巨樹たち

福島県いわき市「中釜戸のシダレモミジ」

暗黒舞踊するモミジ

 2015年11月、唐突に思い立って茨城県の太平洋側を出発し、山形県で「山五十川の玉杉」と日本海を拝みました。
 深夜、月山辺りででガス欠になりかける、車中泊初心者で無闇にドキドキするなどしつつ、早朝、福島県いわき市まで降りてきました。
 房総ではまだまだですが、縦長の茨城一個を挟めば季節も変わろうというもの。
 秋、立ち寄っておきたい巨樹といえば、モミジです。

 モミジは公園とかお寺とか、ゾーンとして認識される方が多いですね。
 巨樹として名前付きになった単木のモミジは、本をめくってもそれほど多くはないようです。
 ここにあるモミジは、幹周囲もさることながら、その個性で知られている。
 「中釜戸のシダレモミジ」です。

 大きさというより、その珍しさから国の天然記念物指定されている。
 名勝の扱いで、ちゃんと専用の駐車場もあります。
 雨の中、かかし軍団がこっちを見ていて、ちょっとビクっとする。
 よほど来客が見込めるのか、屋台まで作られていたようで。売っていたのはモミジ饅頭……じゃないよな。

 奥に観音堂、竹林、そしてシダレモミジが見えてきます。実に絵になる風景。 
 モミジの樹は2本あり、どちらもうねうねと枝を広げていますが、向かって左の樹が特に大きく、うねうねぶりも凄い。
 古木・名木と呼ぶ方がふさわしい樹でしょうが、幹周囲は3.5メートルほどあるそうで、ちゃんと巨樹の基準も満たしていることになります。
 推定樹齢は400年とのこと。珍奇な樹であるので、記録も多いことでしょう。

 シダレザクラを筆頭に、シダレ○○は色々な樹種で存在している。
 遺伝子的な突然変異が原因で、枝を硬くする植物ホルモンが不足するのが原因のようです。
 劣勢遺伝で、意図的にシダレの樹を増やそうとしても必ずそうなるわけではない。要するに、珍しい。
 が、昭和初期には、シダレているだけで国指定天然記念物にしちゃってたんじゃ? ……というのは、もちろん個人の感想です。

 しかし、このシダレモミジの、幹や枝のうねりようと言ったら。
 樹皮の白さと紅葉があいまって、部分を切り取っても絵画のように味が出ます。
 いろんな角度から撮って飽きない、被写体として大変面白い樹だとも言えます。

 ぐっと寄って主幹だけを見ると、かなり奇妙な存在感があります。
 バネのように抵抗を帯びながら伸びていったかのような……樹木でありながら前衛舞踏芸術的な躍動感すら感じました。

 いや。腕を広げた威容は、むしろ岡本太郎の彫像作品をホーフツとすべきか?
 推定樹齢と特別な遺伝変異にもかかわらず、葉の着きも良い。
 実に味わい深い巨樹でした。

「中釜戸のシダレモミジ」
 福島県いわき市渡辺町中釜戸表前117−2
 推定樹齢:400年
 樹種:イロハカエデ
 樹高:6.8メートル
 幹周:3.5メートル

 国指定天然記念物
 訪問:2015.11.23

探訪メモ:
 紅葉ピークには混雑するかも。
 外国の方も来るのか、標識に「Weeping Maple(しだれもみじ)」とあったのが大変興味深かったです。ウィ……そう言うんだ……。

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