巨樹たち

秋田県湯沢市「川連のホオノキ」

日本最大のホオノキ

 その存在を知ってから、どうしても見たかった樹です。
 「川連(かわつら)のホオノキ」。発見されている中ではおそらく日本最大のホオノキの巨樹です。

 秋田県最南の湯沢市、秋ノ宮温泉の近くに川連地区はあります。
 道中の山道でもホオノキをいくつか見かける土地柄。ホオノキは葉っぱが大きいのでよく目立ちます。

 その巨大な姿は、遠目にもよく目立ちます。
 比較すべき樹木が周囲に生えていませんが、質素な神社を覆い隠すほどのその気配。
 「あれなのかな?」とは決して言わず、最初に目に入った途端、「あれだ!」というような。これぞ巨樹。です。

 ホオノキは落葉高木ですが、巨樹(地上1.3メートルの幹周が3メートルを超える)として認識されているものはかなり少ない。
 ましてや幹周10メートル以上もあるものはこの「川連のホオノキ」だけのようです。

 幹は大きく根元で二又に分かれ、ほぼ均等なバランスで成長しています。
 株立ちとも、分岐しやすい性質があるようにも感じるたたずまい。柔軟に根元で融合していて、ものすごい塊感。

 ホオノキの外見的な特徴は何と言っても、日本在来の樹種で最大ではないかという、この大きな葉です。
 差し渡し30センチ以上もあり、いい香りと殺菌作用があって、厚手で丈夫。
 寿司や餅や弁当を包み、有名な朴葉味噌なんかにも使う。田舎的風情があっていいですよね。

 コブシ、ユリノキ、オガタマノキなどと同じモクレン科であり、これらと同様に多彩な特徴を持つ。
 花もゴージャス。ぜひ6月頃訪ねて、白い大きな花が咲いているところを見てみたいものです。
 花が終われば実がなる。中央付近に写っているトゲっとしたものがその実です。 

 他にも、多感作用(アレロパシー)が強く、根から放出される物質によって、他の植物の成長を抑えるという性質があるとか。
 写真の中、一本だけ樹皮の違う細い幹がありますね。
 おそらくブナ科(ミズナラ?)だと思うのですが、このホオノキの根元からよく生えて来たな、といったところ。
 成長速度の違う二種ですが、ホオノキが飲み込んでしまいそう。

 大きく広がった枝の間に入ってみると、まるで大屋根のように大きな葉が頭上を覆い尽くす。
 圧倒されるよりも、この時はすごく安心感を感じました。

 思うに。
 こういう感じを味わったがゆえに、古代の人は、ホオノキの大きな葉で屋根を葺いたり、敷物を作ったり、食器代わりに使ってみようと思ったのでしょう。
 森や原野でひとりで暮らさないといけないとしたら、僕はこの樹の根元にいたいな、と、そんなことを思いました。

 推定樹齢は500年以上とされている。
 ホオノキの樹皮はきめ細かいとされますが、高齢ゆえか、ところどころ割れたようになっており、反対側の根元は空洞になっている箇所もあります。
 しかし、樹勢は見るからにかなり盛ん。葉が主張する分、生命力に満ち溢れているように見えます。

 樹高は10メートルとありますが、実際はもっと高いと思います。
 道しるべだったということは、やはり昔から周囲はこういう開けた光景で、目立つ樹だったのでしょう。

 大花の開花を待ったり、葉っぱを拾ったり、一年を通してこの樹と付き合えたらさぞ素敵だろうと思います。
 「見られて良かった」と思うのはいつものことですが、「また絶対見に来たい」と思う樹はやはり別格。
 日本一のホオノキとして、ぜひとも末永く元気な姿でいて欲しいと願います。

<2020.10再訪>

 2020年秋、再び秋田南部の巨樹行に出かけました。
 秋田へ北上する際、真っ先に思い浮かんだのがこの大ホオノキ。実際アクセスも悪くありません。

 強い雨の中再会したホオノキは、季節柄ほとんど落葉していましたが、その大きさゆえに遠くからも見間違うことがない。
 ああ、やはりこの樹はすごい……と、あの大きな葉がなくとも感慨深い。

 落葉の時期がずれることで、着生?しているミズナラ?との区別が明確です。
 こちらも大きくなってきていますが、ふと、「このミズナラも天然記念物に含まれるのか?」と疑問に。
 ぱっと見問題はなさそうですが、取れるなら取ってあげたほうがよさそうにも……。

 他に類を見ない大ホオノキ。
 スギならば似た背格好のものがいくつも挙げられるでしょうが、この巨樹には「要するにアレだ」というショートカットが存在しない。
 この唯一感、素晴らしいと思います。

 今回、川連の集落内を走っていて、他にもかなりしっかりしたホオノキを見かけました。どうやら墓地に植えてあったようです。
 ユリノキなどもそうですが、壮大な葉姿に花、実も付くモクレン科は四季折々で楽しい。
 また違った時期に訪ねたいです。

「川連のホオノキ」
秋田県湯沢市秋ノ宮川連 
千代世神社
推定樹齢:500〜600年
樹種:ホオノキ
樹高:10メートル
幹周:10.7メートル

市指定天然記念物
樹種(ホオノキ)幹周全国1位
訪問:2016.7、2020.10

 探訪メモ:
 道の難は特にありません。
 神社前に1、2台分スペースがあるので、停めさせていただきました。

 ホオノキの分布は全国に渡るとのことですが、そう多く感じません。
 針葉樹と比べて商業価値の低い広葉樹は
大径木ですらパルプやチップ行きにされる。
 ホオノキのような樹種はことさら雑木扱いにされてしまうようです。

 水に強く抗菌作用のあるホオノキの材は、古来はまな板やおたまなどに使われていたそうです。
 ホオノキのまな板なら包丁が錆びない。おたまに使えば豆腐が崩れないとか。
 最近はやりの「多様性」がここでも重視されると良いですよね。

6件のコメント

  • to-fu

    山神社のホオノキにも驚かされましたが、こちらもまた違ったベクトルで驚かされました。ホオノキで幹周10mってどういうことだよと。葉っぱの形状を見ると間違いなくホオノキなんですが、いざ実物を見たらホオノ…いや、流石にこの大きさだしトチノキだよな?と困惑しそうです。こんなものが集落ど真ん中に生えているなんて。これはまた生きているうちに絶対訪れたい巨樹リストに新たな1ページが追加されました。

    しかし湯沢市か。嫁の実家からも恐らく150kmはあるんですよねえ。問題はそれだけの自由時間を与えてもらえるか、というところでしょうか 笑 一人お忍びで遠征する方が現実味があるかもしれません。湯沢まで行くならそのまま山形辺りの巨樹も堪能したいですからね。

  • to-fuさん>
    改めてご覧いただきましてありがとうございます。
    この時は東北って凄いなあという衝撃をこの樹から受けました。
    よもや東北にこれほど近い距離感になるとは思ってもみませんでしたが……。
    こちらからもさすがに泊まりになるとは思いますが、時期が良い時に必ず再訪しようと思っています。
    湯沢市は最南ですもんね。笑 山形と絡めるのは正しいと思いますね。こう地図を見ると、日本って広い。

    渡辺本にも載っていたと思うんですが、やはり主役樹種から外れているからでしょうか、そこまで注目されていない印象です。
    確かに、ここまで大きいと、森の中では一瞬トチノキ?と思ってしまいそうです。
    トチのゴツゴツした豪快な感じはしませんが、ホオノキの葉っぱの天蓋はすごく包容力がありますね。
    好きな樹種です。注目して他の樹も巡ってみたいと思いました。

  • to-fu

    ホオノキといえばやはりあの巨大な葉…いやいや、とんでもない。落葉していても充分に見応えがありますね。この寒々しい姿がむしろ東北の冬の訪れを感じさせてくれるようで、写真を眺めていて軽くブルブルッと背筋が震えましたよ。本当に。しかしこのサイズ、落葉していると尚更お前は本当にホオノキなのかよと疑いたくなってしまいます。

    今年の冬は例年どおり近場のクスやスギなど常緑樹のお世話になろうかと思っていましたが、こうやって見ていると落葉したケヤキやトチノキなどを眺めに行くのも悪くないかも、と思えてきます。ベストな姿を見るのはもちろん素晴らしい体験ですが、敢えてそうでない時期に訪れることで得られるものもありそう。おかげさまで冬を楽しむヒントを得たような気がします。

    • to-fuさん>
      どういう樹形をしていたのかよく把握できましたし、葉がなくともこれだけ迫力があるのはさすが巨樹。でした。
      幹にも凄みがあり、やっぱり普通の樹じゃないなあと惹き付けられます。
      冬場の巨樹訪問は、単に寒いしなあ、コタツにいたいなあ……というのもありますが笑、葉が落ちてなおサマになるという樹もたくさんありそうですよね。
      そういうのを探してみるのも楽しそう。もちろん、常緑に助けてもらうのもアリとして。

      足下には森の中のようにたくさんの巨大な葉が落ちていました。一晩で全部落ちて、そこからはもう冬という感じ。
      その通り、ずっと空は暗く風も雨も強かったので、いきなり上下カッパに長靴でした。
      この時期になってくると、雪景色の巨樹も気になりますね。

  • RYO-JI

    ホオノキとは思えないデカさですよね。
    落葉した裸の状態だと絶対にホオノキだと思いませんもの。
    強い日差しの下、青々とした大きな葉が茂る様子を見上げると、トチノキと同じような心地良さを感じるので好きな樹木です。
    そしてこの写真を見て嫌な用事を思い出しました。
    我が家のホオノキも盛大に葉を落として庭がエライことになってて、それらをすべて回収、廃棄しないといけないのです。
    夏場は立派に見えたホオノキも今は裸で貧相に見えて仕方ないですが、このホオノキは裸だろうがスゴイ存在感で圧倒されます。

    • RYO-JIさん>
      確かに、葉がない時期に出会ったとしたら、これは何の巨樹だろう……と思うかもしれませんね。
      だとしたら、何と勘違いしそうか。うーん、でも、なかなか独特な感じがあって、悩みますね。

      都合何度も書いてますが、僕もホオノキは好きです。
      巨樹といえばスギ……というか、日本の樹といえばスギみたいなもんですが、全く対極の魅力を感じます。
      庭があったら植えたくなりますが、なるほど。笑
      あの葉はかなり丈夫ですしね。冬の前の一仕事ですね。
      でも、季節感があって、それもそれでいいなあ。と。

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