巨樹たち

宮城県東松島市「笠松」

ブルーインパルスの松

 2023年の巨樹初め……というか、長きに渡ったコロナ禍からの再出発というイメージを持って向かったのが、宮城県東松島市。
 松島こそ日本三景として全国的に知られていますが、仙台市の周辺市街を抜けて北上する道のりは、しばし山野に田畑ばかりの風景が続きます。

 目的地近辺は見渡す限りの広大な平野。
 地図を見た以上、先の震災で大津波が全てを薙ぎ払っていった土地だと理解しないわけにいかない。
 宮城県南部の山本町付近などとも共通する寂寥が感じられる……。

 どこまでも青い冬空の下に、ポツンと一本だけ、浮世絵に描かれたような見事な松の樹が立っています。
 これが今回の樹、その名の通りの「笠松」です。
 江戸時代にあった石巻街道脇の松並木の生き残りらしく、松尾芭蕉「奥の細道」(1702年刊だそう)にも「名木あり」と記されているとか。とすれば、400年もの樹齢があることになります。

 田んぼの真ん中に松のための土地が残され、一帯が丁寧に草刈りされている。この松がいかに大切に思われているかが伝わってきます。
 巨樹として見るには迫力に欠けるか……と予想していましたが、ごつごつした樹皮といい、うねって立ち上がる幹といい、見応えがあります。  
 比較対象が全くないので三脚据えてヒューマンスケール写真を撮っていると……

 突如、右手から轟音!
 振り向けば、あ、あれは……ブルーインパルス!?

 実は、すぐ東側が航空自衛隊の松島基地で、ブルーインパルスが日常的に訓練飛行を行っているのです。
 離陸シーンまではっきりと見える。
 すごい迫力! と、思わず長くもないレンズを向け、速くもない連射で撮ってしまう。
 か、かっこいい……。

 いや、待って。ただの訓練でしょ?

 と、硬派な巨樹ファンの私は再び淡々と笠松に向かいます。
 古びて苔むした枝ぶりと対照的に、豊かな松ぼっくりの実りが今も健全であることを示し、実に微笑ましいではありませんか。

 ……と、その頃、ブルーインパルスは蒼穹に☆や♡を描いておりました。
 フォーメーション飛行凄すぎるんだけど!
 こんな一大ショー、観ないわけにはいかないじゃないですか!!

(現場の空気感を豆動画でもどうぞ。)

 ……まったく予想外、思ってもみなかった強いインパクト。
 これが今回の感想です。

 前述のように、10年以上経った今でも被災地という印象が強い土地。
 果たしてポジティブに向き合えるのか、朧げに不安を感じていたのだと思います。
 調べてみると、津波はより北にある国道45号をも超えたそうで、当然この笠松も波を浴びています。
 しかし幸運にも持ちこたえ、地元の方の手厚いケアもあって、現在もここまで美しい立ち姿を見せてくれている。
 ブルーインパルスにしても、機体を流されるなどして大きな被害を受けたものの、知っての通りの活躍ぶり。

 昔と今。
 災厄を乗り越え、歴史は綿々と紡がれていく。
 笠松は、まさにそのことを実感させてくれる名勝でした。

「笠松」
 宮城県東松島市矢本笠松
 推定樹齢:400年
 樹種:クロマツ
 樹高:10メートル(目視)
 幹周:2メートル強(目視)

 訪問:2023.1

探訪メモ:
 田んぼへと降りる未舗装路があって、下に車を停めました。
 ブルーインパルスの飛行が始まると、路肩に停めて見物する人もちらほら。
 飛行スケジュールはWebで調べられるとのことです。

4件のコメント

  • to-fu

    おおお…これは。
    何よりもまず周辺の風景を見てショックを受けました。
    そりゃあそうですよね。たった10年で元通りになどなるわけがありません。
    (しかしホント、あの特別復興所得税とやらは一体どこに消えてるんだ?)

    この笠松さん、よく無事に生き残ってくれたものです。例のサイボーグ松なんかより余程奇跡の一本ですよ。
    自分だったらどう向き合うだろう、どう撮るだろうと考えてみたのですが、きっとシャッターを押すことが
    出来ずそのまま帰路についていたと思います。もし撮っても確実に日の目を見ることのない全ボツだろうなと。
    今は東北で暮らす狛さんだからこそ向き合えた景色であり、巨樹だったのでしょうね。これは撮れないわ…

    あ、せめてブルーインパルスを撮りまくってやる!と息巻いて連射していた可能性が高いですね 笑
    航空ショー的なものはたまたま見かけたことしかありませんが、オトコノコとして生まれた以上は
    一度くらいカッコいい飛行機写真を撮ってみたいものです。撮らないままオジサンになってしまいましたが。

    • to-fuさん>
      冬の田んぼは寂しいもんだ……とだけ言えなくもないですが、現地に行ってみると、やはり「元に戻らなかった」風景を意識してしまいますね。
      津波が襲った土地で生き延びた巨樹があるとも思えず、あったとしても急速に衰えるのが常ですから、リサーチ段階から除外しがちです。
      その上松の名木とくれば、ただでさえ3年5年先が不安な存在でもあります。

      Googlemapで現存を確認しつつ、まだ乗り気ではなかったんですが、この松は良い意味で予想を覆してくれました。
      良い松。姿は変わらず美しく、予想よりも壮大。土地の人が大切に思っていることが伝わってきます。

      ブルーインパルスは大きなオマケでした。まさかホント見られるとは思ってもいなかったですし。苦笑
      ホントに頭の上を飛ばれると、ただスゲースゲー! と撮らずにはいられなくなるもので。単純です。
      笠松はここからずっと一歩も動かないわけで、いっそセットで! と強く思った次第です。

  • RYO-JI

    2023年巨樹初め、いやお久しぶりの巨樹撮影おめでとうございます!
    私はコロナ禍のなんだかんだに加えて腰痛がアレなもんでまだ当面復帰できそうにありませんが、
    こうして狛さんが巨樹を再開されたのを知ってとても嬉しく思います。

    広大に土地に見事な樹形の松、素晴らしいですね。
    もちろんここは震災による被害を受けた土地であり、そこで暮らしていたであろう人々のことを思うと心が痛いですけど、
    それでもシンボルであった松が元気に生き残っている平野を見ると力が湧いてくるような気がします。
    地元の方々にはきっと私が思う以上に心のよりどころとなっている存在なのかもしれませんね。
    この先もずっと力強い姿を見せてもらいたいものです。

    そしてブルーインパルスの飛行に巡り合えただなんで復帰戦にしては上出来過ぎますよ(笑)。

    • RYO-JIさん>
      ありがとうございます! ずるずるとやらない理由を探してしまいがちでしたが、改めて、巨樹を捜し走るのは良いものですね。
      腰痛、長距離運転には辛いですよね……早い完治を祈っております。

      松は潮に強い樹種ですが、いくらか検索してみると、津波で根上がり状態になっていたとか、傾いていたとか……。
      これほど他に何も見当たらない中で今も生き続けている姿に、素直に感嘆しました。
      周囲の草刈りなどの手入れも行き届いているし、ダメ押しでブルーインパルスが入ってくると、「今を生きている」のだととても強く実感できます。
      まさに地域のシンボルとして、ずっと長生きしていってほしいものです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA