生き残り。
 「飢饉を弔う羅漢像」は象徴的で、もちろん将来の飢饉を見据えて植えられたクリだったと推測すべきでしょう。
 となると、クリの推定樹齢は少なくとも羅漢像と同等の170年以上だと言える。
 こちらも元お寺のタンバグリ、宮城県「日根牛の大クリ」が幹周5.5メートルで樹齢350年とされているのを考慮すれば、250年くらいの推定樹齢を設定されてもおかしくはないでしょう。
 (盛岡藩において、江戸時代の250年間に76回も飢饉があったという……)

 天然記念物指定されていない、マイナーかつイレギュラーな存在。
 しかし、巨樹基準を満たすクリといい、見事な咲きのサクラといい、素通りするのは勿体ない! と断言できます。
 何かの縁あってこの時期に出会えたのだとも感じ、妙に愛着が湧いてきました。

 公園自体も、石像のおかげで一種珍妙な雰囲気ですが笑、広々としていてベンチで一休みするのに居心地良い。
 こんなお花見でも良いよなあ……いや、こんなのこそ良いんだ、としみじみ。

「らかん児童公園の栗割り桜」
 岩手県盛岡市茶畑2丁目1−26
 らかん児童公園
 推定樹齢:不明
 樹種:クリ/ソメイヨシノ?
 樹高:20メートル(目測)
 幹周:4メートル(目測)

 訪問:2023.4.8

探訪メモ:
 2023年の桜は二週間ほど早かったそうなので、例年なら四月下旬が見ごろかも。

 現在ではごく一般的な街中の公園なので、駐車場はありません。
 盛岡八幡宮に参詣がてら、徒歩で見に行くのが良いと思います。

 このサクラについて考えてみるのも、実に面白いと思います。
 こんなところに人の手で植えられたはずはないから、鳥に種子が運ばれて発芽したものでしょう。
 花と同時に葉が出ていないのでヤマザクラではない。
 これだけのボリュームがあるのはまずソメイヨシノでしょうが、よく知られているようにソメイヨシノは全てクローンであって、接ぎ木や挿し木をしないと増えない。受粉して種子ができても発育しないらしい。

 ところが、ソメイヨシノと他の品種のサクラが交配した場合には、ちゃんと育つ種子ができるという。
 つまり、この栗割り桜も純正ソメイヨシノではない可能性が高い?
 確かに公園内にある立派なソメイヨシノと比べると少し花色が淡いようにも感じました(気のせい?)。

 まあ、この「雑種」「交雑」も、サクラ業界では驚くほどのことでもないようですね。

2件のコメント

  • RYO-JI

    ほぉ、こんな変わった桜があるんですねぇ。
    着生植物はそれこそ沢山見てきましたが、まさか桜がソッチ側に回るだなんて・・・。
    我々人間なんかよりもよっぽど順応力が高いじゃないですか!
    そしてそんな魔訶不思議な事象が起こった真相を知りたくて仕方ないです。
    並みの映画やドラマよりもそっちの方がよっぽど面白いと思いますよ。

    そして何よりこれを見逃さなかった狛さんの察知能力も素晴らしい!!

    • RYO-JIさん>
      素晴らしい桜巨樹に出会った! と歓喜もつかのま、大いに色物でした。笑
      クリの木はかなり迷惑でしょうけれども、サクラ並木みたいに増えてよかった花見だワーイ! が人間サイド。
      実際、頭上を覆う満開はかなり見事でした。
      この時期は桜が目いっぱい派手に咲き誇って、新緑の時期はともに濃い樹冠を形成するんでしょうかね。
      夏にも見てみたくなる巨樹ですが、この先何十年か経ったら、果たしてどんな姿になっちゃうものでしょうかね。
      上半分がサクラに乗っ取られてしまうとか……。
      気に留めておきたい巨樹だとも思いました。

RYO-JI へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です